第2話 名付け親ガチャ
「それじゃあ君は元々、グリズリー系の獣人族で、湖で魚採りをしていたところ魔物に襲われて死んでしまったと」
「おそらくは。そして目が覚めた時には何故か、こんな姿に……」
出会いが意味不明すぎて二人してしばらく固まっていたが、言葉が通じたので、
「敵じゃないよーだいじょぶだよー」とお互いにアピールしてちょっと落ち着いた。
そんでもって身の上話を聞いて、彼女がゾンビになってしまった経緯とかもちょっと把握。
改めて彼女の姿を確認する。
淡いブラウンのクセッ毛強めのゆるふわショート。その上には確かにクマっぽい耳が付いてる。右耳半分くらいちぎれてるけど。
クマ耳以外は普通に人と変わらない見た目をしている気がする。首に謎の縫い目があったり、肌の色が青かったり白かったりしてるけど。
襲われたのはまだ子供だった頃であろう、幼さが残る顔立ち。顔色めっちゃ青ざめてるけど。目元のクマもすごいし。クマだけに。……は?
「あの、あんまり見ないでください……」
「あっそうだよな、獣人族ってはじめて見たからさ、女の子に対する配慮が足りなかった。ごめんな」
これではメイドカフェの子たちに怒られてしまう。みんな元気にやってるだろうか……いや元気にはやってないだろうな。元々。
「いえ、女の子というか、クマだし、ゾンビになっちゃったし…、こんな醜い姿、うぅ……ぐすっ」
「えっ? いやそんなゾンビだから醜いとか全然ないよ普通に可愛いと思うよむしろ好き」
「えっ」
「あっ」
つい早口になってしまった。初恋はテレビから這い出てくる髪の長い女性です。
普通の人間には興味ありません。いっぺんシンで出直してこい。
某ゾンビィアイドルアニメもゾンビィ姿の方が好きだったし。ゾンビパーク蘇我。
ある意味この趣味のおかげで男ながらにメイドカフェの店長がやれてたところもあるかもしれない。
「わたし、可愛いですか? 獣人族なうえにゾンビですよ?」
「えっそんなん気にしなくていいって大丈夫だいじょうぶ」
「可愛いですか?」
「いや、あのこれは一般的にみて」
「やっぱり可愛くないんだ……ぐすっ」
「可愛いよ。可愛いって。今の方が。いや生前の君知らんけど」
「……はいっ♪」
メイドカフェ時代に似たようなやり取りがあった気がする。つよいわ。女の子。
「それで、えっと、お兄さんは……」
「そういえば自己紹介してなかったね。俺は灯乃下こごみ。灯乃下でもこごみでも好きなように呼んで。」
「ヒノシタ、こごみさん……それではこごみさんと呼ばせてもらいます。えへへ、よろしくお願いします」
少し照れ笑いを浮かべて名前を呼ぶクマ耳ゾンビちゃん。良。俺と一緒にメイドカフェをやらないか? やらないだろ。
「こちらこそよろしくね。それで、君の名前は……」
「実は私、自分の名前を覚えていなくて……」
さっきのはにかみ笑顔からテンション急降下でシュン……ってなってるクマ耳ゾンビちゃん。
耳もペタってしまった。怒られてる犬みたいでかわいい。片方耳ちぎれてるけど。
「ま、まあしょうがないって。ゾンビだし、言葉とか話せるし大丈夫だって。でもこれから名前を呼ぶときどうしようかな」
「…それなら、新しい名前、こごみさんが付けてくれませんか……?」
「お、俺が? 君の名前付けるの?」
「はいっ! お願いします!」
さて、どうするか。名付けなんかしたことない……と、言いたいところだが、実はないこともない。
お店の女の子たちがメイドとして活動するときのニックネーム、いわゆる源氏名ってやつは俺が付けていた。
ただあれはなー……こう、ふわっとした感じというか。電波っぽい名前にあえてしないといけないじゃないすか。
しかもここ異世界だし。子の名付けランキングとか知らないし。
「クマ、テディベア、ゾンビ。ゾン、ベア……ぞんべあ……ちゃん」
「ぞんべあちゃん……」
「あっいや今のはちがくて」
「ぞんべあちゃん! 気に入りました! ぞんべあちゃんって呼んでください!」
「えっ……ぞ、ぞんべあちゃん……?」
「はいっ! ぞんべあちゃんです!」
ぞんべあちゃんになった。
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