作戦会議

「じゃあ、ガルテアさん。ちょっと聞いてもいいかにゃ」

「はい、なんなりと!」

「竜のこと、っていうか『人類と敵対してる竜』について聞きたいにゃ。……昼間に現地の子たちから『暗黒竜王というヤバい竜がいて、竜の世界をつくるために強力な竜を多数従えている』『悪竜王とかいうのもいるらしいけど、ぶっちゃけよくわからん』『鱗がものすごく硬いから竜特攻がないと攻撃が全く通らない』っていうことは聞いたにゃ。このほかに何か知ってることあるかにゃ?」

 まだ情報がある方、すなわち竜種。広く認知されているこの世界の脅威。女神リアの依頼を達成するためには必ず排除しなければならない仇敵。同じ竜種であるガルテアなら、きっと詳しい情報を知っているはずだ。問われたガルテアは頷き、地に両手を突く。地面の振動から周囲に竜王勢力の手先がいないか警戒していたようだが、いないと知れると声を落として語り出した。

「えぇと……暗黒竜王エッツェルのことはそれなりに聞いたことがあります。太古の昔フロンティアを支配していた竜王で、あらゆる形の破壊を司る破滅の王者です。一度は神竜なる方に滅ぼされたそうですが、紆余曲折あった末に蘇って、再びこの世界を支配しようとしている、と。堂々と世界中を渡り歩いて竜たちを仲間にしているようで、彼の軍門に下る竜も少なくないんですとか……」

「ふにゃ……ほっとくと竜王にゃんの勢力が拡大しそうにゃ」

「お前暗黒竜王を『竜王にゃん』呼ばわりする胆力はどこから来るんだ」

 八坂カノンという娘は想像以上に大物なのかもしれない、とフェニックスは首筋を掻く。ガルテアはひとつ頷き、さらに続けた。

「噂だと、暗黒竜王に対抗しようと人間たちの側につく竜もいるそうです。音に聞く『黒抗兵軍』や『FFXX』にも複数の竜が与していると地上の人が話していました。……私は暗黒竜王にお会いしたことはないのですが、きっと数百数千規模の兵がいないと倒しきれない、のかもしれないです」

「だろうね。時空竜討伐の記事でも『数千の兵が~』とか書いてあったし。暗黒竜王って多分ソレより格上でしょ? 手下も手強いだろうし、そりゃ最低でも数千くらいの兵力は要ると思うよ。まだ竜種とヤったことないから知らないけど」

「にゃんよねー……。依頼達成のためには、常務にゃんたちも『黒抗兵軍』辺りに合流する必要がありそうにゃ。それに竜特攻はどうしても欲しいにゃ……」

 MDC役員としての職業病か、真っ先に対策を考え始めるカノン。続き、アルミリアが片手で頭を押さえながら問いかける。

「悪竜王とやらについても伺いたい。……セントラル地下の嫌な気に、明らかに情念のモザイク(仮)とは別物の気が混ざっていた。情念のモザイク(仮)の上位種が憤怒や逸楽や無為や寿司の集合体だとすれば、アレは純然たる悪意の塊。思い出すだけで頭が痛くなってくるぞ……して、それが悪竜王か?」

「た、たぶんそうだと思います。彼は人の悪意から生まれ、悪意を司る竜だと聞いています。暗黒竜王に比べればそこまで目立った活動はしていないのですけど、悪意を催す仕掛けを世界中にばら撒いて世界を混沌に落とそうとしているのだとか。悪意を刺激する青い鳥とか、人に噛みついて異形化させる蛇とか……暗黒竜王とは違うベクトルで人類の脅威になってるみたいです。暗黒竜王と手を組んではいないのがせめてもの救いですかね……」

「何それきっしょ。シンプルに殺したいわ」

「お前は何でそう毎度毎度コメントが物騒なんだ」

「だって放っといたらアルミリアに何かあるかもしれないじゃん」

 情念のモザイク(仮)と悪竜王。この二者は精神攻撃や情念由来のナニカに弱いアルミリアからすれば、天敵と言っても過言ではない。一度は保留にしたが、情念のモザイク(仮)もアルミリアにもしものことが起こらないうちに排除したい。

「……でも話を聞いている限りだと、まずは竜特攻の獲得が先決だと判断しマス。情念のモザイク(仮)は昼間のハンターさんたちは何も知らなかったみたいだし、上位種はモザイクと違って地下からは出てこないみたいだけど、竜はどこで遭遇するかわからないから。対策を優先すべきなのは竜種じゃないかな」

「確かにな。なら、当面は竜特攻の獲得を直近の目標として動くか。暗黒竜王戦線に参入するのなら、『黒抗兵軍』をはじめとする大勢力との合流も視野に入れるべきだが、だとしても明らかに準備不足な今の状況じゃ門前払いを食らうだろうからな」

