VSヴァルハザード 1

「お前ほどの相手だ、こっちも全力で挑まにゃなぁ!」

「うおおおお! 最初からクライマックスか、そういうの嫌いじゃないわ──って熱っち!」

 ヴァルハザードの全身が莫大な熱を宿す。ただでさえ大柄な肉体が膨張し、体長五十メートルにまで至る竜の姿へと変化する。

 顕現するは大戦期最強の火竜。途端に吹き荒れ始める熱風に、あやかは思わず顔を覆った。その大きな翼が羽ばたく度に焔の雨が降り注ぐ。真由美は咄嗟に白球を水の弾と化した。しかし圧倒的な熱量に、なけなしの水はすぐに消えてしまう。おもわず唇を引き結ぶ真由美だが、それとは対照的にあやかは目を輝かせていた。

「──いいな、いいな! 俺様のハートも燃えてきたぜ!!」

「っ……高月さん! 足場を!」

「サンキュー真由美っ!」

 叫び、あやかは跳んだ。真由美が空中に『創造』した足場を蹴り、ヴァルハザードの巨体へと拳を振りかぶる。同時にヴァルハザードも息を吸い込んだ。吐かれたブレスが竜の形をとり、射線上のあやかへと纏わりつく。

「うおっ!?」

「た、高月さん!?」

「安心しろ俺様はこの程度なんてことねえあっちいいいいい!!」

「とても大丈夫に見えないんだが……」

「と、とにかく対処法を……!!」

 咄嗟に真由美がワールドヘッジを覗き、そして絶句する。隣でシンイチロウがアイボリーの銃爪に手をかけ、問いかけた。

「メルヒェン、どうだ……?」

「ひゃ、ひゃい!」

 びっくりして声が裏返った。赤面しつつ、真由美はあくまで冷静に報告を始める。

「……理解できたことは、その炎は触れるものすべてに纏わりつき燃やし尽くすこと。恐らく一度に複数体出せること。そして、……振り払うことは絶望的に困難であること……です」

「……なんてやつだ」

 シンイチロウの首筋を汗が伝う。ただでさえ降り注ぐ焔の雨に加え、触れたものに纏わりつき焼き尽くすブレス。そしてただでさえ圧倒的な基礎能力。いくらあやかとはいえ、その攻撃を一身に受け続けてはいつかは限界が来る。

「とにかく高月さんを──」

「……──っ、はっ、あっははは……!」

 ……笑い、声。真由美とシンイチロウが顔を上げ、ヴァルハザードが鷹揚にあやかへ視線を向ける。纏わりつく炎に苛まれながらも、あやかは笑っていた。リペアの魔法が自然治癒力を無限に『増幅』する。焼き焦がされる苦痛すら彼女の情念を揺さぶり、力と成す。

「まったく! こんなに熱烈なハグされちゃ燃えちまうぜ!? 物理的に! ひゅー、俺様もってもてー!」

『かっか! お前随分おもしれー奴だな!?』

「あんがとよ! そんじゃあ熱烈なリクエストにお応えして──リロード、リロードロードッ!」

 跳躍する。真由美が作った足場や飛行型救世獣を次々と踏みしめ、燃え盛る拳を握り締める。

「リロードリロードリロードッ! バーニングキャノンッッッ!」

『来いッ!』

 燃え盛る拳がヴァルハザードを打ち据えんと放たれた。ヴァルハザードも攻撃を受け止めんと前足を突き出す。ふたつの拳が拮抗するが、しかし相手は大戦期最強の火竜。あやかはあえなく吹っ飛ばされ、しかし咄嗟に真由美が出した足場を蹴って再び飛び掛かる。

「リロード、リロード、リロード──!」

 連続して吐かれる火球状のブレスを軽快に避けつつ、今度は巨体の側面へと移動する。その間にシンイチロウが拳銃を構え、真由美が無数の日本刀を生成しヴァルハザードにぶつける。しかしどれも呆気なくブレスで焼き払われ──そして、あやかの拳が再び振りかぶられる。

「リロードリロードリロードリロード! マキシマム・バーニングキャノン!!」

 再び渾身の拳を叩きつける。身を苛む炎の苦痛も、次こそは届かせるという想いもすべて力に変えて、圧倒的な風圧と共に拳を叩き込む。

 一瞬、降り注ぐ焔が止まった。拳の風圧にかすかに焔の勢いが弱まる。先ほどの一撃をはるかに超える一撃がヴァルハザードにぶつけられ──そしてその鱗に、音を立ててヒビが入った。

『ぐっ……!』

 一瞬ヴァルハザードが苦しそうな息を漏らしたが、すぐにその口元が笑みの形に変わった。これだ、これこそが彼が求めていた仕合。爆発的な笑い声を響かせながら、彼はあやかに向き直る。

『……くっ、はっははははは! 竜特攻も抜きに俺の鱗を砕くたぁ、やっぱり俺が見込んだだけはあるなぁ! マギア・ヒーロー!!』

「ははっ、そうだろ!? さぁ、もっと楽しもうぜ! ヴァルハザードッ!!」

 爆発的な熱風吹き荒れる中で、再びブレスと拳が交錯する。それを一歩引いたところで見つめながら、シンイチロウは真由美に声をかける。

「……あの竜型の炎が一番厄介だな。今はあいつに竜の意識が集中してるからいいが、他にも被害が出たらたまったもんじゃない。あいつがいつまでも燃えてるのも放っておけない。まずあれをどうにかするから、メルヒェンは援護を頼んでいいか?」

「っ、はいっ!」

 メルヒェンが勢いよく頷く。シンイチロウは二丁拳銃を握り締め、空中の足場に重々しく足をかけた。

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