第5話
2年後の夏、アングルス家に家庭教師が来た。アテネを育てるらしい。
「アテネのことをよろしくお願いしますね。」
お義母さんが言う。
「任せてください!この私、『白い死神』アレスが立派な戦士に育てて見せます。」
アレスと名乗った男は、イケメンで体格もいい。アテネが誑かされないか心配だ。
「ついでと言っては何ですがあの子も育ててやってください。大分見込みがあります。スキルも初代皇帝と同じものなんですよ。」
「なるほど。なかなかに鍛えがいがありそうですね。」
アレスと名乗った男がこちらを見ながら言う。なんか獲物を見るような目で見てくる。怖いな。
「あなたがセルスですか。王都のほうまであなたの噂が聞こえてきますよ。私があなたをこの国、いやこの世界最強の勇者に育てて見せましょう。あなたにその覚悟があれば、ですが。」
アレスがあおるようなことを言ってくる。まったく腹の立つやつだ。
「いいだろう。俺を最強にしてみろ。」
「はっはっはっ!なかなかに骨のありそうな方ですね。」
突然笑いだすとか変な奴だな。
「変なことを教えるなよ。」
「これでも人を育てるのは得意なものでして。」
「はっ。そうかよ。」
あいつめっちゃ腹立つな。殴りたいがお義母さんに迷惑をかけるわけにはいかないからな。今は我慢してやろう。そうだ。アテネに知らない人に会ったら鑑定しとけって言われてたな。
「鑑定」
俺は小さい声でつぶやく。
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ステータス
アレス 人族 29歳 Lv36
称号:なし
HP:501/501
MP:361/761
筋力:340
俊敏:182
防御:254
器用:449
運 :10
固有スキル:感情増幅
通常スキル:身体強化(Lv7)剣術(Lv9) 教授(Lv5)
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「感情増幅」って…。だから俺はさっきあんなに腹が立ってたのか。スキルのせいだと思うとなんか怒りが収まってきたな。アテネに感謝しないと。
「私の顔に何かついていますか。そんなにみられると恥ずかしいんですが。」
アレスがこちらを見ていう。
「いや、何でもないぞ。俺は男に対して欲情したりしないんでな。」
「そ、そうですか…。」
アレスが驚いたような顔を見せる。
「明日から頼むぞ。」
「え、ええ。」
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翌日、俺とアテネは森に来ていた。
「セルス!楽しみだね!」
アテネがハイテンションでいう。そう、昨日アレスが森に行って魔物を狩ると言い出してからアテネのテンションがおかしいのである。2年以上アテネと一緒にいるため、アテネのことは大体わかっているつもりだ。普段のアテネは、もっとおしとやかで上品な女の子である。また、めったにこんなハイテンションになることはなく、おとなしく、家族でサプライズパーティーを行った時でさえ、おとなしかった。それなのにこのハイテンションだ。もしかしてアテネって…。
「どうしたの?セルス。」
アテネが心配そうな顔をして言う。
「いや。何でもないよ。」
「この森は危険なのですよ。緊張をほぐすのはいいですが、気を抜きすぎないようにしてください。この森は危険な魔物が多く出るのですよ。」
アレスがそう説教する。
「「はーい。わかりました。」」
俺たちはその後、無言で森を進んでいった。アテネのテンションはおかしかったが。
「おっ。魔物が出ましたね。まずは、セルスさん。あなたからお願いします。」
俺は目の前のスライムのようなものに向かって構える。
「その魔物はまあ、ダダのスライムです。攻撃力や防御力は低いので透けて見える魔石を壊せば殺せます。」
「了解。」
俺はスライムに向かって剣を向ける、とスライムは俺に気付いたのか、こちらに向かってくる。俺は近づいてきたスライムの中の赤く光る石のようなものに向かって剣を突き刺す。と魔石が壊れスライムは崩れた。すると、頭の中に
『レベルがアップしました。スキルポイントをゲットしました。ステータスがアップしました。』
という無機質な声が流れた。
「なっ、なんだ。」
「どうしたのですか?スライムに対する攻撃もよかったですよ。何も悩むことはありません。」
アレスが慰めるように言う。
「いや、何でもないよ。」
頭に流れた声の件は後でじっくり考えよう。スライムとはいえ、生き物を直接この手で殺したわけだが、何も感じないな。日本人だった時の感情が邪魔するかと思ったんだが。もう俺はこの世界に慣れてしまったのかもな。
「では、つぎにアテネさんの番です。おっ!ちょうどそこにゴブリンがいますね。ではあのゴブリンを倒してきてください。人族でいう心臓の位置に魔石があります。そこを刺してください。」
そうアレスが言うと、アテネは、緑色の小さい人型の魔物に向かって言った。
「あなたが私の初めての相手ね。」
アテネは、ゴブリンに向かっていった。すると、瞬く間にゴブリンと距離を詰め、胸に剣を突き刺した。そしてゴブリンが崩れるのを見るとこちらを見て、Vポーズを満面の笑みでした。
「「おっ、おー。」」
俺とアレスは、何も喋ることはできなかった。そして悟った。アテネは、超ドSなのかもしれないと。そんなくだらない、いやくだらなくはないがそんなことを考えていると、突然森の中から轟音が聞こえた。
「なにごとですか!」
アレスはそう言うと、
「いきましょう。」
と走り出した。俺たちもそれについていくと、開けた場所に出た。そこでは、魔物と騎士らしき人たちが争っていた。
「加勢します!」
俺たちはそう言うと、魔物を殲滅すべくその争いに加勢した。
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「おっ。新しい獲物が来たようだね。うん、それなりに楽しませてくれそうだ。あの方もさぞ喜ばれるだろう。こいつらの魂さえあれば私達の野望が!」
そのつぶやきを聞いたものはいなかった。
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