再会、そして労働
ホテルに帰還すると、周辺は慌ただしい様相を呈していた。どうやら『贖都の天使』改めサリエル改めアースエンドとの戦いが終わり、米津元帥たちが帰還したようだ。また多くの増援が元帥の世界からやってきたという報告も入っており、その関係でこんなに騒がしくなっているらしい。
そんな慌ただしさをよそに、トゥルーヤと真冬は枕投げ勝負をしようと勇んで部屋に赴き、アルミリアとブッコロリンは子供たちに今後の話をするため異空間へ向かい、フェニックスは黒抗兵軍全体にリシュエル討伐ならびに子供たちの保護完了と兵軍への組み込みの旨を連絡しに行った。
そして、残ったカノンとガルテアは。
「真冬さんの他にもニッポンからの増援が!? ど、どんな方なんでしょう……!」
「んーと、うちの本社から来た子は二人にゃんね。片方はちょっと引っ込み思案な子にゃんから、優しくしてあげてくださいにゃ。もう片方は不良っていうかなんていうか」
「そうなんですね、わかりました! ……よ、よかったら他のニッポン出身の方ともお近づきになりたいですけど、お仕事の邪魔になりませんかね……」
「軍人さんたちにゃもんね~」
等と雑談しつつホテルのロビーに向かうと、隅っこに青髪の少女だけがちょこんと座っていた。
「あ、雫ちゃん! お疲れ様ですにゃ!」
「お、お疲れ様です常務! ……と、そ、そちらの方は……」
「は、初めましてガルテアと申します! カノンさんにはいつもお世話になっております……!」
「あ、はい、えっと、瀬宮雫です……よろしくお願いします……」
引っ込み思案二人が頭を下げ合っているのを、カノンは苦笑しながら眺めていた。……と、そこにいるはずの者がいないことに気づく。
「あれ、霧矢くんはどこにゃ?」
「霧矢さんは……その、負傷者の手当てに駆り出されてブチギレてますね……あと『タピオカ女さん』? に聞きたいこと山ほどがあるってキレてました」
「キ、キレてばっかりにゃんね……霧矢くんらしいにゃんけど」
思わず苦笑するカノン。タピオカ女こと退魔士見習い・
「負傷者の救護に当たってるなら急いで呼び戻さない方がよさそうにゃんね」
「そうですね……でも常務、霧矢さんに何か御用だったんですか?」
「んー、ちょっとやってほしいことがあってにゃ……でもお仕事中なら仕方ないにゃあ。一応メールは送ったにゃんし、戻ってくるまで情報共有でもして待ちましょうにゃ」
「情報共有、っていうと……?」
「そうにゃんねー……とりあえず
「え、えぇ!?」
「あ、それ興味あります! ニッポンの話もっと聞きたいです!」
「逆になんで日本のこと御存知なんですかっ!?」
◇◇◇
そんなこんなでニッポン語りをしながら待つこと一時間。
「戻ったぞー」
「お、お疲れ様です」
「おかえりにゃん! そしてようこそフロンティアへ!」
「テメェも来訪者側だろうが常務。つか何でこんなとこでおはじきしてンだよ」
ロビーに戻ってくるや否や、霧矢は呆れたように常務たちを眺める。カノンはさっさとおはじきセットを仕舞い、霧矢の方に駆け寄った。
「まぁそこは追々。さて、霧矢くんにはちょっとしたお仕事を頼みたいですにゃ。内容はメールに書いた通りにゃんけど、メール読んだにゃ?」
「一応読んだ。クソみてぇな天使にバブらされたガキ共を元に戻せって話だろ? で、ガキ共は元に戻って戦おうって意思がある。ってことでいいンだよな?」
「にゃん!」
「おう。ガキ共に戻りてェって意思があンなら、やってやんなくもねェ。……けど常務、それ要るか?」
「ほら、形からってやつにゃん。よくわかんない人が急に来ても子供たち怖がっちゃうと思うにゃんし」
などと言いつつ、何故か霧矢に白衣を着せたり伸ばしっぱなしの髪を一つに纏めたりとせっせと動き回るカノン。霧矢は「解せぬ」といわんばかりの表情をしていたが、無駄だとわかっているのか特に振りほどいたりはしなかった。
