第6話 ぬいぐるみ

幼馴染とは相当に仲が良かった。

その分相当信頼していたのだ。

愛していた。


心から本当に愛しいと思っていた。

しかし裏切られ。

俺は.....今、鈴と鈴香という姉妹と接している。


気持ちは半分しか無いが。

でも.....多少はマシかと付き合っている。

そんな鈴と一緒に部活が休みの日。

俺はゲーセンに居た。


「こっち。新しいプリクラの新台が入っているの」


「.....鈴。俺はこういう場所は.....」


「.....分かってる。早く出よう。でもこれだけはお願い。罰ゲームでしょ」


「.....」


俺は仕方が無いか、と思いながらプリクラの機械並んでいる場所に来た。

そしてプリクラを見上げる。

そこには無数のプリクラの機械が並んでいた。

俺はその様子を見ながら少しだけ溜息を吐いてから。

そのまま選んでいる鈴を見る。


「これ」


「.....これか」


「そう。これ。撮るよ」


「.....分かった」


そして中に入って現金を入れると。

はーい!こんにちは!、と明るい声がした。

今の俺には似合わない明るい声。

俺はその様子を見ながら居ると、じゃあ先ずは枠を選んでねぇ、と声がしたり。

選んでいくと.....鈴が、きゅんだよ、と言ってきた。


「.....キュンっておま.....知っているけど」


「一緒にしよ」


「.....いや.....俺はそんな気分.....」


「良いから。ね?」


そのままやらされた。

そして外でプリクラが印刷される。

それから見ると.....そこには美男子になっている俺と。

元から美少女だが更に加速した鈴が。

俺は苦笑しながらそのプリクラを見る。


「.....半分こ」


「.....?.....俺もか?」


「そう。.....どっか貼ってほしいな。せっかくなら」


「.....いつか貼るよ。ゴメン。今はそんな気分じゃない」


「うん。期待している」


それから俺達はゲーセンを歩いていると。

何か.....鈴がぬいぐるみの前で立ち止まった。

見本のぬいぐるみだが.....その奥。


そこにはそのぬいぐるみの入ったUFOキャッチャーが。

俺はポケットに手を突っ込んでいたが。

ふむ、と思う。


「欲しいのか」


「い、いや。欲しくない。私に似合わないし」


「.....じゃあ何で見ていたんだよ。.....取ってやるよこれぐらい」


「そんな。お金の無駄.....」


「まあ.....そう思うのは勝手だが。俺は.....お前にお世話になっているしな」


そして俺は100円を突っ込んでから。

一発で取る。

何故取れるのか?

そうだな.....春香の為だったよ。

まあこの練習は、だ。


「.....猫.....可愛い.....」


「.....欲しかったんじゃねーか。.....はは」


「ば。別に!?興味無いもん!?」


「.....そうか。なら返してくれ」


「.....嫌。渡された」


んべっと舌を出してから抵抗する鈴。

そしてとびきりの花咲く笑顔でそのまま胸にぬいぐるみを持った。

俺はその姿に目を丸くする。

それから苦笑した。


「.....でも凄いね。100円って.....それも.....」


「.....まあな。.....色々あってな」


「.....そっか。嫌がるから聞かない」


「.....有難うな。ご配慮に感謝」


それから俺達はそのままゲーセンを後にする。

その帰り道での事だった。

鈴が俺を見上げてくる。

ねえ。楽しかった?、という感じで。

俺は?を浮かべて鈴を見る。


「.....まあ楽しかったかな。久々にな」


「.....そっか。.....それは何よりかも。.....嬉しい」


「.....?.....聞き取れない。最後の言葉が」


「内緒」


「.....???」


満面の笑顔になる鈴。

意味が分からん。

俺は考えながらそのまま鈴を見る。

そしてそのまま歩き出した。

今日は有難うね、と言いながら鈴は俺を見る。


「.....有難うって罰ゲームだったけどな?これ」


「.....私は来てくれるって思わなかった。.....本当に君が。厳しいかなって思った。....だから嬉しかった」


「.....約束を守らない事は大嫌いなんだよ俺」


「そっか。.....優しいね。.....昔から変わんないや」


「.....」


この姉妹は.....実は母親を水害で失っている。

それは.....逃げ遅れた母親だ。

おばさんは.....姉妹を逃がして流された。

その記憶は決して忘れないだろう。


「お前らの母親にお花をお供えに行こうかな」


「.....!.....そう?」


「.....ああ。.....今日そう思った」


「.....水害は悲惨だったからね。.....記憶は伝えていきたいから。有難う」


「俺個人の思いもあるけどな」


「.....全然。それで大丈夫。.....有難うね。.....本当に」


花を添える事ぐらいしか出来ないが。

俺は.....あの水害は忘れようが無いだろう。

思いながら俺はそのまま空を見上げる。

そこには.....明るい日があった。

暖かみのある日が。


「.....こっちだから。じゃあまた」


「.....ああ。気を付けて」


「.....」


「.....?」


「.....有難う」


それから去って行く鈴。

俺は首を傾げながら、今の間は何だ?、と思ったが。

特に気にせずに帰った.....のだが。

家の目の前に.....春香が立っていた.....。

俺はその春香を無視して家に入ろうとした。


「その.....雫」


「.....」


その一言に顔を上げる。

そして顔を怒りの顔にして春香を見た。

何か?、という感じで苛立ちながら.....。

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