到着、崩落、初陣ようやく
──翌日。セントラルに寄って必要物資を調達してから、一同はガルテアの背に乗ってアビスに向かっていた。
「アビス……鉱物資源が豊富な洞窟で構成されたエリアのようだな。鉄鋼や貴金属だけでなく、オリハルコンやミスリルといった伝説の金属を産出する洞窟もある……か」
『でも、アビスには危険な場所もたくさんあるんです。放射線? に常時汚染された洞窟とか、マグマになったり濃硫酸になったり猛毒になったりする地底湖とか……。あ、そういう危険なリージョンは私が探知して回避するので安心してくださいっ!』
「にゃーっ、助かるにゃん!」
地面を掘削しながら胸を張るガルテア。掘削という名の通り、彼女は地中をドリルのように回転しながら進んでいる。その背の上の傭兵団は、カノンの結界で振り落とされないように、アルミリアの謎魔法により平衡感覚を失わないよう保護されていた。回転しながら高速で進む竜の背の上とは思えない快適空間である。
その快適空間にて、一同はまずは作戦会議と洒落込んでいた。此度のターゲット、『震蛇竜ヤヌス』の手配書を見ながら、フェニックスが眼鏡の縁を押し上げる。
「しかし洞窟によってかなり危険度が異なるんだな。接敵はできるだけ安全なリージョンが望ましそうだな。ガルテアさん、その辺調整できそうか?」
『勿論ですっ!』
「流石だな。助かる。……でもって、ターゲットは竜種だ。そもそも全てのパラメータが人類を凌駕している。おまけに理性を失っているときた。搦め手を使ってこないのはありがたいが……」
「まぁ邪魔者は蹂躙しにくるだろうね~」
携帯食の干し肉を噛みつつトゥルーヤが引き継ぐ。頷き、カノンは考えをめぐらせ始めた。
(ってなると、有用な
『この岩の感じ……皆さん、もうすぐアビスに到着します! ここからは危険な洞窟を回避しつつ、震蛇竜の気配に接近していきます!』
「了解だ。頼んだぞ、ガルテア殿!」
ガルテアが速度を落としつつ、方向を変えて竜の気配を追いかけていく。どうやら洞窟の隙間を縫うように移動しているらしく、レールのないジェットコースターの如く急降下や急旋回を繰り返していた。時折洞窟の内側から鉱夫らしき声が聞こえてくる。
「どうやらこの辺はまだ安全なエリアっぽいね。一般人っぽい鉱夫がいるってことは」
「そうデスね……でもガルテアさんがそっちに向かってるってことは、この辺に震蛇竜がいるということ。一般人に被害が出ないように気を付けて戦闘する必要が……」
「それはないな」
ブッコロリンの懸念に対し、バッサリと言い放つのはアルミリアだった。彼女は感情を感じさせない無表情のまま、乾いた言葉を吐く。
「アレは放っておいても勝手に地盤の崩落を起こす怪物だ。多少私たちが派手に暴れて被害が出たとて、アレが暴れたと言えば罷り通る。……最悪一般人が巻き込まれたとしても、私たちの依頼達成条件には関係ないしな。人助けをしたいなら勝手にやれ」
「アルミリアさんって意外とそういうとこあるよね……」
「だが故意に傷つけまくると逆に指名手配されるからな。そこだけ気をつけておけよ」
「ああ」
短く答え、アルミリアは興味なさげに岩肌に視線を移す。……と、ガルテアの放つ掘削音とは全く違う轟音が響いてきた。
『到着しました! この真上がターゲットです!』
「了解! 総員、戦闘態勢準備ッ!」
ガルテアの声に、真っ先にフェニックスが声を張り上げる。アルミリアが杖を掲げ、トゥルーヤが弓をつがえ、ブッコロリンが巨大ハンマーを構え、カノンは腕時計に似たデバイスに手を置く。
『奇襲します! 皆さんご注意、を……?』