「つか、そのガキ共バブらせた奴って天使なンだろ? 俺だけの力でなんとかなンのか?」
「わかんにゃいけど、やってみる価値はあるんじゃないかにゃ」
「あー、まァそれもそうか……」
実にだるそうに呟く霧矢。一通り満足したらしく、カノンは霧矢の全身を眺めてうんうんと頷く。
「うんうん、いい感じにドクターっぽいにゃん!」
「どちらかというと闇医者では?」
裏の方の雫が一瞬だけ出てきてすぐに引っ込んだ。実際見た目だけ整えても、雰囲気は不良のままなのでただの怪しい人である。だが構わずカノンは通信端末で何か連絡を取り、霧矢に向き直った。
「さて、じゃあ霧矢くん行きましょうにゃ!」
「お、おう」
◇◇◇
「お待たせしましたにゃ! 君たちの幼児化を治してくれるかもしれない人を連れてきましたにゃー!」
「……いや待て、多くねェか!?」
変わらずポップなビタミンカラーのライブステージは、これまた変わらずものすごい量の子供たちで埋め尽くされていた。
「おい、このガキども何人いやがンだ」
「んー……ブッコロリンちゃん、把握してるにゃ?」
「ハイ。保護した子供たち、総員472名。黒抗兵軍第5中隊『雪割』として仮編成完了、現在本部に申請中デス!」
「思ったより多いにゃん!? 霧矢くん、ひとりでいけそうにゃ?」
「いや常務もやれや」
「常務にゃんのはあくまで借り物にゃんから、拡張天賦を使うにはものすごーーーい負担がかかるのにゃ。だからお願いしたいにゃん」
「そういやそうだったわ。……時間はかかるが、多分いけんじゃね?」
「このおにーちゃん顔こわーい」
「あァ!?」
「ねこぱんち!!」
話している間に子供の一人が素直すぎる声をあげた。途端にガンを飛ばす霧矢だが、即座にカノンの猫パンチ(寸止め)で止められた。そんなコントをよそに、アルミリアがブッコロリンからマイクを受け取って語りかける。
「あー、聞こえるか? 貴殿ら、適当にステージまで並べ。今からそこの男が貴様らを大人の姿に戻すからな」
「できるかどうかはわかんねぇがな? あんま期待すンじゃねーぞガキ共」
雑に言い放つ霧矢。子供たちはそれぞれビビったりムッとしたりしながらも、大人しく並ぶ。そうして一番前に来た強気そうな男の子に睨まれつつ、霧矢は雑に手を伸ばした。
「……手、出せ」
「……ん」
渋々手を出してきた子供の手を握る。できるかどうかは未知数だが、やるしかない。握った手に力を込める。
「……拡張天賦『
刹那、男の子の全身を白い光が包んだ。少しずつ、少しずつその全身が大きくなってゆき、体型も大人のものに変化していく。そして数分経つ頃には二十歳前後の冴えない青年の姿にすっかり戻っていた。
「す、すごい……本当に元の体に……! あ、あの、ありがとうございます!」
「おー、よかったなァ……」
元気に頭を下げまくる青年とは裏腹に、霧矢は早くも額に玉のような汗を浮かべていた。一度の解除で体力がごっそりと持っていかれている。天使の術による幼児化を人の身で解除しているのだから、むしろこの程度で済んだだけまだマシというべきか。そう思い直し、白衣の袖で汗を拭う。
「はー……まぁやるだけやるけどよォ、これ一日で全員は無理だわ。せめて三日、いや五日はくれ」
「ああ、問題ない。それ以上続くなら道場に放り込むがな」
「何だこの上から目線のガキ……」
「いやアルミリアちゃんと霧矢くん、年1つしか違わないにゃんよ!? あ、ちょっと体力回復ポーション持ってくるにゃ! あとアビスで貰った疲労軽減のお守りも! あった方が元気が続くと思うにゃん!」
「おー、とりあえず頼むわ……」
いつもより声に力がない。深々とため息をつき、霧矢は次の子供に処置をしようと腕をまくった。
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