第3話:えっと、やることが無くなったって正気ですか?

ーーミノルの任地「Naipapa市」にてーー


A国に来てから1ヵ月後、俺はようやく任地であるNaipapa市にやってきた。

首都から千km離れた場所にあるのが、Naipapa州だ。俺が住む場所はその市であるNaipapa市で、勤務先の職員養成校は郊外にあるらしい。


A国は日本の2倍近い国土を持っているため、国内移動も楽じゃない。貧乏人は時速150km近くで爆走する高速バスに乗る必要があり、金持ちは出発が数時間遅れることもある飛行機を頼りにしている。


Naipapa市に着いた瞬間感じたのは、首都にはない蒸し暑さだ。同じ国といっても北と南では気候も180度違うみたいで、雨季のNaipapaは40℃近い気温に達するらしい。


「よく来たなミスター・ミノル!楽しみに待ってたぜ!」

空港に迎えに来てくれたのは、俺が働く職員養成校の同僚であるアブドゥルだ。俺より10歳以上年上のアブドゥルは、隆々とした筋肉を持つダンディーなオジさんで、日本人に対しても気さくに話しかけてくれるのが有り難い。


アブドゥルが運転してきたToyotaのハイラックス・サーフに乗り、職員養成校へと向かった。空港から車で30分ほどの距離にある職員養成校は、想像より遥かに立派で、広大な敷地に校舎がいくつも建ち並んでいた。


「校長、ミスター・ミノルを連れてきました」

校舎の外で誰かと談笑していた男性に、アブドゥルが話しかけた。小柄だがお腹がぷっくり膨らんでいる中年の男性が、満面の笑みを向けて俺に近づいてきた。

「おぉミスター・ミノルか!ようこそA国へ!私は校長のダニエルだ。日本人を職員として迎えることができて嬉しいよ。困ったことがあったらいつでも相談してくれ」


校長がいい人そうで安心した。ただ、俺と2人でいたときのアブドゥルと、校長といるときのアブドゥル、全然態度が違うな。校長を恐れているというか、気を遣っているというか、とにかく緊張している雰囲気が伝わってきた。


「早速だが、ミノルに伝えておかなきゃならないことがある。実は音信不通だった英語の先生が昨日戻ってきて、またここで働くことになったんだ」

ニコニコと笑みを絶やさず話を進める校長。だがスタート時点から、嫌な予感しかない。もしかして……


「ということで、ミノルには英語以外の教科を教えてもらおうと思ってる。アブドゥルと相談して決めておいてくれ」


(うぁあああああ!!!やっぱりかぁあああ〜〜!!赴任先の変更だけでもショックだったのに、追い打ちきたこれ!しかも何?要約すると「お前のやることは決まってない」ってことだよな?なんじゃそりゃー!何のために俺はここに来た?観光目的ならアフリカ以外の場所を選ぶぞ。アンコールワットを案内する謎の少年にぼったくられたり、エッフェル塔を眺めながら白人美女とカフェのテラス席で談笑したいわ。日本のお遍路参りだってやってみたいーー)


秒速で思考が身体を駆け巡っていったものの、表情に出さないことには成功した。


「OKボス!この職員養成校の力になれるよう、最高の役割を見つけてみます!」


ーーそんな形で、俺のボランティア活動はスタートした。

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