母なる天使の最期
数十分に渡る猛攻の末、リシュエルはどさりと平原に倒れ伏した。同時に術式を使いすぎたトゥルーヤも膝から崩れ落ち、カノンも
「……あぁ……我が子に、人間にここまでの力が──これが……あなた方の言う、『可能性』なるもの……ですか?」
「ハイ。人間は個々では弱いかもしれマセン。デスが多くの力が集まり、作戦を組み、力を合わせれば人を超える存在にも打ち勝てマス。この世界の人間たちは何度もそれを証明してきマシタ」
ブッコロリンも参戦した震蛇竜戦やベルサリエル戦だけではない。彼女らが来る前にも、黒抗兵軍の
「……可能性。そんなものを、私たちは信じません。それは、不確定要素と同義ですから……。我が主は、『完璧な世界』をお望みです──そこに、不確定要素など、あってはならないのです……」
「……なら、カンペキじゃなくて、いいにゃ……」
ブッコロリンに抱きかかえられながら、カノンは掠れた声をあげる。
「道を間違えても、踏み外しても……反省して、もっと素敵な未来を望む……そんな世界がいいにゃ。」
「……わかりませんね……それは同時に、誰もが悪い子になってしまう可能性を残しておくことに他ならないのに──誰も傷つかない、不幸にならない、寂しくならない世界こそ……理想なのに」
「……でも、惜しい、です──せめて、あの子たちには、あの子たちだけは……いっぱいの愛を注がれて、幸せになってほしい……」
「願わくば……あの子たちが、愛と共に在らんことを──」
そう言い残し、天使は静かに首を垂れた。
◇◇◇
天使の亡骸が光となって消滅するのを見届けたのち、一同はリ号に乗って平原のはずれへと向かった。細長い竜が複数の天使を捕縛している姿を把握すると、リ号は急降下して天使の一体の頭をむしゃむしゃと齧りはじめる。竜化状態のガルテアは複雑な顔で援護天使をリ号に流しながら、戻ってきたカノンたち一同に声をかける。
「あっ、皆さんお疲れさまです! えっと……お疲れさまです!」
「何で2回言った……? てか、これ、竜……?」
「ニッポンでは大事なことは2回言うものらしいので! ……あ、もしかしてカノンさんが仰ってた本社からの追加人員さんですか?」
「……そうだけど」
「やっぱりでしたか~、お待ちしておりました! わ、私、潜泳竜ガルテアと申します~。えっと……ゆっくりしていってね!!! ……で合ってましたっけ!?」
「……ん。一応、よろしく」
雑に流す真冬に苦笑しつつ、カノンは近くの木陰に立っているアルミリアに駆け寄った。
「アルミリアにゃん、目覚めたのにゃ!?」
「ああ。寝ている間に貴殿らが出立していたようだったから、居ても立っても居られなくてな」
「いえいえ、おかげで助かりマシタ!」
「礼には及ばぬ」
冷ややかに言い放つアルミリア。だが、その表情がどこか満足げなのにカノンは気づいていた。
「子供たちはどうなりマシタか?」
「全員まとめて叱りつけておいた。本当なら一人一人この杖で殴り飛ばして目を覚ましたかったが、幼児相手にその仕打ちはあんまりだったからな」
「それはあんまりすぎるにゃんね」
「アルミリア、お前たまに無慈悲だよな……」
苦笑するカノンと、呆れた様子のフェニックス。アルミリアはそんな彼らに構わず、報告を続ける。
「叱りつけたついでに、子らは黒抗兵軍で……というか傭兵団で、か? 保護することにした。貴殿らに相談もなしに、すまない」
「いや、謝ることじゃない。そのまま捨て置くのも寝覚めが悪いしな。だが、保護って言ってもどうするんだ? 黒抗兵軍は慈善団体じゃないんだぞ」
「それはこれから個々の話を聞きながら決めるが、希望するなら黒抗兵軍に協力してもらうことも視野に入れている。むしろそっちが本命だな」
「抜かりねぇな……」
こんな時にまで兵軍の構成員の上積みを考えているとは、とフェニックスは肩をすくめた。確かにアルミリアは今までも、人道より戦果を優先することはたまにあったが。方針として間違ってはいないけれども。
「だが子供のまま働かせるわけにもいかないだろ? そこはどうするんだ」
「んー、ホテルの裏庭の道場を使うのはどうかにゃ?」
「うーん……あの道場に子供たちを滞在させたとして、最低限戦場に出せる歳になるまで10日はかかりマス。それでは竜王との決戦に間に合わない可能性がありマス」
「なら、私が魔術で道場の時間加速を強化……いや、
「代案としてデスが、子供たちの幼児化を状態異常と見做した場合、状態異常解除術で元に戻せる可能性がありマス。一考の価値はあると推測しマス!」
「おお~! なら、常務にゃんの部下にゃんが対応できると思うにゃ! ちょっと打診してみるにゃー!」
早速スマホを取り出し、部下に連絡を取りはじめるカノン。それを尻目にブッコロリンは「子供たちの意思確認をしてきマス!」と、アルミリアを連れて再び異空間に入っていく。
「でさー。そこの白い子はさぁ」
「……白魔真冬」
「じゃあ真冬はさぁ、マジであれちょっとくらい手加減してくれてもよかったじゃん。背骨木っ端微塵になるかと思ったんだけど」
「助けられた分際で、文句言うな……それに手加減めんどい」
「いや手加減めんどいって何? 自分の腕力知ってて言ってる? 流石の僕も額に青筋出てくるんだけどね」
「知ったことじゃない……」
「あーはい怒った! もう怒った! ホテル戻ったら枕ぶん投げてやる!」
「……枕、だけで足りる? 武器、投げてきても、いいけど?」
「へー? 言ったね? じゃあ武器ありの枕投げ大会にしようか」
「ん。……負けて、咽び泣く準備、した方がいい」
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