第9話 地縛霊エルダーちゃん


「ここが美少女幽霊ちゃんのいるお家か……」



『女の子の地縛霊なの。美少女とは言ってないの。性癖は盲目なの』



 ギルドに依頼を受けることを伝え、場所を教えてもらい、メリィちゃんに罵倒されつつ、空き家に到着した。

ギルドのお姉さんには、え、マジでこの依頼受けるの? みたいな顔されたけど。だって会ってみたいじゃん。女の子幽霊ちゃん。



 空き家になる前はマスターが一人で喫茶店をやっていたという情報通り、趣のあるお洒落な外観をしている。

ギルドとしては、空き家だとどうしても老朽化による倒壊などの危険性があるため、取り壊しておきたいらしい。



 メイドカフェとはいえ、喫茶店で働いていた身としては、こんなに素敵なお店が空き家になって寂れてしまうのは切ないなあと感じた。



「よし、入るか」



 扉を開け、カランコロンとドアベルが鳴る。



「へ~い大将!! やってるぅ~??」



「ウチは居酒屋じゃないんだけど!!」


『そのテンションでいくのは命知らずなの!』



 ……。



 …………。



「あっ、で、出ていけ~……出ていけ~……」



「お嬢ちゃんかわいいね。盛り塩食べる?」



「食べないわよ!!」



 地縛霊は元気いっぱい、黒髪ロングの可愛らしい女の子だった。俺の勝ち!



「はじめまして! 俺は死霊術士の灯乃下こごみ! 君の名前は?」



「……エルダー」



「エルダーちゃんか、良い名前だね。えーそれで、お店が老朽化して倒れる前に解体したいんだけど……」



「ヤダ!!」



「そっかあ嫌かあ~^^ よし、あきらめよう」



『あきらめが早すぎるの! もっと粘るの!』



 一応説得してみるも駄々をこねられ即敗北。

死霊術士おじさん、幽霊少女に弱すぎる件について。



「……ここはパパとママのお店だもん。エルダーがお店守るんだもん!」



「……」



 そうか、この子は……



「わかった。今日はもう帰るよ。おじゃましてごめんね。またね」



「……ふんっ。もう来なくていいわよ。」



 店を出て、一息つく。



『それで、これからどうするの? これじゃあ依頼達成できないの』



 メリィちゃんがあきれたように聞いてくる。



『ん……ちょっとな。』



いったんギルドに戻り、受付のお姉さんに話しかける。



「あれ、ヒノシタさん? もしかしてもう解決したんですか?」



「いや、ちょっと確認したいことがあって。亡くなったマスターの家族構成について……」



……。



…………。



「さーて、どうすっかなあ……」



 亡くなった喫茶店のマスターについて、生前に付き合いがあった人や、お店の常連だった人を紹介してもらい、話を聞いてきた。



 あの喫茶店はもともとマスターと、マスターの奥さんが二人で始めたお店らしい。

二人には”エルダー”という名前の娘がいた。家族三人、幸せな家庭を築いていたようだ。



 そんなある日、店に盗賊が入った。店は閉店後で、母は厨房で夕食の準備、父は明日の食材の買い出しに。



 喫茶店のテーブルを拭いていたエルダーは盗賊に気付き、盗賊もエルダーに気付いた。

盗賊は盗みが失敗したことを悟った。騒がれて大人に見つかる前に、逃げ出さなくてはいけなかった。



 だから、母親に知らせようとするエルダーを、騒がれる前に、殺さなければならなかった。


 

 結局、盗賊はなにも盗むことなく、店から逃走した。



 母親は盗賊に気付かなかった。

夕飯が出来たので、買い出しから帰ってきた父と一緒に、娘を呼びにいった。



 そこには、口を塞がれ、首を絞められて、息絶えている、娘の姿があった。



 娘を失った両親の心が癒え、ふたりで喫茶店を再開するには長い年月がかかった。



 それからはふたりで喫茶店を切り盛りし、また長い年月が経った。

数年前に奥さんが亡くなり、それからはマスターがひとりで営み、そして先日、マスターが亡くなり、喫茶店は空き家になった。



 エルダーちゃんは、亡くなって地縛霊となってからも、お父さんとお母さんをずっと見守ってきたのだろう。

三人の想いが詰まった喫茶店と供に。それがエルダーちゃんにできる、唯一の親孝行だったから。



『こんな話を聞いちゃったら取り壊しなんてできないの。あまりにも、あまりにもなの』



『……取り壊しは無しだ』



 メリィちゃんの言う通り、こんな境遇を知ってしまったら、

とてもじゃないが、エルダーちゃんを討伐したり、家を解体することはできない。



『でもどうするの? それじゃあ依頼は未達成なの。 報酬もらえないの』



『取り壊しはしないけど、依頼は達成する。俺に良い考えがある』

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