第10話 ゼリービーンズ。
「いかないで!いっちゃいやー!」
些細な事から…私の我が儘から喧嘩になりあなたの腕を払い除け、私は車道へ飛び出した。
激しいクラクションの悲鳴に立ちすくむ…と、同時に私は突き飛ばされる。
ブレーキ音。
にぶい音がする。
私が立ちすくんだ場所には、あなたが横たわっていた…。
「いかないで…ひとりにしないで…いかないで…。」
あの日、私はあなたにすがって泣きじゃくっていた。
「今日もまた、あなたに逢いに来たよ…。」
坂の上の小高い墓地に私はいる。
「今日も一緒に…。」
あなたが逝ってから、何度、ここへ来ただろう。
最近やっと、涙を見せずにあなたに逢えるようになったね。
あなたは今日も微笑んでくれるの?
ふたりで過ごした時のように…。
気がつくと、あなたはいつでもとなりにいたね。
私をいつでも見守っていた。
私の話を聞いてくれた。
私の我が儘を叱ってくれた。
喧嘩した友達との相談にも真剣にのってくれた。
そして、私の涙を拭い、いつも私を包んでくれた。
そう…。
時には父親の厳しさで、
時には兄の力強さで、
時には師の教えを諭し、
時には友達の励ましを、
そして、
時には恋人の優しさで、私を暖かく守ってくれたね。
あなたがいつも私に手渡したのは、あなたが好きなゼリービーンズ…。
色とりどりの可愛いお菓子。
小瓶に詰めて、私へのプレゼント。
貧乏だからこんなものしか…って、頭を掻いて、私に照れながら手渡した。
どんなに高価な宝石よりも私には小瓶のゼリービーンズがきれいに見えて、食べるのが惜しくていくつもいくつも飾っていた。
大好きなあなた。
大好きなあなたがくれたゼリービーンズ。
眺めてるだけじゃ駄目なんだよね。
いくら大切なものだって、急に手の届かぬところへ、いっちゃうこともあるんだから…。
そう…あなたのようにね…。
「どうして私に優しいの?」
「だって、俺がいなきゃ、お前ダメじゃん。」
「私はあなたに何もできないよ。」
「んなこと、気にするな。お前が楽しきゃ俺は嬉しい、お前が悲しきゃ俺は切ない…それだけさ。いい女になってお前を幸せにできる男が現れるまで俺がお前を守ってやるから…俺じゃお前を幸せにできないから…。」
そんなことなかったよ。
あなたは私に幸せくれた。
あなたと一緒の時、私は幸せだったよ…。
「今日も一緒だよね?…そばにいてくれてるよね?」
最後まで、あなたは命を投げ出してまであたしを守った…。
だから、あなたは逝ってないよね?
まだ、きっと、ここにいるよね?
あなたがくれたゼリービーンズ。
口に含むとあなたの温もりを感じる…。
今日もあなたに逢うために、赤や黄色のゼリービーンズ…
だからまた、小瓶のふたをそっと開いた…。
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