第14話 歪んでいく世界

「.....そもそも君の父親もふんぞり返って大概だったね。.....だから死んでも良かったんだが。残念だ」


「.....」


10年前の大水害の時。

コイツはその時の親父が流れる激流から人を救っているところを見捨てたクソ野郎だった.....この街の町長じゃない元町長。

ソイツが信じられない事に春香のお見合い相手の息子の親父だった。


しかも政治家に成り上がっている。

俺は久々に血の気が.....上がる感じがする。

マジにブチギレそうな感じがした。

春香も玄関先で怒りに震える。


「高橋さんも息子さんも.....そんな.....事をしていたの.....?」


「まあそうだね。嫌な奴にはそれなりの天罰は必要だろう」


「.....このクソ野郎.....」


今現在俺は春香の家の玄関先に居る。

春香は涙を浮かべて、そんなの.....、と言っている。

俺は眉を顰めながら.....目の前の、高橋功夫、という人物を見ていた。

コイツだけはマジに許せんと思える。


「何故に監禁とかしていなかったか分かるかな?そして春香さんが今になって全てを話した理由。それを私が説明してあげよう。.....先ず全ての発端は私は君のお父さんに恨みがある私だ。春香さんは私の権力で黙らせていた。今でも君の事を観察などで都合が良いから利用させてもらっていた。自治会長だった時に散々私を、町長として素質が無いダメだ、今の現状がダメだ、などと散々否めてくれたクソ野郎。.....計り知れなく許し難いものだった。その中で資金提供をお願いされた春香さんのご両親を利用させてもらったのもある。会社の経営の立て直しの見返りにね。このお見合いは何もかもをバラバラにする目的だった。家族喰いが、侵食が目的だった。.....まあ春香さんのご両親もそこそこに侵食していたがね。建て直した借金返済の為に」


「.....貴様.....というか春香.....お前も。今更.....この事を話したのは.....お前もグルだったという事か.....?」


「.....ち、違う!本気で私は雫を心から愛していた!こんなので騙すつもりはなかった!こんなに酷い事になるなんて思ってなかった!お見合いは仕方がなくやった感じだし.....お父さんもお母さんも最初からグルだったなんて.....信じていたのに.....!」


「.....高橋。.....俺の親父が相当苦労しているのは知っているな?」


「.....知っているが?.....水害だろう」


あの大水害の時.....親父は必死に人を助けようとしていた。

大切な人を守ろうとしていた。

高齢者、障害者の避難ルートとか市役所の災害本部で考えてな、と。

それを知っているか、と俺は怒りに身を震わせる。

高橋は、私は正直言って席を外していたからな、と言う。


「この野郎!!!!!」


俺は絶叫してから殴り掛かる。

だがその拳を高橋の息子が受け止めた。

つまり.....横に居たデブが。

俺はそのまま振り払われる。


「.....あくまで自業自得だろ。自然災害だ。親父は何もしてない。.....お前の両親が左腕を失ったのは」


「.....そんな言い方って.....」


「.....ヘドが出る連中だな.....大概に」


俺は思いながら居ると。

奥から、春香、と声がした。

顔を上げると.....そこにおじさんとおばさんが居る。

俺が見ていると春香が前に立った。

そして涙を流しながら話し出す。


「.....何でよ.....お母さん。お父さん.....こんなのって.....」


「春香。私は将来のお前の為を思ってやっているんだぞ。将来、お前がお金に困らない様にな。だから分かってくれ」


「.....意味が分からない.....信頼出来ない.....!」


「.....」


信じられない状態だ。

どうしたものか、と思いながら俺は顎に手を添える。

そして春香の両親を見る。

春香は涙を浮かべて泣きじゃくっていた。


「.....春香.....」


「.....私は.....騙されてた。.....完全にお父さんにもそうだけどお母さんにも。.....問題点としては.....私自身だった。早く全部を貴方に話せば良かった。でもお父さんを信頼して.....お母さんを信頼していたから。.....ミスだったそれは。.....こんな奴ら.....信じられない.....どうしたら良いの私」


「.....」


「私は単に心配しているだけだよ。.....春香。君を」


「馬鹿なの!?これマインドコントロールとか.....言うんじゃないの!?」


何でお金の為だからってそんなに酷い事するの!?

私ずっとお父さんを信頼していたのに!!!!!、と絶叫する春香。

俺はその姿を見ながら高橋を見る。


高橋は踏ん反り返る様な有様だった。

コイツは外道だ。

自らは手を下さずに全てを洗脳する。

外道すぎるんだが。


「.....お前.....絶対に許せない」


「まあ本当に左腕じゃなくて死ねば良かったと思っているがね。実際それがなかったのが残念だ。天罰とはいかなかったな」


「.....」


マインドコントロール.....か。

気が狂いそうだ。

まさか春香が騙され春香の両親が悪に手を染め。


そして高橋が居て息子が居て全てが悪の道に転落している。

親父はこんな奴らに.....。

俺は涙が浮かんだ。


「.....障害者雇用枠で親父は必死に働いている。.....自分の趣味も左腕を失って出来なくなった。アンタは.....それでも何とも思わないのか」


「.....知った事か」


「元でも町民を守る町長だったろお前。.....本当に外道だな」


「私は今は政治家だ。町長ではない。.....おっと.....そろそろ時間だな。.....それでは失礼させてもらう」


そして玄関先で靴を履いて静かに去って行く高橋。

高橋の息子は俺に歪んだ笑みを残して去って行った。

何も出来ない。

残された俺と春香と。

春香の両親。


「.....春香.....大丈夫?」


「お金がとにかく今は必要だったんだ。春香。分かってくれ」


「どの口が言っているの!?馬鹿なの!?人を.....何だと思っているの.....」


「.....私は貴方を思っているのよ?大切に」


「そうだ」


「.....」


春香は怒ってそのまま走り出す。

俺はその姿を追いながらそのまま表に出た。

それから公園に行く春香。

号泣し始めた。

何でこんな事をしたの.....お父さん、お母さん、と。


「.....春香.....」


「お見合いも何もかもが全部嘘だったって事だね.....。この世に生まれなければ良かったんだ。私が」


「.....」


正直。

親父もこの事に関係しているとは思わなかった。

それから春香が今まで騙されているのに気が付かなかった。

そういう責任もあるとは思う。


だけど酷い話だな、と思う。

高橋だけは絶対に許せない.....そう思える。

雨が降り始める中。

俺は.....春香を見ていた。


今の現状は.....酷い。

経営を立て直す為に悪に染まった.....春香の両親。

そして.....政治家。

血で汚れているな.....どうすれば良いんだ。

どうしたら良いのだ。


「.....実は高橋は.....私達をランク付けしていた。全てを.....奪い去る為に。お金儲けが出来る奴を区別する為に」


「.....外道過ぎるんだが.....どうしたらそんな事に.....」


「分からない。彼の考えは.....分からない.....」


「.....」


土砂降りになる雨。

頭が痛い.....。

クソッタレ過ぎる.....どうしたら良いのだ。

高橋を殺すか?


それで.....何の解決に.....なるんだ。

頭を落ち着かせよう。

とにかく今は.....。

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