向かうは黒抗兵軍
「よかろう」
エルピスの申し出を吟味し、アルミリアはそう言い放った。
「『暗黒竜王の排除』という同じ目的のもと、手を貸してくれるというのなら、その手を振り払う道理はない。……貴殿らはどうだ?」
「常務にゃんも手を組みたいにゃ。……エルピスさん、とっても切羽詰まってる感じがするにゃん。実際に状況は切羽詰まってるにゃんし……放っておきたくないにゃ。常務にゃんたちでよければ力になりたいにゃ!」
「わ、私も……!」
アルミリアとカノンに続き、ガルテアも声を上げた。意外そうな視線を受け、ガルテアは片手を胸に当てて口を開く。
「……風の噂で聞きました。竜王は死んだ竜種を厄竜として無理やり甦らせ、戦わせていると。その中には理性を失った竜……あの震蛇竜のような竜も多く含まれていると。……あんな悲しい竜たちが何体もいるって思うと、居ても立ってもいられなくて……戦いは好きじゃありませんけど、でも、あの方だけは止めなきゃ。なので、むしろ私からお願いしたいです、力を貸してくださいって!」
先程の震蛇竜との戦闘で、ガルテアも何か思うところがあったらしい。確かに戦闘の終盤など見ていられなさそうだった。それにしても彼女がこう自ら戦場に飛び込もうとするのは意外だ、とカノンは目を瞬かせる。
「……フェニ、トゥルーヤ、ブッコロリン。お前たちは」
「アルミリアと同意見だ。断る理由がない」
「僕も戦うのは嫌いじゃないし。殺り合う手助けが来るってなら大歓迎だよ」
「ボクも手を貸したいデス! 世界の危機デスもん、打開策は少しでも多い方が、確実な方がいいデスから!」
「なら決まりだな」
──全員の志は一致した。代表してアルミリアがエルピスと向き合い、両手を組んで宣言する。
「傭兵団〈神託の破壊者〉、依頼承った。必ずや貴殿をより多くの勇士のもとへとお連れしよう」
◇◇◇
「……さて。勇士たちと合流するにしても、どこから向かおうか。人間側の大勢力と言えば『黒抗兵軍』と『FFXX』の2つだが……」
「あぁ、FFXX連合には既に加護を施してきた」
「デシたら、合流するなら黒抗兵軍デスね。ボクたちもいずれ合流しようと思っていマシタし、丁度よかったデス!」
「フェニ、あれまだ持ってる? 新聞記事まとめ」
「ああ。そうそう、黒抗兵軍関係の記事で気になってたのがあったんだ」
鞄からファイルを取り出し、その中から一枚記事を抜き出す。見出しには『特集 ホテル阿房宮』と記され、ファンタジーに出てくる宮殿のようなホテルの写真が添えられていた。
「……ホテル、ですか?」
「ああ。記事によると、このホテルの経営者は黒抗兵軍第一中隊『菖蒲』を指揮する
「問題ない」
頷くエルピス。かつてエルピスが加護を施したというFFXXも、黒抗兵軍の一個中隊を預かっていた。もしかするとエルピスもFFXXの面々から兵軍の目的について聞いていたかもしれないし、単に噂で知ったのかもしれない。
「そうと決まれば先方の場所の確認と……あとは念のためアポイントも取っておきたいデスよね」
「そうだな。だが今日は流石にもう遅いし、アポイントを取るのは明日にしよう。手土産に震蛇竜の鱗も持っていきたいしな」
「手土産にしてはすごいもの持っていくにゃんね……」
「いいじゃん。実力の証明にもなるし」
「フェニ、新聞と地図貸せ。念のためホテルの位置を把握しておきたい」
「ああ」
「あ、アルミリアさん、見終わったら私にも見せてください……!」
「わかった。少し待っていてくれ」
「黒抗兵軍ってどんな
「どーぞ。ってか明日辺り仲間になる方々を猫呼ばわりするのはどうなんだお前」
◇◇◇
予定を立て、夕食を摂り、ガルテアが本来の拠点から敷布団を持ってきて。
睡眠を必要としないブッコロリンが念のため警戒役を買って出て、他の面々は雑談したりガルテアの「ニッポンを知るキーワード660211選」にツッコミを入れたり枕投げ勝負を仕掛けて断られたりと一通り騒いだのち、眠りについた。
そんな彼らがいる地中の、ほんの少し、しかし振動を検知されない程度の上層。
「お、寝てる寝てる。……でも熟睡するまで待てって言われたし、もーちょい静観すっか」
土と同化するような茶色の髪と、茶褐色の角。
スーツの上にトレンチコートを纏った人化状態の竜が、何故かあんパンと牛乳を携えて下層の様子を窺っていた。
「──アレをどうにかするのは、そのあとだ」
茶色の瞳が軽薄に、しかし悪辣に歪む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます