第2話 秘密の恋心

私は勉強を怠らないという約束で、両親にアルバイトを許可してもらい、地元近くの飲食店で週に3回働くことになった。

それを仲のいい友達に話すと、早速食べに来てくれた。

いつも来る友達は2人で、私が働いてるのを暖かく見守ってくれていた。

週3回のアルバイトにも慣れてきた1学期が終わる頃、いつもの友達が私のアルバイト先に地元の友達を連れていきたいと言ってくれた。

地元の友達ということは、中学生の時の友達だろうか。

どこの高校に行ってる子なんだろうか。

わざわざ、私の地元に来るのは大変なのでは。

そんなことを考えてると、友達が3人でやってきた。

私は、入口に立っている友達の方へ行くと、そこには私が恋したあの子が一緒に立っていた。

「い、いらっしゃいませ。」

声が上ずりなんとも言えない空気に。

「大丈夫?」と、友達に爆笑された私は、恥ずかしさで顔が引きつる。

そして、緊張しながらも3人を窓際の広い席に案内した。

私が働くお店は、ピザが美味しいので、それをおすすめした。

3人は笑顔で「いいね。」と、ピザを注文した。

18時から20時くらいは夕飯時で忙しくなる。

時折聞こえてくる笑い声に、「ああ、あの中に入りたい。」と、羨ましく思うのだ。

夕飯のピーク時を過ぎ、注文も落ち着いた頃、私は店長に呼ばれ、「友達が来てるみたいだから、上がっていいよ。」と。

私は嬉しさで笑顔になると、友達の方を見た。

すると、あの子が私を見ている。

その時、初めてあの子と目が合った。

時間が止まったようなその感覚は、私の心臓の鼓動を早める。

そんな気持ちになっていることにも気づかないであろうあの子は、私に笑顔を見せてくれた。

なんて綺麗な子なのだろう。

やっぱりこの感情は、他でもない恋だ。

女の子を好きになるのも、男の子を好きになるのも、性別は違えど、その感覚は同じなのだ。

ドキドキして、でも目で追ってしまう。

そして、私があの子と仲良くなる方法はただ1つ、友達になることだ。

恋愛に発展しなくても、近くであの子を感じられたらそれだけでいいと思った。

店長に早く上がっていいと言われた私は、友達の席へ行き、早く上がれることを伝えた。

私が着替えてくるまで待ってくれると言ってくれたので、急いで着替えをして髪を整えて、リップクリームも塗った。

少しでも、あの子に可愛いと思われたいから。

友達の席に行くと、あの子の正面の席が空いている。

正面で見るなんて、恥ずかしさしかないと思った。

みんなに促されて座ると、「お疲れー。」とみんなが言ってくれた。

すると、店長がピザとジュースを運んできてくれて、「サービス。」と。

私のお腹がペコペコなのを察した友達が「たくさん食べなー。」と、お皿に分けてくれた。

そして、「この子、私たちの地元の友達なんだけど、中学は違うの。」と、紹介してくれた。

初めて、その子の声を聞いた。

初めて、私の名前を呼んでくれた。

この日を境に、私たち4人はよく遊ぶようになった。

毎日、帰りの電車で先に降りる私は、3人が手を振るのをホームから見ている。

笑顔で「バイバイ。」というあの子は、今日も綺麗だ。

それから夏休みになり、4人でプールに行こうという話になった。

私は、プールにあの子と行くなんて、絶対無理だと思った。

どういう顔をして、あの子と一緒に行けばいいのか、平然を装ってプールに行くなんて、絶対できないと思った。

私は、自分のそんな感情が不純に思えた。

好きな子とデートしたり、それ以上のことを考えるのは自然なことで、誰しも人を好きになれば芽生える感情だ。

しかし、私はあの子をそういう対象で見ている自分に愚かさを感じていた。

私にとって、あの子は恋の対象で恋愛をしたいわけじゃないと言い聞かせてきたからだ。

決して実らない恋だと思っているから、なおさらこの感情が苦しくなる。

私は、そんな不純な感情を打ち消すかのように、夏休み中はアルバイトをした。

いつも誘ってくれる友達とあの子に申し訳無さを感じつつも、ひたすら働いて、休みの日は夏期講習にも通った。

両親からは一生懸命になりすぎだと心配されるくらい、私はアルバイトと勉強に没頭していた。

そんな夏休みを過ごした私は、2学期になって久しぶりに、友達とあの子に会うことに緊張していた。

自分が避けていたのに、3人は変わらず私と接してくれた。

私は、決して気づかれてはいけないこの想いを、この先も上手に隠せるのだろうか。

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