大陸暦1526年――薬の種類4
「ホルホルよくできましたー」
「ありがとうございます!」
マルルがいつもの明るい笑顔を浮かべた。
「では、なにが目的なんだ」私は訊いた。
「そんなの想像すれば分かるじゃんー」
「普通は分からないんだよ」
そう。普通の人間に、殺人者の思考が推しはかれるものならなにも苦労はしない。
「やだー普通ぶっちゃってー」
ラウネが
「ぶってない。私は普通の人間だ。お前と違ってな」
「そりゃー私は悪魔だもんー」
「そういう意味ではない。お前は普通の人間よりそういうことに長けてるという意味だ」
「だから悪魔――」
「違う。お前は人間だ」
言い切るとラウネは不満そうに頬を膨らませた。
こいつは隙あらばすぐに自分のことを悪魔にしたがる。士官学校時代にその悪名が学内で広まってからというもの、自ら進んで自称しようとする。そんなラウネを私はその度に否定してきた。だからこのやり取りもいつものことだ。
頬を膨らませたラウネが睨んでくるので、仕方なくそれを受け止めていると、その様子を見かねたのかマルルが取り成すように間に入ってきた。
「お二人は本当に仲がよろしいですよねぇ」
いや、取り成してないな。私たちの気持ち次第では煽ってきているな。それ以前に睨み合っているこの状況を見て、なんで仲がいいだなんて思うんだ? あれか? 喧嘩するほど仲がいいという文言に
「仲よくないもんー。こんな頭がカチコチな人とはもう絶交だもんー」
こっちはこっちでなんか子供みたいなこと言っているし……。
私は内心でため息をつく。普段ならこのまま
……全く、仕方がないな。
「私が悪かったから、話を続けてくれ」
ため息交じりにそう言うと、ラウネが疑いの半眼を向けてきた。
「本当に悪いって思ってるー?」
「思ってる」
思ってないけど。そもそも喧嘩したつもりもないし、なにに対して謝っているのかもよく分からない。だが、こういうときは自分に否があるようにしておけば、大抵の物事は丸く収まるというものだ。
ラウネはじーと私を見たあと「仕方がないなぁ、許してあげよー」と言った。なにを許されたんだ私は。
「それで、犯人が薬を飲ませるのはなぜなんだ」私は話を戻す。
「わざわざ致死性のない薬を選んでるところからしてー苦しませるかーもしくは苦しむのを見ることが目的だねぇ」
「ですが獄吏官長」マルルが言った。「それでしたら三つの薬を混ぜ合わせなくとも、最初から致死性がない毒を一つ飲ませたほうが早いのでは」
「そうそこー」ラウネがマルルを指さした。「三つの薬を組み合わせたのにはーなにか
ラウネが手を組んで天井を見る。
「実に興味あるなぁ。どういう心理でそれを行なっているのかぁ」
その表情はまるで恋する乙女のようだ。もう完全に犯人に心を奪われている。
普通では考えられないような行動をする犯人に会ってみたくて、中身を知りたくて仕方がなくなっている。
それ自体は悪いことではない。ここまで来ればもう、途中で
だとしても私には理解できなかった。
ラウネが異常なものに興味を持ち。
普通ではないものに心惹かれる気持ちが。
私には……理解できない。
「ともかくにも、その薬を売っている店を捜せばいいんだな」
「それとー事件前からの販売記録もー。半月分は欲しいかなぁ」
ラウネが文書を差し出してくる。
「分かった」私はそれを受け取り出入口へと向かう。
「あー分かったら教えてねー」
「ああ」
それを背で聞き、私は部屋を出た。
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