「だね。異議なし」


 ひとまずの目標は「竜特攻の獲得」に落ち着いた。

「昼間のハンターにゃんたちの話だと、竜特攻武器は竜の鱗から作られるにゃ。……流石にガルテアさんの鱗ひっぺがすのは忍びないにゃんけど……」

「じゃあもう竜シバきに行こうよ。そこで鱗ひっぺがそうよ」

「はぁ!?」

 いきなりとんでもないことを言い出すトゥルーヤに、一同の驚嘆の視線が集中する。だが構うことなく、トゥルーヤはミカンを取って剥きながら暴論を続けた。

「だって問題ないじゃん。僕は竜特攻武器持ってるし、ブッコロリンも自力で獲得できる。ガルテアさんも竜だから竜相手にはダメージ通せるだろうしね。フェニはサポート特化だから関係ない。問題はアルミリアとカノンだけど、アルミリアはまぁサポートもできるから竜と一戦交える分には問題ない。カノンは?」

「常務にゃんもサポートはできるにゃんよ。それにトゥルーヤくんの竜特攻武器を見せてもらえれば召喚できるようになるにゃんし、最悪竜特攻獲得もできるにゃんけど……気まずいからちょっと避けたいにゃ」

「な、なんで私も戦う前提なんですかぁ~!?」

「嫌なの?」

「嫌ですよぅ!! 私、戦うのは好きじゃないんですよ~っ!」

 大慌てで首を横に振るガルテア。飛びそうになるメガネと取れそうになるフードを手で押さえながら首を振り続ける彼女を見るに、どうやら本当に戦うのは嫌いらしい。トゥルーヤは彼女を見ながらしばらく考え、そして悪人じみた笑顔を浮かべた。

「……わかったよ。じゃあ、こうしよっか」

「……え?」

「僕たちが受けた依頼……女神リア様の世界の敵を滅ぼすって依頼なんだけどさ。ガルテアちゃんも付き合ってよ。最後まで付き合ってくれたらニッポンに連れてってあげるからさ。僕いちおう世界間転移魔法使えるし」

「ほ、本当ですかぁ~!?」

 先程までの慌てっぷりはどこへやら、ぱっと顔を輝かせて恍惚と頬を染めるガルテア。しめしめと言わんばかりの顔のトゥルーヤに、一同は呆れたような目を向ける。

「……お前、その約束反故にしないよな?」

「しないよ。いくら僕でも仲間にそんな不誠実な対応しないよ」

「そ、その日本って、常務にゃんの世界の日本じゃないにゃんよね!? あそこ治安悪すぎてガルテアさんの夢壊しかねないにゃんよ!?」

「昼間の四人組とっ捕まえてそいつらの日本に連れてけばいいんじゃない? カノンがあの人たちと連絡先しれっと交換してたのバッチリ見てたからね」

「な、ならアポ取るだけ取ってみるにゃんけど……ガルテアさんは本当にそれでいいにゃ?」

「もちろんですっ! ニッポンの地をこの目で見られるならたとえ火の中水の中マグマの中ですっ! どんな死地にでもお付き合いしますともっ!!」

 鼻息荒くそう語るガルテア。トゥルーヤは思わず「ちょろっ」と口に出しそうになったが、すんでのところで踏みとどまった。


「ってなると、次は竜の居場所を調べなきゃにゃんね」

「それについては私から話そう」

 アルミリアが鞄から羊皮紙を取り出し、炬燵の上に滑らせる。見ると、何体もの魔獣や指名手配犯の情報が几帳面な文字でびっしりと書き込まれていた。

「午前中、セントラルの集会所とやらでめぼしい手配対象を調査していた。この中で居場所が判明している竜は……そう、これだ」

 アルミリアは羊皮紙を数枚捲り、『震蛇竜ヤヌス』と記された項目を指さす。アビスという洞窟や鉱山で構成されたエリアを彷徨う、大地を操り重力弾を放つ竜。あまりに長い時を生きた故に理性を失い、エリア中を徘徊しては邪魔者を潰していく巨竜。しかしその鱗は伝説級の盾の素材となり、珍重されるという。

「わざわざ倒さずとも、最悪これが落とす鱗を拾ってくるだけでも構わないがな」

「でもどうせなら倒しちゃおうよ。報奨金もめっちゃ弾むし、その報奨金があれば竜特攻武器への加工も依頼できるだろうし。あと余った鱗全部売り払えばものすごい額になりそうだし?」

「『黒抗兵軍』との合流を視野に入れるなら、この竜を撃破すれば実力の証明になりうると推測しマス!」

「間違ってないんだよなぁ……」

 あっさり言い放つトゥルーヤとブッコロリンに、フェニックスはこめかみを押さえてため息を吐いた。……ともあれ、方針は確定した。


「じゃあまずは『震蛇竜ヤヌス』撃破に向けて行動開始にゃんね! じゃあ今日はゆっくり休んで、明日は必要物資を調達してからアビスに乗り込むにゃー!」

「なんで八坂が仕切ってるんだ! 一日で馴染みすぎだろお前っ!!」

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