第13話 洗脳

何というか俺の親父は相当な学力があった。

俺以上に学力があると思うのだ。

なにぶんパソコンとかが組み立てたり弄るのが好きなのでハンダごてで作りマジに頭が良いのだと思う。

絶望なんか全く無かった。


そんな親父は裏では自由奔放だ。

俺達のやりたい事を止めたりはしない。

そんな親父は.....憧れの存在だった。


でもその裏で俺達は親父の事が心配だ。

何故かと言えば.....親父は10年以上パソコンを弄っていない。

それの理由として左腕、片腕が丁度.....肩から無いのだ。

10年前の大水害の時に腕を失った。

その為に.....今は障害者雇用枠で会社で必死に働いているが。


いつか.....親父に苦労を掛けさせなくて済む様になりたい。

そんな思いを環と一緒に抱えている。

思いながら俺は教室に戻ると。

教室で鈴に声を掛けられる。


「.....どうした?鈴」


「え.....っと。.....鈴香と約束したんだよね?一緒に.....勉強会するって」


「そうだ.....な。.....それがどうした?.....その用事か?」


「そうだね。.....えっと.....」


やっぱ、な、何でもない、と言いながらそのまま戻って行く鈴。

俺はその姿を見ながら.....窓から外を見る。

そうしていると.....窓の外に外車が停まっているのに気が付いた。


何だあれ?、と思いながら見る。

コチラを伺う様な仕草を取る.....が。

まさか、と思いながら俺は春香を見る。

春香は困惑しながら外を見ていた。


「.....春香。あそこのは誰だ」


「.....私のお見合い相手だね」


「.....お見合い.....お前の.....?」


「.....そうだね。.....何故こんな場所に来たのか全く分からない。正直.....気持ち悪い」


「お前の浮気相手だろ。.....気持ち悪いって?おかしいだろ」


そう。

まあ今更だけど私は浮気した訳じゃないよ。

全て.....アイツのせいもあるけど両親の経営が傾いている会社の為だった、と切り出す春香。

そして俺に涙目で向いてくる。

本当はこうして雫と別れたく無かった、と言ってきた。


それから宙を見る様な仕草をした。

なん.....だと?

俺は考えながら春香に向く。


「おい。それってどういう意味だよ?」


「.....今までずっとこの事を話せなかったのは.....あの男に裏から脅されていたからもあるけど.....まあそれだけじゃない。政治家の息子としての私達への権力などが強すぎたせいもあるし。私達が嵌められたせいかも。アイツ私を駒の様に.....扱っている様だしね。.....私はただ親の会社を無くしたく無かったからこうして嫌々付き合っていたのもあったの。.....だけどその中で芽生えたのは何より貴方への申し訳なさだった」


「.....お前.....は?.....いや。政治家の息子.....?.....意味が分からないが犯罪じゃないかそれ.....」


「そう。あくまで犯罪だと思う。弁護士とかじゃ無いから全部は分からないけど。でも本当に.....雫。ガッカリさせたよね。.....私は半端者で。未熟で。.....クソ女だよ。説明が出来なかったのが.....うん。馬鹿だよね」


それすらも分からない感じだったから。

と言いながら手すりの埃を触りながら俺に向いてくる春香。

そして下を見ると.....その男は学校側に断られたのか。

そのまま吐き捨てる様に去って行った。


「.....帰ったな」


「.....帰ったね。.....私は何をやっているんだろうね。.....貴方を失望させて。犯罪に加担して」


「引き返せ。.....絶対にヤバいって。それって確か.....談合とか賄賂とかそういうの全部犯罪だろ。お前まで犯罪に加担する気か」


「.....詳しくは本当に知らない。.....だけど確かにそうだと思う。.....私のやっているのは犯罪の泥沼に足を突っ込んでいる状態だとは思っている」


「.....親の為か。金の為か?.....将来を考えろよ」


「両親の為だよ。私が長女で。.....私しか居ない。.....妹が死んでからはね」


「.....それ初耳なんだが」


赤ちゃんの時に死んだよ。.....妹がね。だから私しか居ない。

だからこそ私は両親を救いたいって思う。

雫には.....御免なさい。


でも私はあの男と付き合わないといけない。

会社が潰れるのが.....私も嫌だしね、と言う春香。

俺はその顔を見ながら窓に手を添える。

風が吹くが生ぬるい有様だった。


「.....春香。お前が犯罪者になるのは許せない。お前の両親も。お前だけでも戻って来い!」


「.....もう引き返せない。.....ここまで来たらね」


あのな、と言っていると。

春香に電話が掛かってきた。

俺は?を浮かべながら春香の電話を取る姿を見る。


そして.....青ざめる春香。

俺は更に???を浮かべて見る。

どうしたんだ、と思いながら。


「.....そんな事出来ないよ。.....お父さんお母さん!?.....何で.....」


「.....おいどうした」


「.....大きな声で言えないけど.....関係を持てって」


「.....関係ってのは.....」


「.....性的関係」


ゾッとしながらだろうけど震え出す春香。

俺は!と思いながら.....春香を見る。

春香は電話を切ってから。

そのまま唇を噛む。

春香は.....何かに気が付き始めているが.....。


「春香。おかしい。絶対に」


「.....何が?」


「.....お前ら何かに洗脳されてるぞ」


「.....洗脳って何。私は.....洗脳されてないと思うけど.....」


「いや.....おかしいだろ。だってお前。.....そんな醜い男と性的関係を持ってまで.....それまでやる気か。.....馬鹿な事を」


「.....やらないといけないのかな.....」


春香は悲しげな顔をする。

俺はその姿に眉を顰めてから.....そのまま、止めろ。そういうのは。絶対に、と言ってから春香を見つめた。

春香は、でもやらないと.....、と俺に向いてくる。

いやおかしいだろ。


「.....お前の母親と父親の元に連れてってほしい。有り得ない。おじさんとおばさんはどうしたんだ。こんな馬鹿な関係性の事を聞かないと。仮にも幼馴染だし.....」


「.....でも.....」


「お前の事を助けるとかそういうのじゃない。ただお前が仮にもこういう犯罪に加担しうる状況なら変えないとって思っただけだから」


「.....分かった」


それから俺は春香を見ながら居ると。

どうしたの?、と鈴が聞いてきた。

見ると.....クラスが流石にザワザワし始めている。

俺は鈴に向いた。

そして春香を見る。


「.....言っても良いか。一部は隠すが.....」


「.....うん」


そして.....俺は一部を説明した。

それから鈴の顔を見る。

鈴の顔は怒りに満ち満ちていた。

何それ!!!!!、とか言いながら。

ただのヤリ○ンのゴミクズじゃん!、とも。


「.....許せない.....」


「.....す、鈴。落ち着け。ヤ○チン言うな。な?」


「.....良いの?これで黙ってて」


「.....いや。そういうつもりは無いけど.....でも。.....全てで黙る訳にはいかないよな」


「.....」


鈴は唇を噛む仕草をする。

俺はその姿を見ながら激しい怒りを感じる。

複雑な思いを感じる。

盛大に溜息を吐きながら俺は鈴を見る。


「鈴。取り敢えずは俺は春香の親に会ってみる。それからだ」


「.....うん.....」


「正直.....絶対におかしい。娘にこんな事をさせてくるなんぞ。浮気だけでも十分おかしいっちゃおかしいけど限りなくおかしいだろ」


俺は腰を砕けさせている春香の手を取ってから立ち上がらせて次の授業を受ける。

このまま終わらせるのは如何なものか。

そして身近な奴が犯罪に加担する。

幼馴染としては流石に.....。

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