エピローグ

戦後ミーティング 1

※ここからの話は、すべての危機およびラスボス撃破後を前提としています。

先々の展開によっては矛盾する描写があるかもしれないので、ご了承ください。

以上、南木様より引用でした!


 ◇◇◇


『終演』撃破後、リ号に運ばれてホテルに戻った一同はそのまま休息に入った。セントラルでの騒動や米津元帥の世界の危機はそこで初めて聞いたメンバーが多かったが、激しく消耗した状態での連戦は逆に足を引っ張るだけ……というか普通に無理だったので、その日はそのまま丸一日休息に充てた。

 その後も『雪割』の子供たちの幼児化解除と訓練を行ったり戦いに出たりとなんやかんやありつつ、無事にすべての危機を切り抜け、その後もしばらく戦後処理に追われ、そして。



「呼ばれて飛び出て常務にゃん! 二人とも、お久しぶりですにゃ~!」

「……同じく、呼ばれて飛び出て真冬にゃん」

「あっ、えっと、呼ばれて飛び出て雫にゃん……!」

「オイ、俺はやんねェかんな」

 それぞれに猫ポーズをとる女子三人とノリが悪い男子一名は、アナザーアースの本社とビデオ通話を繋いでいた。他の社員はほぼ出払っているのか、画面に映っているのはいつもの澄まし顔の唯と、いつも通りジャーキーを齧っている紅羽だけだ。

「まずは全任務、無事完了したことをご報告しますにゃ!」

『そう、それなら一安心ね』

『みんなおつかれー!』

『こっちの業務のことも問題ないわ。雛乃と千草がちゃんと皇会の人員をまとめてくれてるから』

「あれ、千草さんもそっち担当してるんですか?」

『うん。なんかひなのん、出向先でおっきい仕事が重なったっぽくて忙しそうでさー。てか今日も朝から出向だし。だから皇会案件は見かねた千草が一部だけど代わってあげてるっぽいよ』

「な、なんか千草さんらしいですね……」

『ねー!』

 とは言うものの、今いる社員が千草以外では専務と紅羽とかいう明らかに統率に向いてないメンバーだけなので実質消去法である。

『でも皇会のナンバー3が「ひなのんの言うことはちゃんと聞け」ってめっちゃ脅してたっぽくてさ。おかげでひなのん、皆じゅーじゅんで助かるっス~ってニヤニヤしてたよ』

「……」

「オイ何で皆して俺を見ンだよ」

『納得しない命令は絶対に聞かないからよ。もっと柔軟になりなさいよ、こっちも多少無理な話はどう納得させるか毎回頭捻ってるんだから……』

 やれやれ、と額を押さえる唯。その声には日頃の苦労がありありと滲んでいる。若きカリスマ社長の日頃の苦労を思い返し、カノンは思わず苦笑した。とはいえ唯はすぐに切り替え、カノンの方に視線を投げる。

『それで、帰還はいつになりそう?』

「もうちょっとかかりそうにゃん。仲間のドラゴンちゃんとした約束があるからにゃあ」

『約束って?』

「そのドラゴンちゃんがニッポン大好きにゃんから、日本に連れていってあげたいのにゃ!」

 もちろんアナザーアースじゃないニッポンに、と付け加える。流石に治安が悪すぎるアナザーアース日本に連れていくのは、ガルテアの夢を壊してしまいそうでやっぱり気が引けた。

「なので女神様からの報酬はそのニッポンツアー往復切符に使いたいにゃんけど、大丈夫にゃ?」

『ええ。もとより女神からの報酬の内容は本人に任せるつもりだったもの、好きに使いなさい』

「え、本当にいいんですか……? MDCの戦力増強とか敵対組織の排除とかお願いしなくていいんですか……?」

『雫。この私がデストリエル様以外の上位存在なんかに頼ると思う?』

「な、なんかごめんなさい……」

 縮こまる雫。唯はすぐに画面に向き直り、問う。

『それで、そのニッポンツアーとやらは何日くらいかかりそう?』

「たっぷり一週間……だと業務に支障出そうかにゃ?」

『……厳しいわね。長くても五日で帰ってきて』

「わかりましたにゃ! あ、でも雫ちゃんたち三人は先に帰しますにゃ。本社の業務もすごい大変だと思うにゃんし、雛乃ちゃんや純姫ちゃんにもあんまり迷惑かけるわけにはいかないからにゃあ」

