戦後ミーティング 2
「終わったか」
ビデオ通話を終えたカノンたちに、別室から顔を出したアルミリアが話しかける。見ると彼女の奥には傭兵団の全メンバーがいた。ミーティングの邪魔にならないよう、一時的に男子向けに宛がわれた部屋で待避していたらしい。
「にゃん! ミーティングはこれにて終わりましたにゃ。お騒がせしましたにゃん」
「いえいえ! 同僚の皆様も賑やかで仲がよさそうで、素敵な方たちですね!」
「どこをどう聞けばそうなるんだよ」
笑顔で返すガルテアに、呆れた目を向ける平社員三名。気を取り直して霧矢が片手をあげる。
「あー、常務。俺らはこのまますぐ帰るってことでいいのか?」
「うにゃー。それでもいいにゃんし、最後にちょっとリゾート地で遊んでから帰ってもいいと思いますにゃ! 常務にゃん権限で福利厚生の一環として認めますにゃ!」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます……!」
「なあバーベキューしようぜ! バーベキュー! 海と言えばバーベキューだろ!」
「あっ、そういえばバーベキューができるスペースもありましたね。えと、よろしけてば常務もご一緒しますか? それから傭兵団の皆様も」
「勿論ですにゃっ! 最後に皆でいっぱい騒ぎましょうにゃん!」
「貴殿らがよいと言うのなら、我々も御相伴させていただこう」
カノンとアルミリアがそれぞれ頷く。平社員二名に視線を投げられ、真冬はぼんやりと口を開いた。
「私は、別に、どっちでもいい、けど……ハンバーガー屋、あった、から。バーベキューの前に、そこ、行く」
「お前どうせ大量に頼んで写真千草に見せて嫌がらせすンだろ」
「ほ、ほどほどににゃー……」
至極真っ当なツッコミを入れる霧矢と、苦笑するカノン。どうも千草いじりがマイブームらしい彼女だが、異世界に行ってまでやる必要は果たしてあるのだろうか。
「じゃ、俺らは荷造りしてくるわ」
「あとバーベキューの準備もしてきます! えと、準備できたら連絡しますね……っ」
「はいにゃん! いってらっしゃいにゃ~」
騒がしく部屋を出ていく霧矢たちを、カノンは手を振って見送る。そんな彼女に、ふとフェニックスが声をかけた。
「やっぱり八坂たちは元の世界に帰るんだな」
「はいにゃん。傭兵団の皆はこれからどうするにゃ?」
「ああ。俺たちも話し合って、ガルテアの旅行が終わり次第元の世界に帰ることにした。俺としては向こうの世界の戦争も終わって傭兵業も開店休業状態だし、天兵団みたいにこっちの世界に拠点を移すのもありだと進言したんだが……」
「生憎、私にはあの世界を見守る義務がある」
「僕もいずれは実家継がなきゃいけないし」
「ボクも帝国アイドルデスから、帝国のファンたちをいつまでも待たせるわけにはいきマセン!」
「……そういうわけだ。なんにせよ向こうの世界に残してきた仲間たちも心配してるだろうしな、ひとまず帰るってことで意見が一致した」
「なるほどにゃん」
頷くカノン。肩をすくめるフェニックスは、他のメンバーとは違い本当に「〈神託の破壊者〉副団長」以外の肩書きはないらしい。気楽な身分と元世界の現状故の提案だったが、他のメンバーとしてはそうもいかなかったらしい。
「まあ、なんにせよ元の世界でもうまくやるさ」
「その意気にゃ! 一筋縄ではいかないと思うにゃんけど、頑張ってにゃん!」
心強い言葉に、頷き返すカノン。そして、隅で話を聞いていたガルテアに視線を投げる。
「ガルテアさんはやっぱりフロンティアに残るのにゃ?」
「はい! やっぱりなんだかんだで、この世界には思い入れがありますし……それにネメシスちゃんの行方も気になるので、探してみようと思ってます。この間、戦後処理の合間に深海の神殿に行ってみたんですが、やっぱりネメシスちゃんはいなかったので……」
瓶底眼鏡の奥の瞳が心配そうに曇る。結局、深棲竜ネメシスの行方はガルテアの耳には入っていないままだ。戦火を避けて住処を移したのか、はたまたハンターにやられてしまったのか……それを知る由は残念ながらガルテアにはなかったのだ。ひとまずアクエリアスの海を中心に探してみます、と彼女は両の拳を握り締める。
「そうにゃんかあ、見つかるといいにゃんね!」
「はい! また会えたら、ニッポンの歌をたくさん教えてあげるんですっ! そうだ、ブッコロリンさんありがとうございます! ニッポンの歌のこと、いっぱい教えてくれて!」
「いえいえ、喜んでくれてボクも嬉しいデス! お友達にもいっぱい歌ってあげてクダサイっ!」
爽やかなアイドルスマイルで応じるブッコロリン。
「さて、それじゃあ俺たちも荷造りを始めるか」
「それよりニッポン旅行の計画立てるのが先じゃない? カノンも手伝ってくれるんだよね?」
「もちろんにゃ! 日本のことなら常務にゃんにおまかせにゃん!」
「え、えと、ありがとうございます……! 私、見てみたい場所がいっぱいあってっ!」
「米津閣下以下、世話になった方々にも挨拶回りをせねばな。私はしばし出るゆえ、旅行計画は貴殿らに一任しよう」
「わかった。気をつけて行ってこいよ」
フェニックスに見送られ、アルミリアは部屋を後にした。カノンはメモ帳を手元に引き寄せ、ガルテアの隣まで移動する。
「とりあえずガルテアさん、行きたい場所ってどこにゃ?」
「そうですね、やっぱりお城は見たいです! あの高さ634mの天守閣……は本当は存在しないんでしたっけ?」
「そうにゃんねえ……それなら江戸城は決まりかにゃ。あとは奈良とか京都も案内したいにゃあ。ガルテアちゃんは金閣って知ってるにゃ?」
「はい! あの純金でできたお寺ですよね!? なんでも昼も夜も眩いばかりに光り輝いていて、夜通しパーティが行われるとか……!」
「夜通しパーティはしないにゃんよ!?」
「既に先行き不安すぎるんだけどね」
「あ、それから銀閣も見てみたいです! 銀閣も四六時中銀色に輝いているんですよね!?」
「ぎ、銀閣は銀色じゃ無いにゃ! なんていうかもっとこう、ワビサビって感じですにゃっ」
相変わらずの勘違いニッポンっぷりに振り回されつつ、旅行計画の立案が始まる。
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