第5話 ずっと近くに

保健室で休んでいる間、先生は私の話を聞いてくれた。

「好きな人がいて、その好きな人には他に好きな人がいて、応援してあげたいけど辛い。その人とは友達だから、私が自分の気持ちを打ち明けたら、友達関係が壊れてしまうのではないかって思う。」

先生は、静かに私の言葉に相槌を打ってくれていた。

私は、この気持ちを誰かに打ち明けることなんて、一生ないと思っていた。

変態扱いや偏見の目にさらされて、自暴自棄になるに違いないと思っていたからだ。

先生も私が話すこと以上に何も聞いてこなかった。

きっと人知れずの恋をしていると思ったからだ。

すると、トントンとノックする音が聞こえた。

ガラガラと扉が開き、「失礼します。」と、あの子の声が聞こえた。

私は、ガバっと薄い毛布にくるまり、寝たふりをした。

そんな私の様子に先生は、「まだ、具合が悪いみたいだから、もう少し寝かせるね。」と言ってくれた。

「わかりました。」と、保健室を出ていくあの子の姿を毛布の隙間から見ていた。

きっと、心配しているはずだ。

私は、毛布から顔を出し、「ありがとうございます。」と先生に言った。

先生は、ニコッとして、「もう少し寝ていきなさい。」と、ベッドのカーテンを閉めた。

私が教室に戻れたのは、3時間目が終わるチャイムが鳴ってからだ。

教室に戻る途中、あの子が迎えに来てくれた。

ニコッと笑った私を見て、あの子が心配そうに近寄ってくる。

「もう大丈夫?」と聞かれ、私は「うん。」と作り笑顔で笑った。

笑えば笑うほど、切ない気持ちになり、辛い気持ちになり、失恋ってこんなにも苦しいものだったかと、再確認する。 

家に帰ってからも、気持ちの整理がつかないままでいた。

あの子に好きな人ができたこと、必ずそういう日が来るとわかっていた。

わかっていたけど・・

明日からどんな顔して学校に行けばいいのか。

しかし、いつもと変わらない朝がやってくる。

あの子が乗ってくる電車を待ち、あの子の近くで呼吸をする。

そんな日がこれからもずっと続くのだ。

そして、ついに私が1番聞きたくない言葉を聞くことになる。

「好きな人と付き合うことになったよ。」

好きな人ができたと言われてから、1ヶ月ほど経った時、私はその言葉を耳にする。

「おめでとう!良かったじゃん!」

精一杯の言葉だ。

きっと顔は引きつってたに違いない。

あの子に彼氏ができて半年。

私の淡い、切ない恋は、少しづつ静かになろうとしていた。

あの子と触れ合ったり、抱きしめ合ったり、好きを言い合ったりできないのなら、せめてあの子の近くで、あの子の親友として、ずっとずっと近くにいようと思った。

それからは、私もそれなりに恋愛をした。

バイセクシャルな私は、男の子とも恋愛ができる。

たまたま知り合った女の子と付き合ってみたけど、あの子に恋するような気持ちにはなれなかった。

そんな恋愛も長続きはしない。

それでも、高校3年の終わりに知り合った男の子と、長く付き合うことができた。

中学生の時に付き合うのとはまた違う感覚で、男の子と付き合うのも悪くない。

きっと、そうやって失恋したら次の恋をして、自分の傷ついた心を暖かくしていくのだろう。

そして、恋い焦がれた高校生から7年、あの子は結婚をする。

友達代表として、私はあの子のためにスピーチをする。

新婦の控室に呼ばれた私は、そっと扉を開ける。

大きな窓から光が差し込み、あの子が座っている。

真っ白なウェディングドレスに身を包み、ニコッと私の方を見て微笑む。

「ああ、なんてきれいな子なんだ。」

静かになったはずの感情がこみ上げてくる。

そして、私は今日もあの子に恋をする。

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私は今日もあの子に恋をする @akizoradaisuki

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