第13話 推しの頼みと秘宝の行方
「天使の秘宝で、どうして世界が救えるんですか?」
ミオさんが言っている意味が分からない。
秘宝で世界を救える理由や、国を取り戻すことから大きく外れている話しだ。パラトピアがどうして救えるのかもっと聞かないと駄目だな。
「あのね、これまで天使の秘宝は少ないけど見つかっているの。魔力を増大させる杖や、地球でいうところの魔力を弾丸として飛ばす銃とかね。それらの武器に適合した人は、一人で国を半壊させる程の力を発揮できるの。ここまで言えばわかるかな?」
「ヘリスをその力で倒すことで、パラトピアから争いを無くすってことですか?」
「そうよ。ルナによるとヘリスはオーレリア王国だけはなくて、パラトピア全土を手中に収めようとしているみたいなの。既に天使の秘宝を持つ騎士を何名も抱えているらしいわ。だから、こちらも手に入れないと国すら取り戻せないの」
なるほど。天使の秘宝はそれほどに強力な武器みたいだ。だけど、俺が適合するかは分からないはずだ。なのに、どうして取りに行かせるんだろう。ミオさんは何か秘密を知っているはずだ。どうしてそこを教えてくれないんだ。
全てを教えてくれないミオへの不信感を抱いたまま、ユーリに目配せをする。
「そんな目で見ても行きませんよ。ルナ様のお側にいるという仕事がありますから」
「そんなこと言わないでよ! 場所だって分からないし、この世界に始めて来たんだからさ!」
ユーリに行かないと言われて焦る。
この世界のことも分からないし、森にと言われてもどこにあるのかも知らない。そんな状態でもし敵と遭遇したら、見えるのは死のみだ。
そんな出雲の様子に気が付いたのかミオが「一人じゃ行かせないわ」と笑顔で言ってくれた。
「あなたは私の救世主であり騎士よ。一人で行かせるわけないでしょう」
「あ、ありがとうございます……えっ? 俺が騎士ですか!?」
目を丸くして驚いてしまう。
救世主と言われているのは仕方がないとはいえ、まさか騎士と言われるだなんて思わなかった。力をもらったとはいえ、未だに魔法を扱えていない。そんな自分が騎士と呼ばれていいのだろうかと考えてしまう。
「出雲君は私の救世主であり、守ってくれる騎士よ。前に言ってくれたじゃない、守ってくれるって」
「確かにいましたが、まさか騎士といわれるとは思っていなくて」
「今は自覚がなくてもいいわ。だけど、これから多分私は狙われる。その時に出雲君は騎士になるか、他人として関わらないか選択を迫られるわ。その時までに答えを出してね」
ミオさんが狙わるってどういうことだ。
理解したいのに理解ができない。もっと詳細に教えてもらわないと駄目だ。でも、教えてくれそうな雰囲気は感じない。流れに身を任せた方がいいのかもしれないな。
「分かりました。ちゃんと答えを出します。それで、天使の秘宝がある森にはどうやって行くんですか?」
「それはね。ここから出て、洞窟を抜けた先にある岩壁の中にある森にあるのよ。散歩をしていたルナが見つけたみたいで、奥にある泉の側に天使の秘宝と似た特徴がある武器を見つけたようなの」
散歩で見つけるって結構な確率だと思うけど、さすがもとお姫様だ。
そういう運に恵まれているから、王族として生まれたんだろうな。羨ましい限りだし、少しぐらい運を分けてほしいくらいだ。
「それで、ヘリスに見つかる前にってやつですか?」
「そうよ。だからユーリと一緒に回収に行ってくれないかな?」
ミオの言葉を聞いたユーリは、とても嫌そうに顔を歪めていた。
さすがにイケメンには見えないが、それを度外視してでも行きたくないという表れだと出雲は察していた。
しかしルナから「お願いユーリ」という言葉が発せられると、花が咲いたかのような眩い笑顔で「すぐに回収してきます!」と元気な声を発したのである。
「ルナ様のために、天使の秘宝を必ずや手に入れて参ります! さ、行こう出雲! 今すぐに!」
「えっ、ちょっと、引っ張るなよ!」
むかつくほど煌びやかな笑顔のまま腕を引っ張られる。
振り解こうとしても振り解けない。細い腕のどこにこれほどの力があるのかと思うほど、掴まれている腕の骨が軋む音が出雲に聞こえていた。
「早く天使の秘宝を手に入れてご褒美をもらいましょう!」
「ご褒美って?」
「もう分かっているでしょう? あれですよ、あれ」
腕を引っ張られて引きずられつつ、出雲は考える。
あれと言われて思いつくこと、しかもご褒美とあれば一つだけだ。だが、この思いついた答えがユーリの考えと合うかは分からない。
「俺にとってあれっていうのは、顔を踏んでもらうことなんだけど」
途端に氷る空気。
笑顔が消え、真顔になるユーリ。
遠くにいるルナとミオの冷ややかな視線。
その全てが出雲の身体に刺さっていた。
「天使の秘宝を手に入れて機嫌を直してもらいましょう。さすがに私も踏んでもらうなんて思っていませんでしたよ」
「あ、はい。普通に喜んでもらいます」
敬語で返答し、ユーリに引っ張られたまま洞窟を目指すことにした。
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