第9話 第二王子の戦争
『戦争』という言葉が頭に浮かぶ。『戦闘』はあったけど、大規模集団戦、殺戮はまだ実感がない。砂炎踊姫や清徹従娘の様な戦争避難民もいるのだが、実感が湧かない。
千人に対して私達は数人。ここが小規模な砦としても、勝てる気がしない。としたら逃げるのか、どこへ? 城下か山脈を越えていくのか……。
皆が沈痛な面持ちで考えを巡らせている。
発情王子だけが、不謹慎にニヤニヤしている。破滅願望者か! にしても質が悪い。
第二王子が発情王子の様子に気づく。
「あっ! ああ! 千人は来たのではなく、釣られたのか!」第二王子は驚いて立ち上がる。
「可愛い妹の不興を買ってまで、敵を食いつかせたんだ。逃がすなよ」と発情王子。
「だから油断していると思わせるために外で鬼ごっこ。全ては兄さんの掌の上だね」
「どこの組織にも斥候くらい居るだろ、全ては弛まぬ準備のおかげと言え。これで、兄弟の順位が確定したな。私が長男、第二王子が次男、末っ子が義理妹姫。この一年の成果で見れば確実だ」
「僕は今日込みなんだね」第二王子がフフフと笑う。
「舞台は整えた。華麗に踊ってみせよ!」
「分かったよ兄さん。いや、発情王子!」
発情王子は私のところに来て、将軍剣を抜き取り、第二王子に渡す。
発情王子はそのまま部屋の壁に寄りかかる。
第二王子は将軍剣をゆっくり眺め、そして掲げる。
「我、ここに勝利を宣言す! この戦は我らの勝ちである! ここに居るものは猛者である。そしてその猛者の上に勝利の月桂樹を冠するのが、我、第二王子なり! 第二王子の戦指揮でただの勝ちなど許さぬ。歴史に残る華麗で圧倒的な勝利を掴み取るのだ。いざ開戦!」
第二王子は将軍剣を柄のまま床をガンと打つ。
第二王子は席に座り。優しく話し出す。
「では、軍議に入ります。まず、軍の総指揮権を砂炎踊姫に委譲します。そして副官を元将軍に任命します」
「いや、私、軍なんて指揮したことないし」砂炎踊姫が嫌がる。
「これは命令です。この中で貴女が一番成長するからです。こちらはお願いですが、貴女がいつかまた戦略を練るとき、僕のことを思い出してほしい」
「ずるい」と砂炎踊姫は呟く。
「籠城戦なんて簡単です。守りを固めて、上から飛び道具をバンバン打てばいいのです。それ以外にやることはありません。武器と砦の守備を確認してください。作る料理は決まっているのです。あとは材料を見極めて美味しく調理するだけです。私は大将として、戦の終わらせ方を検討しますので、軍備については元将軍からお願いします」
食堂の壁にチョークを使い元将軍が図を書いていく。
−△□〇
元将軍が解説を始める。
「砦は高台にあり、登るのは困難。〇は海の見張り台。□は宿舎。△は城門と胸壁。一は道ですな。北は塩田、その先は土漠、南は避難民の住居がありその先はすぐに海。基本的な戦術は城門を閉じ、道を登ってくる敵を三角の胸壁から撃ち落とす。もちろん宿舎や見張り台から射撃も可能です。兵器といたしましては、カタパルト型投石器一基、バリスタ型投擲機一基。カタパルトは性能が悪く、人の頭大の岩を城壁の外に飛ばすのが限界。梯子などを掛けてきた敵を払う位に考えていただきたい。投石機の玉は城壁を外して使うので、数百は打てるかと。バリスタは大きな弓で投げ槍を飛ばす装置だと思っていただきたい。先日、発射計測しておりますので、道に立つものなら、確実に当てられます。重鎧でも一撃かと。ただし、投げ槍が五本しかありません。他、武器は強弓が五本、強弓用の矢が百五十本。短弓が百、短弓用の矢が三千本です。強弓は鎧も貫通しますが、鍛えられた筋力がないと引くことも敵わず。短弓は簡単に引け、連射も可能ですが、鎧相手には貫通せず、鎖帷子でも腕力のあるものが近めから狙ってようやく刺さりますかな。戦力は以上です」
「そう」と砂炎踊姫が答える。
「腕力のある男達に心当たりがあるわ、少し練習すれば当てられるもの? 元将軍」
「腕力があれば、直ぐに撃てる様にはなるでしょうな。ただ狙うのは時間がかかりますな。人の群れに撃って当ればいいのであれば直ぐにもできましょう」