ガルテアの声が不意に勢いを失った。全長120メートルにも及ぶ巨体が動きを止める。周囲から響く轟音は止まない。そう、足場が脆くなりつつあるような音はまるで──
「ほ、崩落!? 崩落デス!!」
「ガルテアさん、耐えられるか!?」
「崩落はともかく、震蛇竜の巨体とパワーに耐えられるかはわかりませんっ! 撤退です~っ!!」
「くっそ、思ったよりパワーえぐいじゃん!! 態勢立て直すしかなくない!?」
「そんなことより下の洞窟まで落ちるぞ! 備えろッ!」
「こ、こうなったら──アディショナルゲノム、
◇◇◇
落下に伴う混乱、は一瞬で終わった。
「……あ、あれ? 柔らかい……?」
「ふー……間に合ってよかったにゃん」
柔らかいクッションに似た感触の上で、カノンは額ににじむ汗を拭う。
彼女の能力──アディショナルゲノム。他人の
「危なかったな……助かったよ八坂」
「にゃはは、このくらいどうってことないにゃん! ……って、ここはどういう洞窟にゃ?」
念のため防護結界を張りつつ見回すと、洞窟には白い霧が立ち込めていた。目を凝らしても真っ白で何も見えない……が、視覚よりも聴覚が霧の正体をはっきりと語っていた。
「……ノコ……ノコノコ……」
「のこ?」
「キノコ……ノコノコ……ゲンキノコー……」
カノンにとっては何故か聞き覚えのあるメロディが耳を打った。
「キノコノコノコゲンキノコ……?」
思わず復唱すると、これだけで何かを察したブッコロリンが霧に目を凝らす。しばらくそれを観察したのち、彼女は機械的な声で呟いた。
「……解析完了。カノンさんの言葉通り、あの霧は全てキノコの胞子のようデス」
「なにそれエグ……」
「吸い込むと毒や幻覚、さらには全身からキノコが生えてくるなどの悪影響が予測されマス」
「最悪じゃん」
「つまりここはリージョン『マッシュトピア』か……なかなか厄介なところに落とされたな。ブッコロリン、キノコキノコ叫んでる存在の解析もできるか?」
「お任せクダサイ!」
「ねえフェニは何で冷静に分析してるの?」
着々と分析を進める二人の横で、このリージョンの全てにドン引きしているトゥルーヤ。カノンは再びデバイスを操作し、片手を宙に掲げた。
「アディショナルゲノム、
そう唱えると、空中にガスマスクが5個出現した。手早く装着し、カノンは他のメンバーにもガスマスクを見せる。
「使う人いるにゃー?」
「あぁ、三つ貰おう」
「ボクはアンドロイドだし、呼吸しないから大丈夫だよ。……っと、人影の解析も完了しマシタ! 種族は……見たことがない種族だけど、筍里人……? 性別は男性、身長推定198cm。全身にキノコが生えていマス。このキノコの胞子を吸うと、皆ももれなくキノコ人間かキノコエルフかキノコドラゴンになっちゃうみたいデス。……ここの胞子を吸った人間の成れの果て、かな? キノコを振り払おうと動いてるみたいだけど、逆に胞子を撒き散らしてるだけっぽい」
「キノコ人間はともかく、キノコエルフとかキノコドラゴンって嫌すぎ……」
早速装着したガスマスクの下で、本当に嫌そうに口元をひきつらせるトゥルーヤ。他の傭兵たちや人間態になったガルテアもガスマスクを装着している。一同は結界越しに謎の人影を見据える。
「で、どーすんの?」
「……あの影、集会所の手配リストにあった奴と妙に似ているな。処分ないし拘束すれば報酬追加も望める」
「
「なら、ボクたちもお供するよ」
「常務にゃんもやるにゃっ! 放っとくわけにはいかないにゃんもん」
「決まりだな。……では、フロンティアでの初陣と洒落込むか」
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