第12話 推しを慕うお姫様
推しであるミオの双丘を注視してから五分後。
オーレリア王国の元王族であるルナが、床に力なく座り込んでしまった。
「ル、ルナ!? どうしたの!?」
焦っているミオよりも早くユーリが駆けつける。
声を荒げ、興奮をしたからか過呼吸になってしまっているようだ。近くにあった袋を口元に当てたユーリは、抱えてベットに座らせた。
「ルナ様大きく息を吸ってください! 暫くしたら息が整ってくるはずです!」
「あ、ありがとう……」
とても苦しそうな表情のルナに対し、ミオは隣に座って背中を擦っている。
先ほどまでの言い合いはどこへやら。今はお姉様と呼ばれている通り、姉のように振る舞っているようだ。
「お、お姉様ありがとうございます……やっと前のようなお姉様に戻ってくれたんですね……」
「いや、その……そ、そうね。前と同じよ」
ルナは般若のような顔から年相応の少女という感じだ。
ミオは目を右往左往させて戸惑っているようだ。ここで前とは違うと言ってややこしくはさせたくないようで、冷や汗が布団に数摘落ちたのを出雲は見逃さなかった。
「あの冷や汗を瓶で保存したい。どこかに空き瓶はないかな」
周囲を見渡してもそんな物は見当たらない。
滴り落ちる冷や汗を眺めていると、ユーリが目の前が移動して「お望みですか?」と小さな空き瓶を見せてきた。
「急になんだよ」
「いや、欲しいかなと思いまして」
満面の笑みを殴ってやりたいが、した瞬間に腕を切断されるだろうからやらない。
しかし、どうしてユーリが小さな空き瓶を持っているのだろうか。もしかして、ルナの何かを集めているというのだろうか。まさか――専任騎士ともあろう高貴な騎士がそんなことをするわけがないはずだ。だが、もしもの場合を考えてしまう。
「もしかしたらだけど、常に空き瓶を持ってるのか?」
好奇心に負けて聞いてしまった。
イケメンがまさかそんなことをしないはずだ。いや――していないでくれ。お前はイケメンなはずだ。顔だけじゃなくて行動もイケメンであってくれ。
だが、そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれてしまうこととなる。
「当然です。ルナ様から出た水分や髪の毛は可能な限り保管しています。そして、私の家宝として厳重に保管をしていますよ。見たいのならお見せしましょうか?」
「ははは……遠慮しておくよ……」
さすがにそれは引く。
まさか俺以上に気持ち悪い人間がいただなんて知りたくなかった。しかもそれがイケメンだなんて、世の中にはまだまだ敵わない人間が多いな。
イケメンで気持ち悪いことに少し親近感を感じていると、呼吸が整ったルナがミオに抱き着いて離れたくないと連呼している声が耳に入ってきた。
「お姉様と一緒にいる! もう離れたくない!」
「そんなこと言わないでよ……私はヘリスと戦って、国を取り戻さないとダメなの。それに、その戦いに大切なルナを巻き込めないなら遠ざけていたのよ」
「大切!? 今大切って言いました!?」
「う、うん。言ったよ?」
「やっぱりお姉様にとって大切な存在なんだ! お姉様ぁ!」
そう言いながら、ミオの胸元に顔を埋めて左右に動かしているルナ。
とても羨ましい。とてもとても羨ましい光景を見ていると、出雲は自然と身体が動いてしまった。あと数歩で胸元にダイブができると距離に近づいた瞬間、ユーリが身体を掴んで止めてきたのである。
「そこまでです。推しが嫌がることはしない。鉄則ですよね?」
空き瓶で集めているやつに言われたくないが、その通りである。
出雲は数歩後退し、心の中でミオに土下座をして謝っていた。止めてくれたユーリには感謝をするべきだが、推しが嫌がることをしているのはお互い様だと言いたい。
「止めてくれてありがとう。だけど、お前もルナの嫌がることしてないか?」
