詩「春。」

有原野分

春。

潰瘍性大腸炎の治療の一環で

漢方内科の待合室で座っているときだった


目の前の水槽を泳ぐ三匹の魚を一瞥して

手の中のスマホに意識を向けているとき


ふと風。を感じて

顔を上げると窓から光。が差し込んでおり


その向こうにはうっすらと桜。の花びらが

遠く舞っていた


駅から流れる遅延のアナウンスと

保育園児の散歩の声。が聞こえ


そこでスマホをポケットにしまいこんで

ぼくはようやくこの星。に生。まれた


漢方の独特な匂い。のする部屋の中

苦い春。を大きく吸いこんで

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

詩「春。」 有原野分 @yujiarihara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