地中に住まう竜
「……私、実は……実は、竜なんですっ!!」
「あーうん知ってた」
逡巡に逡巡を重ねた様子のガルテアのカミングアウトに、トゥルーヤは空のグラスでジャグリングしながら応えた。他の四人も特に何も言わない。まるっきり興味がなさそうなトゥルーヤに、ガルテアは焦り混じりに詰め寄った。
「え……え!? なんで!? ですか!?」
「魂の雰囲気で。僕こう見えても死霊術師だし、いちおう生者の魂の性質から種族とか特定することはできるからさ」
「えっ!? えっ!? もしかして通報したりとか……」
「しないよ。めんどくさいし」
「それにガルテアさんにはニッポンのこといっぱい教えるって約束したにゃ! それを果たす前に通報なんてしないにゃんよ。ガルテアさん、人間を襲いそうな感じはしないにゃんしっ」
カノンが一歩前に出て、ガルテアを見つめて柔らかく微笑む。他のメンバーもカノンの言葉に頷いていた。ガルテアはしばし目を瞬かせていたが、やがて安堵したように胸をなでおろした。
「うう……ありがとうございます……ニッポンの方はお優しい……」
「んー……」
「いや日本人なのは八坂だけなんだが」
複雑な心境で曖昧に微笑むカノン。なにせ
「……っと! それより、私のおうちに案内しますね! おうちまでは皆さんを私の背に乗せますので……!」
◇◇◇
「えっと、ここです!」
ガルテアの背に乗り、地下のトンネルを抜け、人化状態のガルテアが「おうち」とやらを指し示す。最高時速100kmで地中を掘削できる彼女だが、ここまでの道中はカノンたちが振り落とされないように少し速度をセーブしてくれていた。やはり根底はいい竜なのだろう。おかげでニッポンの話をしたり、互いの世界の話をしたりしながら進む程度の余裕はあった。……あるいは、セントラル付近の地中で少し具合が悪そうだったアルミリアをガルテアなりに気遣っていたのかもしれない。
のんびり進み、やがて辿り着いたのは地中のだだっ広い空間だった。360度どこを見ても土色の空間を、等間隔に置かれたランタンが照らし出す。これだけならダンジョンの一部とでも言えそうだが、何の脈絡もなく置かれた長炬燵と隅っこに重ねて置かれた布団が妙な生活感を醸し出している。炬燵の上には律義にミカンまで置いてあった。壁にでかでかと貼られている浮世絵と、その傍にででんと鎮座している巨大な盆栽は一体なんなのだろうか。
「私、普段はこうやって地中で暮らしてるんです。地中を潜航する竜は限られてるので、地上にいるよりは戦いを避けられるので……。入口は毎回掘ってからその都度埋めてるので、足がつくことも多分ないと思いますし。なのでここはわりと安全だと思います!」
「そうにゃのかぁ~、すっごく助かるにゃん! ありがとにゃっ!」
「俺からも礼を言う。こうして泊めてくれてありがとう、ガルテア」
「いえいえ~、むしろお力になれて嬉しいです! さぁさ、今おふとん敷きますね! コタツとか自由に使って大丈夫なので、どうかくつろいでてください!」
せっせと布団を敷き始めるガルテア。……竜はその辺に丸まって寝ることも十分可能なはずだが、彼女は何故布団を持っているのか。彼女なりにニッポン文化を味わっていたのだろうか。よくわからないが、お言葉に甘えて一同は彼女が布団を敷き終わるのを待つことにした。
「……アルミリアさん、大丈夫?」
「ああ……一応は」
ブッコロリンに抱えられ、蒼い顔をしたアルミリアが炬燵に下ろされる。アルミリアの具合が悪そうなときは大体、精神攻撃や情念由来のナニカを検知した時なのだが……
「……セントラルの地下だ。あの辺りから、凄まじく嫌な気が漂ってきた。呪詛か、欲か……とにかく嫌な気だ。脅威度は置いておいて、性質だけならあのモザイクに似たものを感じた」
「やっぱ上位種いんじゃん……どうする? 処す?」
「だからお前はすぐに処そうとするな!!」
「でもボクが解析したところでも、あのモザイクは『情念の産物』ってことしかわからなかったよ。無策で挑むのは危険だと判断しマス」
「ちぇー」
ブッコロリンの言葉につまらなさそうに返すトゥルーヤ。モザイクの上位種に関しては地下に行けば不思議なウサギが解説してくれるのだが、彼らはまだそれを知らない。そこに丁度布団を敷き終わったらしきガルテアが入ってきた。
「あのモザイクについては私もよくわからなくて……。そもそもセントラルにはあまり立ち入らないので、今日初めて見たんです」
「そうか……なら仕方ないな。『情念のモザイク(仮)』の件は一旦保留か」
結論はシンプルだった。なにもわからないので対策のしようがない。ならば、まだ情報がありそうな方の対策を立てるのが先決だろうか。
「……折角だし、改めて情報共有も兼ねて作戦会議をしよう。今後の方針も今のうちに決めておきたいしな」
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