フロンティア最終決戦編
決戦は突然に
──真っ先に動いたのは式神竜だった。それは唐突にセントラルの方へ顔を向けると、翼をはためかせて飛び立つ。嫌な予感を覚えたらしく、フェニックスは咄嗟にポケットをまさぐった。水晶に似た通信機を取り出すと、途端にノイズ交じりの声が響き渡った。
『緊急招集、緊急招集! 竜王軍が仕掛けた! セントラルに甚大な被害! 動ける者は、かつ戦う意思のある者は、エリア5のクオルト氷壁の裏側へ向かえ!』
刹那、緩みかけていた空気が一瞬で張り詰める。ある者は口元を押さえ、理不尽に歯を食いしばる。
「よ、よりによってこのタイミングで……!?」
「相手が弱っているところを叩くってわけか……! 理には適ってるが、よりによって今だとはな……」
「と、とにかく早く向かいましょうにゃ!」
「ああ。事態は一刻を争う」
焦った様子のカノンと、あくまで冷静にうなずくアルミリア。そんな二人の言葉に、一同はそれぞれに頷く。
「真冬ちゃんは常務にゃんと一緒に一旦アクエリアスに転移するにゃ! 『雪割』とエルピスさんを迎えに行きましょうにゃっ」
「……ん」
「ならば私たちは先に氷壁に向かおう。ガルテア殿、足は任せてもよいか?」
「は、はいっ!」
「先方の情報はインプット済みデス! 作戦会議は移動中で構いマセンか?」
「ああ。ついでにそこの貴殿」
「夜久霧矢な」
「ああ。治癒の類も移動中に頼む」
「だろうと思ったわ、わーったよ。ただ魔力? までは回復しねーからその辺は各自でどうにかしとけよ」
「魔力回復ポーションデシたらインベントリにたくさんありマスので、必要な方はお声がけクダサイっ!」
「あっ、えっと、常務、私もついていっていいですか? そのっ、話したいことがあって!」
淡々と、あくまで粛々と。今すべきことを確認し合い、潜泳竜の背に乗り、あるいは真冬の転移ゲートの前に集まり。
「女神の依頼を完遂するため」
「この世界を、守るために!」
──神託の破壊者、再出撃。
◇◇◇
「おいおいおい、上げ膳据え膳豪華最終決戦が向こうから来てくれたぜ!?」
「す、すこーしだけのんびりするとは言いましたけど……!」
「……まさか、こんなことになるなんてねー」
──陽向日和の術式により転移してきた無数の竜と、無数の勇士たち。彼らを少し離れたところから、呆然と見つめている一団があった。
叶遥加、またの名を女神アリス。
高月あやか、またの名をマギア・ヒーロー。
大道寺真由美、またの名をマギア・メルヒェン。
そして、彼らの下に集った仲間たち。
完全者、時空竜、悪竜王、権天使──無数の死線を潜り抜けてきた彼らの中に、この状況を理解できないものはいなかった。水色の少女は素早くフィールドスコープを覗き、漆黒の少女は純白の少女を振り返る。
「俺様は行くけどよ。お前はどうする?」
「行くよ。『救済』の権能は没収されちゃったけど……それでも、私はやるよ」
遥加は静かに、一歩進み出る。真っ直ぐに戦場を見据える彼女の手に、純白の大弓が現れた。
「これがきっと、この世界にできる最後の恩返しだから」
「……それなら、私も行きます」
遥加、そしてあやかに追随するように、真由美も踏み出す。女神と、勇者。二人に並び立ちたいと願い、努力を重ね、そして共に戦ってきた。その想いを理解しているからこそ、遥加はただ頷く。
そして、他の仲間たちを見回し。
「皆はどうする?」
「勿論。お供させて、アタシの女神様」
「俺も行くよ。仮にも黒抗兵軍の総指揮官だ、参戦しない道理がない」
「私も戦うわ。師匠も、この世界の竜たちと戦っているのでしょう?」
「勿論このバッドデイ様もなっ! なぁ、クロキンスキーも行くんだろ?」
「ああ。一介の登山家には荷が重いが、同じ山を登った縁だからな」
マルシャンスが、シンイチロウが、レダが。バッドデイとクロキンスキーも。その場の全員が参戦の意思を表明する。先ほどの
「よし、じゃあ早速行動に移すか! 乗れ! あの決戦のド真ん中まで連れてってやるよ!」
「私の背に乗ってもいいわよ」
「あ、じゃあ俺はそっちに」
「シンイチロウ様が行くんなら俺様もだー!」
「……高月さんが行くなら、私も」
「俺もそっちで行くぜ、相棒」
「……す、すげぇデジャヴ……」
バッドデイが露骨に眉尻を下げた。顔を見合わせ、いつかのように遥加とマルシャンスが勢いよく座席に飛び乗る。これまたいつかのように感涙するバッドデイに、遥加は優しく微笑みかけた。
あの『廃都時空戦役』よりも大規模な戦いが始まるというのに、なんだか妙にいつも通りだ。だけどその方が私たちらしい、と遥加は笑う。
「ほら、急がないと置いて行かれるわよ」
「お、お前らぁ……!」
感動に滲む涙を拭きつつ、バッドデイがアクセルを踏み込──もうとして、止まった。地中から地響きが聞こえる。
「まさか地中からの襲撃……? いえ、そんなはずは」
「避けるぞお前ら捕まってろよ!!」
急発進からの急カーブ。ド派手なドリフト走行で位置を変えた瞬間、地面から巨大な……というより長大なドラゴンが出現した。
「な、なんだぁ!?」
「あ、あのドラゴンさん、どこかで……?」
遥加とマルシャンスが首をかしげる。事実、遥加たちと傭兵団は(神造巨人戦で共闘したトゥルーヤを除くと)ホテル襲撃騒動の際に一瞬顔を合わせたかどうかの関わりしかない。そのくらいの認識になるのも致し方なかった。
『はぁ、やっと着きました……!』
「合流地点、誤差無しデス! 真冬さん、準備完了し次第転移をお願いしマス!」
息を吐く地竜の背の上で、緑色の少女が透明な水晶へと話しかけている。状況をちょっと呑み込めない遥加たちに、同じくガルテアの背の上からトゥルーヤが声をかける。
「えーっと、GIANT KILLINGの時の……ハルカとマルシャンスだっけ? 今の状況ってどうなってんの?」
「ああ、あなたは〈神託の破壊者〉の……。今ちょうど、セントラルで交戦してた兵団員と竜たちが転移してきたところ。まだ出遅れというほどじゃあないはずよ」
「あー、ならよかった」
「アルさんやヴェリテさんたちも向こうの戦場にいるみたい。あやかちゃんたちも先に戦場に向かったよ。私たちも今、向こうに行くつもり」
「そっか、まぁお察しの通り僕らも参戦するわけだけど……そのまえに団長が頼みがあるみたいでね。ってわけで、どーぞ」
「ああ」
トゥルーヤと共に、アルミリアが竜の背から降り立つ。そして背後のガルテアに視線を向けた。
「貴殿らは先に戦場へ向かえ。すぐに追いつく」
『っ、はい! そっちはよろしくお願いします……!』
そう言い残し、ガルテアはブッコロリンたちを載せたまま再び地に潜った。相変わらず状況が呑み込めない遥加達だったが、ひとまずアルミリアの言葉を待つ。
そして、そのアルミリアは一歩進み出る。遥加たち、というよりバッドデイの方へ。
「……クレイジー・バッドデイ殿、折り入って頼みがある」
「え、俺?」
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