死霊術師の帰還と、次なる狙い
「……ねえフェニ。帰っていい?」
開口一番これである。病室のベッドに横たわるトゥルーヤを見下ろし、フェニックスは思わず頭を抱えた。
チームGIANT KILLINGに派遣していたトゥルーヤが瀕死になって帰ってきた。そう聞くや否や、フェニックスはカノンを引っ張って医務室……もとい新設された病院に駆け付けた。医療スタッフ曰く彼は内側から爆ぜたような不自然な大怪我を負っており、妖精による応急処置でなんとか一命を取り留めたらしい。カノンに『
「気持ちはわかるが駄目だ」
「えー……こっちマジで死ぬかと思ったんだよ? なんなのあの天使。巨人とモブ天使の足止めに利用させてもらおうと思ったら文字通り死ぬほど抵抗されてこの有様なんだけどさ、死んでなお力持ちすぎじゃない? ってかこの世界のイキモノ全体的に強すぎるんだけど何なのふざけてんの? 僕らの世界のドラゴン見習ってよ。あいつら中堅傭兵ですら束になれば難なく狩れるレベルなんだから」
「酷い言い草だな」
だが事実である。『旧き神』がもたらした制約故か傭兵界のインフレのせいかは議論がわかれるが、あの世界のドラゴンはこの世界の竜種よりはるかに弱い。というか魔獣全体のレベルがフロンティアに比べてかなり低い。そんなわけでトゥルーヤは、そろそろこの世界の人外のレベルに文句を吹っ掛けたかった。
「にしてもほんとにものすごい怪我にゃんね……おつかれさまですにゃ」
「あーうんありがとー。はー、久しぶりにガチで命張ったよ……」
実に怠そうに呟くトゥルーヤ。ただでさえ不健康な肌は余計に蒼白で、声にもいつもの張りがない。彼がそこまで命を張ることは元の世界でも滅多になかった。フェニックスは少し意外そうに目を見開く。
「……珍しいな。お前がそこまでするなんて」
「ナチュラルに失礼じゃん……僕だってやる時はやるんだけど……」
ふいっと顔を背け、トゥルーヤは呟くように言った。実際この世界のためにあそこまでする理由はひとつもなかったし、半分以上は傭兵団のためではある。が、それを仲間の前で言うのは流石に照れ臭かったし、それ以上に身体が怠くて喋りたくなかった。
「……もう寝ていい?」
「いやむしろ寝てくださいにゃ! 消耗してるんだから寝た方がいいにゃ!」
「じゃあ有難く寝かせてもらうね。おやすみー……」
言ったそばから寝息をたてはじめるトゥルーヤ。傷そのものは治ったとはいえ、流石に消耗が激しすぎたらしい。フェニックスとカノンは顔を見合わせ、頷き合った。今は思う存分寝かせてやろう。
◇◇◇
「明日いっぱいは休息に充てよう。この消耗で連戦は流石にきつい」
その夜、無事な四名はホテルの部屋で作戦会議に入っていた。戦闘に戦闘が続き、この作戦会議も最早日課と化してしまっている。その戦闘の結果、アルミリアは秘技の反動で昏睡状態、トゥルーヤも極度の消耗によりとても戦える状態ではない。そんなわけでフェニックスの提案に異議を唱える者はいなかった。
「というわけで次のターゲットの選定に移るが……」
「早いにゃんね!?」
「あー、フェニさんワーカーホリックなので……」
「ワーカーホリックとかいう次元じゃないのでは……」
流れるように次の戦いの話を始めるフェニックス。こうしている間にもこの世界は危機にさらされているわけで、一寸の時間も惜しむべきではないという意味では正しい選択ではあるのかもしれない。フェニックスは羊皮紙を何枚かテーブルに広げ、口を開いた。
「まず直近で対処すべきはやはり天使だな。竜王陣営に関しては日向さん? って人たちによる概念体奪還作戦が、悪竜王案件は米津閣下の指揮下での対処が決まっている。そして『ラストコール・エンドフェイズ』は今は落ち着いているらしいから、より現在の脅威度が高い天使を優先すべきだと判断した」
ラストコール・エンドフェイズ。その名にカノンが顔を上げる。確か以前の異世界案件の報告書にあった名前ではなかったか。彼女(報告書によると「輪郭が曖昧でよくわからなかったが確実に少女」らしい)と相対するのなら、戦った経験のある社員に詳細を聞くべきかもしれない。この世界の彼女はミナレットスカイにいたという話だったし、巨人案件でそちらに向かっていたトゥルーヤからも何か聞けないだろうか。
「現時点で倒されたのは雲上の天使、ならびに神造巨人とソレと共に出現した天使。エリア6の『贖都の天使』には米津閣下が対処に向かったし、残るはエリア2の『環状列石の天使』とエリア7の『神殿の天使』だ。そして『神殿の天使』はアルミリア抜きで挑むには厄介すぎるし、アルミリアにまた
「ハイ。『環状列石の天使』は直接攻撃を一切行わないようデスが、代わりに強大なデバフと精神攻撃が脅威になりマス。〈神託の破壊者〉には精神攻撃をほぼ無効化できるトゥルーヤさんがいマスし、デバフに関してはカノンさんとトゥルーヤさんの自己強化術をフル活用すれば対等に立ち回れるデショウ。課題は例の神性介入、リージョン内に何故かたくさんいる子どもたちを傷つけないように立ち回りたいこと、そして子どもたちを守る天使への対処デスが、神性介入はともかくそれ以外はボクに考えがありマス。なので次戦は『環状列石の天使』撃破を提案しマス!」
「あっ、やっぱり神性介入はどうしようもないんですね……」
「ボクたちにできる対処法は『与ダメージが神性介入によるカット率を上回るようにバフをかけてゴリ押す』しかありマセン☆」
満面の笑みで断言するブッコロリン。あまりにも脳筋な解決策である。魔導アンドロイドが出す演算結果それでいいのか、とフェニックスはこめかみを押さえた。
「まぁ今回は結界張る必要はなさそうだし、相手は攻撃してこないし、最初から強化術に全振りした方がいいかもしれないな……」
「えっとフェニックスさん、それ『フラグ』ってやつじゃないですか!?」
「ははっ、冗談だ。万が一のためのリソースは残しとく」
「な、ならいいんですけど……」
おとなしく引き下がるガルテア。その横からカノンが問いを投げかける。
「っていうか、決行はいつにするにゃん?」
「それはトゥルーヤの回復具合を見ながら決める。次回の戦闘はあいつを軸にするのが最善手だろうからな。トゥルーヤの回復が早かった場合、アルミリアの覚醒を待たずに天使撃破に向かおうと思う。病み上がりで無茶させるわけにもいかないからな」
「了解にゃ! また忙しくなりそうですにゃ……」
敬礼しつつ、早くも次にすべきことを考え始めるカノン。ぱん、と手を打ってフェニックスは一同を見回した。
「じゃあそういうわけで、明日は各々休養と作戦準備に充てろ。作戦決行日は決定し次第追って連絡する。以上、解散!」
◇◇◇
──同刻、アナザーアース。
「……?」
MDC社員寮、社長居室。持ち帰った仕事を終えた瞬間、
『──、──……──』
「はい、……はい、承知いたしました。すぐに動きます」
『……──……──。────……』
「……はい。デストリエル様の御心のままに」
天使の声が止む。唯は立ち上がり、再びノートパソコンに向かった。異世界にいるカノンへ宛ててメールを打つ。連絡事項がある、明日の朝礼の時間に合わせてビデオ通話を繋げ──と。
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