『わー常務にゃんやっさしー!』

 横から茶々を入れる紅羽。優しいというか会社の経営のためというか、とカノンは複雑な笑顔を浮かべた。

『そういうことなら弊社からの報酬はカノンが帰還し次第まとめて渡すわ。三人もそれでいい?』

「はい、大丈夫です!」

「異議なし」

「……私は、べつに、どうでも」

『わかったわ。カノンはニッポンツアーに出発する前に報酬の希望を提出すること』

「わかりましたにゃん! なんか考えておきますにゃ~」

 ぽやぽやと頷くカノン。今のところは特に会社からの報酬は思いついていないらしい。と、画面の中で唐突に紅羽が勢いよく手を上げた。

『あっ四人ともー! ひなのんから伝言ー!』

 一同の視線が集中する中で、えっとえっと、とデスクの脇の手帳を引き寄せてページをめくる紅羽。目当てのページを見つけて、自分で書いた字が汚すぎて読めないのか顔をしかめ、ようやく読めたのか勢いよく画面に向き直る。

『常務にゃんは報酬フロンティアには持ち込まないっぽいけどさ。いちおう、報酬貰って帰ってくる前に連絡しろだって。それのせいでこっちの世界でトラブらないように』

「あっ、出向先絡みですね。わかりました」

 雛乃の出向先というのは、簡単に言うと世界間のトラブルを解決する互助組織だ。異なる世界同士が接近しすぎたり異世界由来のものが別の世界に持ち込まれたりすることで発生する災厄──要はフロンティアでいうところの概念体のようなもの──や、エルト・シェイドが属していたような異世界を荒らし回る犯罪組織ないし犯罪者を排し秩序を保つことを目的としている。どうやらフロンティア絡みで他の世界でも概念流出をはじめとする被害が多発しているらしく、雛乃も度重なる出向と皇会の人員の統率で忙殺されている。それで千草が一部業務を代わることにした、という次第のようだ。

「でも、えと、雛乃さんの出向先の上司さん、そんな厳しい人じゃなさそうでしたけど……」

『ねー。ヴェデットちゃんだっけ? 直属の上司ちゃんは社長ほど厳しくなさそうだけどさ、いい人すぎて出し抜こうとすると心が痛いって言ってた。ほら、ひなのんって悪いことしたらちゃんと叱ってくれるタイプの善人に弱いとこあるじゃん?』

「あー……」

 満場一致で頷く社員たち。ひなのんは米津元帥にも夕陽くんにも強く出られなさそうだにゃあ、とカノンは内心呟く。

「なのでマジ協力お願いするっス~だってさ。あ、ついでにお土産話もよろしくだって! ヴェデットちゃんも色々あってフロンティア自体には手出しできなかったけど、それはそれとしてフロンティアのこと心配してたっぽいからさ。てゆーか、あたしも普通にそっちの話聞きたい! ねえねえドラゴンって美味しいの?』

「は?」

「……食べてないから、知らない」

「ガ、ガルテアさんが近くにいなくてよかったです……」

「と、とにかく思い出話には期待しててにゃん!」

 話が変な方向に進んでいるのを察して、強引に話題を打ち切るカノン。そのまま唯に向き直る。

「そんなわけで、こっちからの報告は以上ですにゃん! 新入社員三人は女神様に頼んで、早いうちに本社に帰還してもらおうと思いますにゃ。それまで本社の方、お願いしますにゃ!」

『ええ、任せてちょうだい。ひとまず皆、長期での遠征お疲れ様。気をつけて帰ってきなさい。報告書、楽しみにしてるわね』

『おつかれー! お土産話楽しみにしてるね! そういえば異世界人の肉ってこっちの人間と味違うのかな? 次の異世界案件あったら試食とか』

『はいはい紅羽とっとと仕事に行きなさい。こんな時に死体処理依頼あんたにしかできないしごとが入ってるんだから。それも大規模なのが』

『はーい! それじゃ皆またねー!』

 嬉々として地下室に降りていく紅羽。それを見送り、唯は小さく手を振ってからビデオ通話を切った。

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