薄氷

清見こうじ

薄氷

 薄い氷と書いて、「うすらい」と読む。


「うすごおり」でも「はくひょう」でもいいけど、私は「うすらい」という音が好きだ。


 特に、道端の、すりガラスのように白濁した薄氷うすらいを踏んで歩くのが、好きだ。




 早朝、まだ誰も踏んでいないまっさらな薄氷を見つけて、一番乗りでパリパリ、ミシミシと踏み割る。


 


 繊細な気象条件の妙たる、自然の芸術品を、無情にも踏みしだく。



 パキッ。


 ミシッ。


 ギュッ。




 ブーツ越しに伝わる感触がかすかな音を拾う。




 ほんの少しの罪悪感を味わいながら。




 どうせ放っておいても、数時間後には溶けてしまうのだから、とは思うものの、そのわずかな命を奪ってしまう後ろめたさをスパイスに。


 


 固い氷とも、きらびやかな硝子ガラスとも違う、軽やかな破壊音が心地いい。




 パリン、パリン。




 ミシッ、ミシッ。




 寒いのは、嫌い。


 でも、薄氷を踏むのは、好き。




 そんな矛盾に満ちた、冬の朝のささやかな楽しみ。




 平和な日常の、小さな悪戯いたずら


 

 




 さて、今日も、がんばろう。



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薄氷 清見こうじ @nikoutako

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