大陸暦1526年――歪んだ日常
やはり嫌がることだった……。
監獄棟の通路を歩きながらため息をつく。
それでも『なんでもしてもいい権利』を報酬にしてしまった以上、約束は守らなければなるまい。事件を解決してくれたことはもちろんのこと、一応でもあいつは私を助けに来てくれたのだから。
私は犯人に捕まったときのことを思い起こす。
ラウネが来てすぐ、私の意識は闇の中に沈むかのように落ちていった。
彼らとラウネが会話をしていることは分かっていたが、その声は水の中にいるようにくぐもっていて、言葉を判別することはできなかった。
しかし、それでも意識が途切れる前に一つだけ、はっきりと聞こえた声がある。
――なに、勝手に人のものを壊そうとしてくれてるの?
ラウネの声だった。
誰がお前のものだ、という突っ込みはさておき、どうやらあいつはあいつなりに私の心配をしてくれていたらしい。普段の飄々とした態度からは想像もつかないぐらいに、感情を含んだ声を出すぐらいには。
正直、ラウネについては、士官学校からそれなりの付き合いである私にもまだ分からないことが多い。
あいつがどのように育って、どうしてああなったのか、私はなにも知らない。
私のことをどのように思っているのかもよく分からない。
それでも、自分勝手なあいつがすぐに助けに来てくれたことからするに、口先だけでなく、私のことを少なくとも友人ぐらいには思ってくれてはいるのだろう。
……いや、
ていうか、人のもの、って言うあたり、絶対、思ってるよな。
普段の扱いもそれに近いよな。
そう考えると、友人と呼べるのかも自信がなくなってきた……。
私は息を大きく吸ってはく。
まあ、うだうだ考えても仕方がない。
事件は解決したんだ。今はとりあえずそれでいいではないか。
あとはラウネの嫌がることに耐えれば、これでまたいつも通りの日常が戻る。
いや、よりよい日常だ。
もうすぐ正式に補佐も付くし、少しは仕事も楽になるだろう。
そう考えると心なしか、尋問から沈んでいた気持ちが軽くなった気がした。
気分も大分よくなってきたし、溜まっていた書類仕事も片付けたし、今日は早めに仕事を終わらせて家に帰ろう。
そして、いつものように、みんなに見守られながら食事をするのだ。
生きている以上は、生きていることに感謝して、生きるために命を喰らおう。
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