第12話 愛という気持ち

10年前の事だが。

この街を途轍もない水害やら大災害が襲った。

それは.....洪水とかそんなの。

川が溢れたとか、だ。

生まれて初めて遭遇した死ぬかもしれないその大災害に俺は絶望していた。


後でこの事は話そうとは思う.....。

今はそんな気分じゃないので話をしたくないのだ。

徐々にこの全ては明らかになっていくだろう。

絶望した.....過去の世界というものが。


「.....先輩。大丈夫ですか?」


「大丈夫。.....お前こそ大丈夫なのか。.....色々と」


「そうだね。.....まあ大丈夫だよ」


ニコニコしながらレジャーシートを畳む鈴香。

それから俺を見てくる。

俺はその姿を.....見てから眉を顰める。

鈴香は、私はお母さんを失った分。その分.....貴方が埋めてくれています。この感情を。だから私は貴方が好きであり。そして大切であります、と笑顔になる。


「鈴香.....」


「.....この想いはとても大切ですね。大切にしたいです。.....本当に大切です」


「.....」


俺は鈴香を見る。

鈴香は弁当箱を直しながら俺を見てくる。

今日のご飯は美味しかったですか?、と言ってきた。

俺は頷きながら、ああ、と答える。

すると鈴香は、ですか、とニコッとする。


「.....えっと.....その。.....今日出来なかったんですが明日からアーンしたいなって」


「.....ふあ!?」


「私は.....貴方が好きです。.....その分.....大切な想いを解き放ちたいです」


「解き放つって.....お前.....」


「だ、駄目ですか?」


駄目じゃないが.....。

俺は言いながら鈴香を見る。

少しだけ恥ずかしくなってしまう。

それから俺は俯いていると鈴香が俺の頬に触ってきた。

そして笑みを浮かべてくる。


「先輩。メチャクチャ恥ずかしいですよ。私も。だけど.....春香先輩には負けないですから。だから言い表します」


「.....!」


「私は.....貴方が好きです。そして私は.....貴方が大切です。.....そして私は貴方の為に動きたいです」


「.....」


俺は頬に熱を感じる。

その熱を感じているのか鈴香ははにかむ様に笑う。

それから俺の頬から手を離しながら。

愛しい様な感じで俺を見てくる。


「.....春香先輩に嫌な事をされた分。私は幸せを導きます。貴方の天使になります」


「.....お前.....言いたい放題だな.....でも分かった。お前の気持ち。.....そして.....その秘めた感情とか理解したよ」


「そうですか?.....有難う御座います。理解してもらったなら嬉しいです。この熱意を!アハハ」


「.....」


全く違うよな.....春香と.....全然。

心から俺を見てくれて.....そして。

愛してくれる。


俺は彼女に酷い事もした。

なのに付いてきて来る。

俺は.....この想いにいつか応えなくてはならないだろう。

そう思っているのに.....体は動きはしない。

情けないしか言いようが無い。


「先輩。情けないって思ってません?」


「.....お前は超能力者か。.....不気味だ」


「先輩の考えている事なんて一発で分かります。アハハ。何ぶん私ですから」


「.....そうだな。.....正直言って情けないって思っていた。.....お前の様な人も.....」


そこまで言ってから頬にまた手が添えられる。

そしてそのまま頬にキスをされた。

俺は!?と思いながら頬を押さえてから鈴香を見る。

鈴香は俺を見ながら、情けないんじゃ無いです。先輩は。抱え込みすぎなだけです、と真剣な顔になる。


「.....私がその氷を溶かしますから。待っていて下さい」


「.....お前.....全く」


「私は何度も言いますがどんな世界の人より先輩が好きですから。だから先輩。.....何時迄も隣に居て下さいね」


「.....ああ」


そうしていると鈴香は、そういえばテスト近いですね、と慌てる。

俺は、ああ。まあそうだな、と顎に手を添える。

2週間後に部活も休止になるだろうけど。

思いながら考えていると。


「先輩は大丈夫ですか?テスト」


「.....正直不安だな。.....でも.....やらないと意味が無いからな」


「.....じゃあ先輩。丁度良いです。.....勉強合宿しましょう!」


「.....は?」


「合宿です。その意味は分かりますよね?」


「それはまあ.....分かるが.....何処でするんだ」


私の家です、と答える鈴香。

コイツマジか?

俺は、お前の家って.....あのな、と答える。

すると、しかも泊まり込みですよ、とも和かに言う。

は!!!!?


「お前もっと馬鹿か!そんな気分じゃない!」


「先輩。私達という存在にまずは慣れてもらいます」


「意味が分からない!?」


つまりどういうこった!?

俺は目をパチクリしながら鈴香を見るが。

答えはさっぱり分からないまま。


はぐらかされた。

そして教室に戻って行く鈴香。

冗談だろ.....。

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