第3話 親密になりたい
すっかり寒くなった冬、いつものようにあの子が乗ってくる電車をホームで待っている。
仲良くなってからは、あの子が乗っている車両に私が乗って、一緒に登校していた。
電車がホームに入ってくると、ドア付近にあの子が立っている姿が見える。
私は電車に乗り込み、ラッシュの息苦しさに耐える。
息苦しさに耐えながらも、唯一この子と密着できる幸せな時間なのだ。
周りにいるサラリーマンや男子学生のことなんて、全く目に入らない。
私は今、目の前にいるこの子だけを見ている。
そして、後ろから押され、私が「うっ!」と声を出すと、「もうちょっとこっちにおいで。」と、腕を引っ張ってくれた。
心臓が。
駅に着くまで、私の心臓は持つのだろうか。
ドキドキと、鼓動が聞こえてしまうのではないか、いや、でもこのまま心臓がもたずに死んでしまうのなら、いっそのこと聞こえてしまえばいいとさえ思うのだ。
駅に着き、学校までの道のりを2人で肩を並べて歩く。
昨日の夕飯は何だったのか、毎週見ているドラマの感想など、どこにでもいる普通の女子高生の会話をする。
こうして、他愛もない会話をすることも、毎日学校で顔を合わせることも、私にとっては1分1秒が大切な時間になるのだ。
この恋が、恋愛に発展することはないとわかっていても、友達として親友として充実した高校生活を送れているに違いないと思っていた。
それから冬休みに入り、私はアルバイトをしつつ、いつもの4人で楽しく冬休みを過ごしていた。
そんな中、友達の提案でお泊り会をしようという話になった。
私は、戸惑い悩んだ末、このお泊り会に行くことにした。
年末に近い日、お菓子などを買い込んで友達の家に行くことにした。
友達の家の最寄り駅にあるスーパーで買い物をしてると、あの子から電話がかかってきた。
「どこにいるの?迎えに行くよ。」と。
私は、電話越しにあの子の声を聞きながら、嬉しくなった。
きっと、荷物があるからと気を遣って迎えに来てくれるだけなのだが、私はそんな優しさにも笑みが溢れるのである。
迎えに来てくれた、あの子の自転車のかごに荷物を入れて、2人で肩を並べて歩く。
他愛もない会話に胸を弾ませる。
今日はどんな日になるのだろうと、鼓動が早まる。
友達の家に着き、夕飯をごちそうになった後、いよいよお泊り会の始まり。
4人でパジャマに着替え、お菓子を広げて、学校の話や好きな子の話になった。
私とあの子以外は、好きな男の子がいるみたいだ。
友達2人の好きな男の子の話を、あの子はにこやかに聞いている。
私は、胸がギュッとなった。
やはり、恋や恋愛の話になると盛り上がり、誰がかっこいいとか、好きな男の子のどんなところが好きなのか、理想のタイプや今までの恋愛経験など、思春期特有の会話だ。
しかし、中々その話に参加しない私を、3人は不思議に思ったのか、話のターゲットは私に変わる。
「好きな子いるの?」「どんな子がタイプ?」
質問攻めにあった私は困り、「好きな子いるよ!」と言ってしまった。
「誰?誰?誰?」と、前のめりに聞いてくる友達。
ああ、どうしよう。
なんて答えればいいのか。
私は咄嗟に、「中学の同級生。」と答えてしまった。
確かに中学生の時にずっと好きだった男の子がいた。
3回告白して、3回とも振られて惨敗だ。
私は、その男の子の話をした。
うまくカモフラージュできただろうか。
3人は、なんだか納得いかない様子で、「あんたって秘密主義だよね。」と言われてしまった。
秘密主義なわけではない、言えないだけだ。
誰にも言えないこの気持ちを言えたら、どれだけ楽だろうか。
自分の中にしまい込んでおくのも、そろそろ容量オーバーになりそうだ。
時間はもう午前様、そろそろ寝る準備をしようとお布団を敷き始める。
家主の子はベッドで、私たち3人は、2枚のシングル布団をくっつけて寝ることになった。
私とあの子の間には1人友達がいる。
私は2人に背中を向けるようにして目をつぶった。
しかし、一向に眠りにつけない。
私はみんなが寝静まったのを確認して、そっとベランダに出た。
真冬の空気で体が震える。
白い息を吐き、「辛いな。」と呟いた。
そんな気持ちで空を見上げてると、涙が出てきた。
「はぁ、この気持ちから解放されたい。」
すると、カラカラとベランダの扉が開く音がして、私は後ろを振り向いた。
そこには、私が恋するあの子が立っている。
咄嗟に涙を拭くと、「なになに?どうしたの?しんみりしちゃった?」と。
私は、笑いながら「ちょっとね。」とごまかした。
そして、寒さで震える私の肩に、手を回しこう言った。
「なんか最近、悩んでない?私で良ければ聞くよ?」と。
私は、この言葉でまた胸が苦しくなる。
この子に気づかれてしまうかもしれない。
でも、自分が少しでも楽になるなら、どんな気持ちでいるのか話してしまおう。
「私、好きな人がいて・・・でも、好きになっちゃいけない人で・・・だから、自分の気持ちを整理するまで、時間が必要だと思う。」
私は初めて、自分の気持ちを打ち明けた。
しかも、その相手は恋してるこの子。
私の言葉に、「そっか。そんなに辛い恋をしてるんだね。告白しないの?」と。
きっと、友達の質問攻めに咄嗟についた嘘も見抜かれたに違いない。
「しないよ。絶対。」
「大丈夫?浮気とかじゃないよね?」と、心配そうに私を見てきた。
「大丈夫、そんなんじゃないから。」と、私は笑った。
お布団に戻ってから、変わらず眠りにつけない私は暗い天井を見ていた。
そして、湧き上がる涙を腕で覆い隠した。
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