第10話 ゴーストバイト



「……またアンタなの? もう来ないでって言ったわよね」



「へ~い大将!! やってるぅ~??」



「それはもういいわよ!!」



 数日後、ふたたびエルダーちゃんのいる空き家を訪れた。



「帰って。ここはパパとママの大切なお店。絶対に壊させないから……!」



「それなら大丈夫。この店を取り壊すのは無しになったよ」



「……どういうことよ」



 怪訝そうな表情を浮かべるエルダーちゃん。

取り壊さなきゃいけない理由も本心では理解していたはず。それが急に大丈夫になったらそりゃ戸惑うよな。



「空き家だったこの家、俺が買ったんだ。今日からここに住むから。よろしくね」



「……えっ?」



「あと、ここのお店も使わせてもらうね。ここで、喫茶店、始めようと思ってるんだ」



「…………えっ?」





 エルダーちゃんのいる空き家を解体せず、老朽化による倒壊も防ぐ。それでこの問題は解決する。

そのためには、ここを空き家のまま放置せず、誰かが住んで管理すれば良い。

それに、こんな素敵な喫茶店を潰してしまうのはとても惜しい。



「だから、俺が住むことにした。役所に行って、喫茶店を営業する手続きも済ませてきた。今日から俺がこの店のマスター……いや、店長かな」



 経緯の説明のために、町を統括している役所へ行ったら、初日に宿屋まで案内してくれたNPCおじさんが出てきた。

なんとここ、ネオグリム町の町長兼ギルド長らしい。まあそれはどうでもいいか。



「……どうせエルダーが死んだときの話聞いて同情でもしてるんでしょ。それだけじゃ続かないよ、喫茶店やるの。そんなに簡単じゃないよ」



「君にこれっぽっちも同情してない、と言ったらウソになるけどね。俺、これでも元々喫茶店の店長だったんだ。ちょっとこう、ご奉仕というか、

魔法のおまじないを使える店員さんがいたりする所だけど」



「なんかいかがわしいお店じゃないのそれ」



 そんなことないよ。健全だよ。じゃんけんとかしてたし。



「とにかく! 俺はここで喫茶店はじめるし、途中でやっぱやめた~とかもしない。だからさ、エルダーちゃん」



「……わかった。でもまたお店壊そうとしたら化けて出るから。ずっと見てるから」



 エルダーちゃんは、ここで喫茶店を始めることを許してくれた。でもそれだけじゃない。



「あーそれで、エルダーちゃんさあ」



「なに?」



「ウチでバイトしない?」



 ……。



 …………。



「はぁっ!?」



「いや~食材とか開店費用とか考えたら従業員雇えるお金がなくてさあ。」




 ちなみにこの家は、ギルド依頼の報酬だった5万イェーンと交換で手に入れた。色々な意味で訳アリ物件だったから破格のお値段だ。



「えっエルダーがここで働くの……? 働いて、いいの?」



「エルダーちゃんなら喫茶店の勝手も分かってると思うし、一緒に働いてくれないかなあ。時給はしばらく情熱価格なんだけど」



 逆ドン○ホーテ。



「エルダーは、幽霊なんだよ? ここで働くなんて……」



「そんなの関係ない、むしろ大歓迎! 言ったろ? 俺は死霊術士だって。死霊術士の灯乃下こごみ店長さ」



「死霊術士の……こごみ、店長」



「おう! 実はな、いい死霊術があるんだ。これを使えば、俺が死なない限り、

エルダーちゃんは誰かに浄化されたり、封印されたりしない。安心してここで働ける。この喫茶店にいられる」



 そんな術が……? とエルダーちゃんが首をかしげる。かしげすぎて180°くらい曲がってる。

急に幽霊出してくるのは心臓に悪いからやめてくれ。



「ああ。それはね、”バイト契約”っていうんだけど」

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