「いいえ。私は何もしていませんよ。どちらかと言うと、いずれ喜ばれるかもしれませんが」
とんだ勘違いイケメンだな。
絶対に怒られると思うが、後々に事の顛末を聞きたいものだ。そんなことを考えていると、ルナとミオの二人が口を揃えて「ねぇ」と声をかけてきた。
「どうしました? 何かありましたか?」
二人が口を揃えて話しかけるなんて不穏過ぎる。
ユーリと話していた間に何かあったに違いない。出雲は話しを聞くために一歩前に出ることにした。
「近寄るな地球人!」
「ぐへぇあぁぁぁ!?」
腹部を勢いよく蹴られてしまい、出雲はその場に蹲ってしまった。
とても痛い。みぞおちにクリティカルヒットしたのもあり、息すらまともに吸えない状態だ。
「ど、どうして……」
「ふんっ! 地球人が近寄るからよ! お姉様が呼んだのは愚かな地球人であるお前で、私が呼んだのはユーリよ。そこを履き違えて近寄ったお前が悪いわ!」
可愛い顔で辛辣なことを言う。
睨みつけるために顔を上げると、ルナの下着がスカートからハッキリと見えた。ピッタリとフィットしており、局部の形がとても美しいとしか思えない。
もう少し凝視していたいが、ユーリからの視線を感じたので下着が見れたことに免じて蹴られたのをを許すことにした。
「それはすみません。てっきり呼ばれたと勘違いしてしまいました」
腹部を擦りながら謝るとルナが「勘違い地球人」と冷めた顔で言ってきたので、次は間近で下着を見てやると決意した。
「喧嘩しないの。二人に頼みごとがあるんでしょ? ちゃんと言いなさい」
「お姉様ごめんなさい! 怒らないで!」
怒っていたと思えば途端に涙目になるルナ。
感情がジェットコースターで見てて飽きないなと思っていた。しかし話しが進まないのも退屈なので、ミオに抱き着いて泣いているルナに話しかけることにした。
「あの、頼みってなんですか?」
また罵倒されるだろうなと思いつつ話すと、ルナは大きなため息をついた。
「はぁ……お姉様の前だからもう罵倒しないわ。それで頼みだけど、ユーリと共にここから北にある森に行ってほしいの」
「森? そこに何があるんだ?」
森に行ってと言われても意味が分からない。
地球での経験や考えが通じないパラトピアでは、常に最悪を考えていた方がいいと出雲は学んでいた。
「そこに――天使の秘宝が眠っているの」
天使の秘宝って、まさしく異世界じゃないか。
本当に地球とは違う世界で、存在から違うんだな。それにしても、どんなモノなんだろうか。
「秘宝ってどんなモノなの? ていうか、天使ってこの世界に存在するの!?」
「天使っていうのは、この世界にも存在しないわ。昔にいた種族の名称で、今いるパラトピアの人間より魔法を扱うことに特化して、魔法を元にした技術に精通していたらしいわ。なんでも、天から知識を授けられたかのような未知な魔法技術を扱っていたことから天の使い――忽然と姿を消した天使族と言われているわ」
忽然と姿を消したなんて、明らかにおかしな種族だ。
俺のいる地球にも、ある日に突然存在が消えた民族がいるけど、それと似た感じだな。姿を消したということは、この世界のどこかで今も生きているってことだよな。その種族――天使が残した秘宝って、とんでもないモノだ。
秘宝の凄さを改めて思い知った出雲は、ルナに詳細を聞こうと決めた。
「それで、秘宝ってどんなモノなの?」
「分からないわ。なんでも一振りで世界を変えるって言われているから、武器の類だと思うわ。だけど、形状も何もかも分からないの」
それでどう探せというのだろうか。
さすがに無理過ぎる。出雲は頼みを断ろうと口を開こうとした瞬間、ミオが「パラトピアを救うためなの」と言い放つ。
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