第19話  穏やかな冬の休日。


今日は休み…。


活動休止と決めたとたん、なんとなく身体と心が軽くなる。

今日は部屋から出ない。


部屋の中には俺ひとり。


さてさて…。


どうしましょうか?

どうしましょうかって、もう、昼過ぎだしな。


娘が、めしもおにぎりとみそ汁を作ってくれてる。


まずは…娘に、めしのお礼で、洗濯物を取り込んでやろうかしらん?


ベランダに出て、すっかり乾いてほかほかの洗濯物を取り込み、部屋の中へ投げ込む。


う〜ん…。


取り込むだけぢゃ、ダメでしょう?


仕事はきちんとやらないとね。


俺は、洗濯物を、たたむことにした。


山に積まれた洗濯物を前にし、俺はあることに気づく。


俺ってば…服、たたんだことがない…。

まぁ、なんとかなるでしょ…。


そうだ!気合いを入れるため、はちまきをしょう。


ん?


洗濯物の中に、タオルがない。


はちまき、できないぢゃん…。



しかたなく、しかたなくなんだ…。


俺は、目の前にあった、娘のパンツを頭にかぶり、はちまきがわりにする。


うーん…。


端から見たら変態っぽいけど、部屋には俺しかいない。


だから、 気にすることはない。


パンツをかぶると気合いが入った…。


よし!!


たたむぞ!!


俺は、娘がたたんでいるしぐさを思い出しながら、たたみはじめた。


ブラは、二つに折って、ひもを丸めて…。


ちょびっと違うようだが大丈夫でしょ?


パンツは細く丸めて、おまたの部分をお腹の部分に差し込むように折りたたむ。


よし!完璧じゃん!


パジャマも、うまくいった。


俺のパンツは、丸めとけばいい。


靴下やストッキングも、良いたたみ具合じゃない?


俺は満足してた。


Tシャツは?


そう言えば、以前、テレビでTシャツのたたみかたの裏技をやっていたが、んなこと、俺にはわからない。


二つに折って、長細く丸めときゃいいだろ。


さて、最後は娘の仕事に着ていくシャツだ…。


アイロンかけるんだっけ?


アイロンなんかあったっけ?


よし、そのままたためばいいことにしよう。

キレイにたためば大丈夫!


ん?

3枚、同じのがあるね。


まぁ、とにかくたたもう。


これって、買ってきた時のようにたためばいいんだよな?


こんな感じかな?


俺は同じ要領で、3枚のシャツをたたんでみた。


たたんだ3枚を重ねてみる。


あららら…。


3枚とも、たたんだ大きさが違うぢゃん!


あぁ…なんてこった…。


俺は3枚とも、たたみ直す。


重ねてみた…。


あきらかに、2枚目にたたんだシャツが大きい。


1枚目と3枚目は、1枚目の方が3枚目より、回りが2センチほど大きいが、2枚目のは、回りから5センチほど、はみ出している。


完璧さを求める俺は、3枚ともたたみ直す。


またダメ…。


たたみ直す…たたみ直す…更にたたみ直す…。


くやしい…。


指先に渾身のパワーをため、俺は、まるで、1センチ四方の折り紙で鶴を折るときのように、慎重にたたんだ。


3枚たたむのに1時間を有した。


そっと重ねる。


3枚、重ねる…。


ううぅ… 。

完璧!!


ついに、完璧!!!


そして、気が緩んだ俺は、急にう○こがしたくなった。


トイレに駆け込み、半分ほどした頃、玄関からチャイムの音が…。


慌てて、おしりに紙を挟み、パンツを引き上げ、扉を開く。


見ると、宅配業者。

俺は、急ぎ印鑑を部屋から持ち出し、判を押し、品物を受け取り、部屋まで戻った。


そして、その時、部屋の姿見の鏡に写る俺の姿に唖然とした。


鏡の中の俺と言えば、頭には娘のパンティーを被り、トランクスの右足の辺からは、尻に挟んだ、トイレットペーパーが8センチほど、垂れ下がっていた。


そう言えば、慌てて品物を俺に押し付けるようにして帰った、宅配業者。

その彼の顔を思いだしたら、めまいがして、俺は思わず後ずさった…。




その時…。


足の裏には柔らかな嫌な感触…。



そこには必死でたたんだ洗濯物のシャツが無惨に崩れていた…。


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