第7話

「それでは失礼しますね。」


そう、婚約者になったらしいヘレネが言う。


「え、ええ。」


突然王女様が婚約者になったのだ。混乱しないほうがおかしい。もしかしてあのスキルのせいか?「神の奇跡」のせいで俺のバトルを見て、惚れちゃったのか?俺ってそんなかっこよく戦ってるのかな?自分でそんなこと考えるなんて恥ずかしいや。まあ、婚約者が2人も出来たし。前世の俺だったらありえなかったな、もともと日本人だったから。


「セルス、これからよろしくね!」


アテネが満面の笑みでいう。何かが吹っ切れたようだ。


「私、ずっとセルスにどうやって思いを伝えようか悩んでたんだ。やっと伝えられてスッキリしたわ。ヘレネもいるけど、その…ちゃんと愛してね。」


アテネが顔を真っ赤にしている。


「う、うん。がんばる。」


「セルス君。アテネちゃんがかわいいのは認めるけど私もちゃんと見てね。やきもち焼いちゃうよ。」


俺が2人に挟まれて困っていると、森のほうから


「君が噂のセルスっていうあの忌々しいスキルを手にした小僧か。あの方のためにもここで死んでもらう。」


と頭に角をはやした男が近づいてきた。


「あの頭の角!まさかあなたは魔人ですか!」


そうアテネが焦ったように言う。


「そうかあれが…。」


この世界において、魔人というのは忌避の対象である。この国の初代国王陛下が人族を救出する前、人族は魔人により家畜のような扱いを受けていた。そのため、今でも魔人を見かけるとすぐに魔人討伐の兵を出し、討伐するのだ。


「なぜ魔人がここへ?」


俺が問うと


「わが偉大なるあの方は君の身体を欲しておられる。というわけで、早速だが死んでもらう。」


そう魔人が言うとすぐにこちらに向かってきた。


「くっ…。」


俺はとっさに剣を抜き魔人のこぶしを受け止めたが、勢いは殺せず突き飛ばされた。


「ぐふっ。」


「セルス!」


「大丈夫だ。かるく背中が木に当たっただけだ。」


俺はアテネを安心させるためにそう言ったが、なかなか痛い。次当たった意識が飛んでしまいそうだ。ならば早く終わらせないとな。


「身体強化」


俺はそう唱えると魔人に向かっていった。


「カキーン」


魔人が脇からだした剣で受け止める。


「ふっ。なかなかやるな。」


結構本気で向かったんだけどな。こいつ意外に強いぞ。


「鑑定。」


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ステータス


セト 魔族 31歳 Lv42


称号:


HP:1029/1029


MP:120/120


筋力:510+500


俊敏:472+500


防御:420


器用:214


運 :0


固有スキル:魔物調教 


通常スキル:剣術Lv5 剛力(中) 俊敏 (中)


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なるほど。通常スキルのせいか。もともとの能力なら俺が圧勝できるのだが。……ん?そうだ。俺って通常スキル全部使えるんだっけ?ちょっと使ってみるか。


「剛力」


俺はつぶやく。すると、体の中から力がわき上がってくる。


「シュイン」


「ぐっ。なんだこの力は。さっきは本気出していなかったのか。ならこれでどうだ。」


そういってセトは右手を高く上げた。すると周りの森が騒ぎ出した。そして魔物が飛び出してきた。


「ここは私たちに任せてください。」


そうアレスがいい、アテネと一緒に魔物を倒してくれている。


「わかりました。俺がこいつを絶対倒します。」


「これでお前とは1対1だな。いくぞっ。」


こいつはスキルに頼ってばっかだな。剣の太刀筋がへなちょこだ。


「おまえ、剣の修行なんてしたことないだろ。だから、ほら。隙だらけだ。」


そういうと、俺はセトの脇腹に剣を叩き込んだ。


「ぐふっ。」


なかなか防御が固いな。もう一発叩き込むか。


「ザシュッ。」


と、セトの右手と剣が地面に落ちた。


「手があああああああ!」


セトが叫んだ。


「これで終わりだ。」


セトの首が飛んだ。俺が魔人とはいえ人を殺したのか。やっぱり気持ち悪い。人は殺したくない。


「げぷっ。」


「大丈夫ですか?セルス君。私も初めて殺めてしまったときには、そのようになりましたよ。悲しいことですがそのうち慣れてしまいます。まあ、そのあたりも含めてこれから教えましょう。」


アレスが近づいてきて言う。頼もしいな。イケメンだし。


「セルス~。大丈夫?」


アテネが心配そうな顔をして言う。


「うん。多分大丈夫。結構気持ち悪いね。この感覚は忘れたくないね。」


「そうなの?」


「まあ、でも俺たちは魔神討伐をしないといけないからね。もっと強くならないと。あれでもただの魔人っぽいからね。」


「うん。」


そうだ。俺はもっと強くならないと。魔神討伐をしないといけないんだ。


「それじゃあ特訓するか。」


「ちょっとセルス君。君まだ戦うなんて言わないよね。もっと体を大事にしないと。」


ヘレネが頬を膨らませながら言う。


「い、いや。た、戦うなんて考えてないっすよ。いや、全然。」


ヘレネの無言の圧力が怖い。あの魔人のほうが弱く思えてくるぐらいだ。これが王室の力ってやつか。


変なこと考えていないでしょうね。」


「そんなこと考えてるわけない、よ…。」


「ならいいけど。」


女の子って怖いね。前世でも結衣の勘が鋭かったな。あいつどうしてるかな。元気にしてるといいんだけど。まあ、死んでしまったからには仕方ない。祈っておくか。


「あ、あと後日王宮に急に呼ばれると思うよ。魔人を倒したんだからね。婚約の話もしとかないと…。」


王宮って。恩賞とかもらえるのかな。爵位とかならいらないんだけど。冒険者になりたいからね。


「あの…。爵位とかいらないのですが。俺、冒険者になりたいんで。」


「へえ。セルス君って珍しいね。普通なら爵位をもらいたいっていうんだけどね。しかも冒険者になりたいって。冒険者って危険ととなり合わせだから不遇職って呼ぶ人が多いんだよね。」


「まあ、強くなりたいので。」


「おっ。セルス君。やる気が出てきましたか。明日からみっちり鍛えて差し上げますよ。」


「よろしくお願いします。」


「とりあえず今日のところは帰りますか。ではまた後日。」


「ではまた。」


そういうと俺たちは別れた。

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