正月・カラオケ・餃子ファイト
母方の実家は何故か無限に食べ物が出てくるイメージがある。何故だかはわからない。切り上げどきを見計らわないと次々食べ物飲み物が繰り出されてきて延々と抜け出せないループに入るような気がする。気がするだけかもしれない。たまにしか来なくなった孫をもてなしたい祖母の、気遣いなのはよくわかっているのだ、私も。
元朝参りには四時ごろ出発した記憶がある。元旦の初日の出を拝む前に、姉の家族と近所のお稲荷さんにお参りをするのが魔女の毎年のルーティン。私もそれに同行する。超眠かった。
姉かどうか妹かどうかは知らないが、魔女と叔母さんは双子の姉妹で、曰く「他の人には区別がつかない」らしい。
しかし自分の母親を間違えるなんてことは滅多に起こらず、従兄弟たちも
叔母さんは3人の子どもを連れて現れた。子どもと言ったっておとなだ。私と同じような年恰好の、いい大人たちがずらりと並んでいる。圧巻。でも子どもは子ども。兄妹は兄妹である。3人そろって
私は嫁入りして理由でもなければ滅多に帰らないし、東京住まいの
私はなんらかの決意を新たにしつつ、お祓いを受けた。
普段御守りなんて滅多にすすんで買わないのだけど、卯年ということもあって「
それから
※※※
各々家に帰ったあとは仮眠をとり、祖父母宅に集合してちょっとしたお菓子パーティーを開く予定であった。が。これが最終的にギョーザファイトに発展する。
午後2時。
お婆ちゃんが人数分の寿司を出してきたあたりで、叔母さんたちは「ご飯食べてきちゃったよ」と音をあげた。いとこのR(私とタメ)が見越したように、全員分のマグロとサーモンだけを口へ運んでいく。素早い。そして準備がいい。
R「食べてこなかったの俺だけだし」
感動。祖父母の挙動をよくわかっている。
Rの苦手なサラダ巻きだけが私の前に運ばれてくる。私はそれをもくもく食べる。
おい凛ちゃんサラダ巻きしか食ってないよ!と誰かがツッコミを入れるが、そこは紫陽凛。みんなの紫陽凛。美味しければなんぼでも食ってやる。お腹も減っている。
そこにお爺ちゃんが酒飲み仲間を欲する。
「ビール飲むかビール」
「飲む」と私。缶ビールを飲む時に、年下のWが「ビール苦手なんだよなぁ」と呟くので、私は口をつける前のビールを彼女に見せた。
「シャンディガフ、いいよ」
気分はS氏(前々話参照)。
「ちょうどジンジャーエールあるし、やってみる?」
シャンディガフとは、ビールとジンジャーエールを1:1で割るカクテルだ。ビールの苦味が消えて飲みやすくなる。(お酒を愛するみなさんならご存知のことと思うが)
Wにも好評だった。あの時のS氏もこんな気持ちだったのかもしれない。薦めた酒がピッタリハマった時の感覚は、親しい友人に「これ絶対好きだよ」と新しい小説を薦めて大当たりした時の感覚に似ている。なるほどこれは楽しい。
カラオケ行きたくなってきたな、と言い出したのは多分私だった。なにを隠そう、大晦日にウタのライブを浴びた上、ウタが出演する紅白歌合戦を観た後だったから、どうしても歌いたかった。
でもこの日は正月。そう正月。田舎の正月料金は高いのだ。
すっかりカラオケの雰囲気になってしまった私たちの前に、ハンディマイクが差し出される。テレビが切り替わり、古めかしいフォントで「選曲してください」の字が表示される。
「カラオケ、あるよ」
元気よくお婆ちゃんが言った。バラエティを見たいお爺ちゃんが若干不満そうだった。
しかしこのカラオケ、古い。最新曲が宇多田ヒカルの「First Love」だ。知ってる曲が……ない!
バラエティを奪われて暇そうなお爺ちゃんと、カラオケの点数が気になるお婆ちゃんと上の叔母さん(双子姉妹の姉さん)と、困り果てた双子姉妹、そして孫四人。
そこで言い出しっぺ、立つ。
「六本木心中!」
アン・ルイスの曲は会社員時代に覚えた。カラオケに行く時、知らない曲ばかりだと気持ちが萎えてしまうだろうと思って覚えた曲である。
しかしお爺ちゃんは六本木心中を知らなかった。なんてことだ。
次は叔母さん。その次はW……とマイクは回っていくが、お爺ちゃんの知っている曲はなかなか出てこない。致し方ない。もはや石川さゆりしかあるまい。
「津軽海峡冬景色!」
渾身の演歌である。もう困ったら石川さゆり歌っておけばええやろくらいの気持ちである。
途中、「北へ帰る奴が北へ帰る歌歌ってら」と思いはしたが、情感たっぷりに歌い上げる。
さよならあなた、私は帰ります。
マイクはWと双子と私の間で、かろうじて回り続けていた。RとRの兄さんはカラオケの曲目を眺めるだけで、自分たちで歌うつもりはないらしい。私はマイクが回らなくなるたびに何かしらを歌い、時間を稼いだ。
そして、それがいけなかった。
「天城越え!」
歌い終えて拍手が出たほどの熱唱のあと、お婆ちゃんが不審な動きをしているのに誰も気づかなかった。
バラエティに飢えたお爺ちゃんが「カラオケやめ!」と言ったあたりで、台所の方から何か音が聞こえてきた。香ばしい匂いが漂ってくる。
「もうお腹いっぱいだし!」とRがいう。私もそこそこ満腹である。「間に合わなかった」とW。誰もがギブアップ寸前だった。しかし目の前には大量のギョーザ。
そう、これがギョーザ・ファイトだ。
ここで、完全なギブアップをしたR以外の孫3人で、死に物狂いでギョーザを食すという事態が発生する。お婆ちゃんは「夕飯食べていくと思って」といい、双子は「食べないよって言ったでしょ」と言った。しかしもう何もわからない。今となってはそんなやりとりは意味をなさない。そこにはギョーザの山があるのみ。
兄さんと私とWの3人で、もはや味と食感もわからず、ひたすら胃を圧迫してくるギョーザと戦った。食って食って食いまくった。そして勝った。従兄弟・私の連合軍の勝利である。
「帰るよ!」
そう言いながら各々の母親を振り返って我々はテレビに釘付けになっている双子を目にする。何度言っても耳に入らないらしい二人の母親は、お爺ちゃんと一緒にイギリスで見つかった秘宝のミステリーに夢中だ。
その時
おいコラ!
微笑ましいやらなんやら。双子は似た顔してテレビに釘付け。その父親もテレビに釘付け。孫たちだけが帰る準備を始めている。
あーあ、やっぱり家族なんだなぁ、そう思いながら、今もちょっと思い出し笑いなんかしている。
そうしてちょっと寂しくなっている。やっぱり家族なんだな、って思いたいな。
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