第4話:男性諸君!俺はメイドを雇います
ーーNaipapa市内にあるミノルの住居にてーー
Naipapaについて1週間が経った。A国の経済都市として栄えているNaipapa市内は、首都ほどではないが大きな建物もチラホラ存在し、南アフリカのスーパーマーケット「Shoprite(ショップライト)」も2店舗ある。生活するには申し分ない環境といえるが、発展とセットで治安の悪さが目立つのがNaipapa市の特徴だ。
Naipapa市内にある4階建てのアパートに、今俺は住んでいる。A国が植民地だった頃に建てられたアパートらしく、年季の入った外観には最初ビビった。しかし意外にも部屋はキレイで、2LDKの家具付きという好条件。これで家賃が4万円程度なので不満はない。
今日は同僚のアブドゥルが紹介してくれたメイドが家にやってくる。繰り返す、メイドが自分の家に来る。
アブドゥルいわく、男性の1人暮らしでメイドを雇うのは、A国ではごく当たり前のことらしい。掃除や洗濯、料理をしてもらっても月に30ドル程度で済むとのこと。
「まさか人生でメイドを雇うエピソードが俺にあるとは。萌え萌えライフ待ったなし!なんちゃって」
まだ見ぬメイドを妄想しながらソファーで寝転がっていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
日本から持ってきたヘアワックスで髪型OK!香水で体臭OK!服も紳士的に白のシャツにチノパンを合わせて、準備オッケー。
「はいはーい」
平常心で応じるのが正解と判断し、軽い返事でドアを開けた。
「ほえ?」
扉の向こうに立っていたのは、中年のオジさんだった。汚れた白のTシャツにハーフパンツでたたずむ男性の姿に、一瞬フリーズしてしまった。
「あの……何か用ですか?」
「えっと、アブドゥルさんの紹介で来たメイドです」
ガチャン。おっとマズい、つい衝動的にドアを閉めてしまった。ーー何かの聞き間違いか?今メイドと言ってなかったか?
「あ、すみません風でドアが閉まりました。もう一度聞きますけど、メイドさんですか?」
「そうです」
「メイド、という名前なんですか?」
「いや、メイドとして働きに来ました。名前は『Mankene』と言います」
「え?負けね〜、さん?」
「マンケーネ、です」
「……すみませんが少々お待ちください。アブドゥルがさっき電話かけてきたので、かけ直してきます」
再びドアを閉め、奥の部屋へ移動してアブドゥルへTel。
「おぉミノル!どうした?」
「どうしたってこっちが聞きたいわ!!うぉぉおおお〜展開が俺には読めない!今メイドが来てるんだけど、だっ男性なのです。メイドは女性って日本人が設定しているんでありませぬか!?」
「言ってることがよくわからないな、ハハハ。面白い奴だ。日本人の常識はよく知らないが、ここでは男性のメイドも普通に存在するぞ」
「え、そうなの?」
「うむ。失業者がたくさんいるにもかかわらず、雇用先は少ない。でも大量の家族を養わないといけないから、メイドでもいいから雇ってほしいと考える男性は大勢いるんだ」
な、なるほど。そういう事情があったのか。てっきりアブドゥルの嫌がらせかと思った。
そういうことなら、あれか。俺は雇うべきなんだろうな。……本当ですか(泣)。
ガチャ。
「お待たせしました。え〜と、マンケーネさんでしたね。たしかにアブドゥルからの紹介ということで確認取れました」
「ありがとうございます」
「洗濯と掃除を週3日やってほしいと思ってます。報酬はどれくらいを考えてますか?」
「そうですね……月に100ドルは欲しいです」
「……ちょっと待ってくださいね。アブドゥルからまた電話がかかってきたようです。しょうがない奴だな〜」
再びドアを閉め、奥の部屋へ。えっとアブドゥルの番号は……
「アブドゥル、アブドゥル、アブドゥル〜!!!」
「なんだミノル?俺も暇じゃないんだぞ」
そう話す電話越しに、陽気な音楽が聴こえてくるんだが。
「いや、あのさ、メイドの報酬って月に30ドルぐらいって言ってなかった?マンケーネさんから100ドル要求されたんだけど」
「あ〜、それはお前が外国人だからだな。相場は30ドル程度だ」
よし、情報は整理できた。つまり、現状は女性じゃなくて男性メイドを雇う流れになっていて、その男性メイドは俺から相場の3倍以上の金をもらおうと企んでいる。
それなら、俺が取るべき対応はひとつだ。
ガチャ。何度目か忘れた、また扉を開けた。マンケーネは階段に座って待っていた。
「お待たせしました。それでは、検討して後日連絡しますね。電話番号を教えてもらえますか?」
こうして俺は、日本人の切り札ともいえる「また今度」作戦を実行し、その場をとりあえず収めた。マンケーネはキョトンとしていたが、俺だって女性メイドの夢は逃したくない。せめて女性メイドの面接ぐらいやらせてほしい。
電話番号を教えてもらい「それでは」と扉を閉めようとすると、マンケーネが「あの……」と話しかけてきた。
「ここに来るまで、乗り合いバスに乗ってきたんです。自分のお金を使って来ました」
「それは……俺が払ったほうがいいということですか?」
「そうです」
「……わかりました。はい、どうぞ!それでは、また」
「帰りの分もお忘れなく」
もうメイドなんかいらない。そう強く思った1日だった。
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