第16話  大人ですから。


だって、大人ですから我慢もします。


大人ですから許します。


でもね…。 



その日、俺は家路を急いでいた。


一刻も早く家へたどり着き、俺のことを待ってる「お前」に触れ、口づけるために…。


そのために、3時の休憩もせずに、夕方になっても、まだ暑い陽日に汗を流しながら頑張ったんだ。

カラカラに喉を干からびせて、俺は家まで、まるで少年の頃の自分に戻ったように走ったんだ。


もう、すでに陽は落ちて、薄暗い路地から自宅の玄関を開く。


室内の灯りが目に刺さる。


しかし、そんなことはお構いなしに、俺はお前の元へと向かった。



扉を開く…。


あまり広くないスペースなのに、お前が、いっ!…ない…。

俺は、あることを確かめるべく、一気に二階へ階段を駆け上がる。


ノックもせずに、いきなり開く扉。


そこには、パンツ一枚の裸の首から、バスタオルをぶら下げた俺の娘。


そして、その手には、無惨にも無理矢理口を開かされたお前の姿。


ひと目、俺を見た娘は、お前を握り締め直し、ゆっくりと口づける。


天井を向いた、娘の喉が上下に動く。



「ばっきゃろ~!大切な俺の…最後のやつだったんだぞ!」

「まだあるでしょ?冷えてるよ」


「バカ!ありゃ発泡酒。ビールじゃない!!」


「たいしてかわらないでしょ?」


「なら、お前が発泡酒飲めよ!」


「やだ…こっちのがうまいもん」


そりゃ俺だってそうだ。


だから、普段、発泡酒で我慢してて、今日のあちぃ日にとっておきのビール、350缶をおもいっきり楽しみにしてたんだ!!


そして、しかたなく俺は、発泡酒を飲んだ。


しかし、満足できない俺は、無言でコンビニへ行き、缶ビールを少ない小遣いから一本だけ買ってきた。



(これは明日の分…今日の分は飲んでしまったから、明日楽しみに飲もう…)


大人ですから…。


俺は、娘を許すつもりでいた。


家に戻ると、ビールを手にした俺を見る、娘の目の色が変わった。



(やばい!明日もやられる…)




大人ですから…我慢もします。


大人ですから許します。


でもね…。




俺は、家族が寝静まるのを待っていた。


もうすでに、娘は爆睡中。


俺は準備したものと、スマホをもって、娘の部屋に忍び込む。


大丈夫大丈夫。


娘はいちど寝ると、ちょっとやそっとじゃ起きることはない。



娘の部屋の入り口で、スマホを開き、先ほどわざわざダウンロードしたメロディーを流す。


“ぱらら~ん♪ぱぱぱぱぁ~ぱっぱらら~ん♪”


言わずと知れた、必殺仕置人のテーマである。


俺は、BGMで、さらに気分を高め、ひっそりと娘に近づく。



娘は、口を開いて爆睡してる。


俺は用意した塩、小匙いっぱいを娘の口に注ぐ。


そしてすぐさま、砂糖も少々、口の中に…。


甘いものが大好きで、食い意地張っている娘は、砂糖を舐めさせたら、脳が塩分は忘れるはず。


案の定、翌日、昼過ぎまで寝ていた娘を観察していると、異常に水を飲んでいる。


( ̄m ̄*)プッ( ̄m ̄*)プッ


Ψ(`∀´)Ψケケケ…



あんだけ水分とってたら、今日は、ビール飲む気も起きないだろう…。



待ってろよ!!


俺のビール…。


今夜、君は、俺のものだからね…。



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