「短弓の筋力はどれくらい必要?」
「ここにある短弓は女でも引けるような物を用意しております」と元将軍。
「分かったわ。それでは指示をします。元将軍、伝令を海の避難民に出し、この砦のに避難民を誘導して。その際、私が弓の人選をします。また、異端者君を部屋に寝かせてあげて、その際、愚直大佐を呼んで、外の鐘で『緊急』を鳴らし続けて。戻ってきたら、私と実際の建物と武器を確認するわ。では、お願い」と指示された元将軍は「承知」と言葉を返し、異端者君を担ぐ。
第二王子が元将軍に「異端者君は愚直大佐の副官の部屋に入れてあげて。今は看護できる人が誰もいないから」第二王子は鮮やかにウィンクする。異端者君を担いだ元将軍は「承知」と同く返す。
それと、第二王子は続ける。
「母さん、今日の主役は僕なんだ。僕に合う王族の服とかってある? 兄さんのでもいいのだけど。あと、妹にドレスを着せてあげたいのだけれど、お母さんのを仕立て直してもらってもいい? 元将軍妻さんもお願い。今日のパーティはたくさん人が来るから、飲み物くらいは出してあげたいな。夜通しのパーティーだから体が温まる暖かいスープを」
「喜んで」と二人は義理妹姫を連れて部屋を出ていく。
第二王子は机に残された原典を手に取る。
「〇教仏僧、あまり時間ないけど、僕らの原典も読んどいてよ」
〇教仏僧は「分かりました」と座って本を読みだす。恐ろしく速い。
いつの間にか発情王子の姿がない。
ここには、第二王子と私と〇教仏僧だけ。
「姉さん、女騎士姉さん。この将軍剣はこれからずうっと姉さんが使うんだよね?」
「そうだと思うけど」と私は答える。
第二王子は、柄をギュっと掴むと話し始める。
「僕はね、ずっと死にたかった。病気が辛いのもそうなんだけど、『元気になってほしい』と思ってくれるのが辛かった。僕だって元気になりたい、でもなれない。周りの期待に応えられないのが辛かった。本当に本当に良い人ばかりなんだ。でもね、もう死期が来て、命のカウントダウンが始まったら、人生が物凄く楽しい。ああ、死ぬ気で生きたら人生ってこんなに楽しんだなって。生まれてきてよかったって、そう思った。そしたら、死ぬのがとても嫌だ……死にたくない。もう、次のパーティに出れないんだよ」
第二王子が私を見ながら涙を流す。私は席を立ち、第二王子を抱きしめる。
第二王子に掛ける言葉が見つからない。
第二王子は泣きながらクスクスと笑い始める。
「本当に姉さんは、凄い人だなぁ。慰めでも何でも取り繕って、自分の心を護ればいいのに。なんで何も言わないのさ」
第二王子は涙を拭くと「ああ、馬鹿馬鹿しい。僕はなんて馬鹿なんだろう。なぜ、みんなに覚えてもらおうと思ってたんだろう。みんなが忘れられないくらい、鮮烈に記憶に焼き付ければいい。兄さんよりも鮮烈に!」
「おやおや」と発情王子が板と炭を持って入ってくる。
「兄の居ぬ間に『ツマみ食い』とは、やってくれますのう、弟よ」と発情王子。
「いえいえ、兄さま違います。女騎士はお兄さまを見るたびに、『第二王子は天国で何してらっしゃるのだろうと』思うのです。女騎士の心を盗んでいたのです」
「そんなことだろうと思ってな、お前顔を板に書いてやろう。お前を思い出すのは板を見た時だけにしてやる、ここに居なおれ、弟よ」
発情王子はちょっと良い椅子に第二王子を座らせ、肖像画を描き始めるが「駄目だ、まるで私の生き写し、格好良すぎる。不細工に描くと別人になってしまう。困った困った」とブツブツ言っている。
がたいの良い愚直大佐が元将軍に肩を借りて歩くというより引きずられている。
「傷つき寝ている捕虜を叩き起こし、動けないことを良いことに、無理やり働かすとは! 恨みますぞ、元将軍」
「戦時中の捕虜なんて、そんなもんだ」と元将軍。部屋を通り、見張り台の方に連れていかれる。
元将軍だけが戻ってくると、外からカンカンカン、カンカンカン…… と音が鳴る。
そして、元将軍は去っていく。
代わりに第二義母と元将軍妻が入ってくる。第二王子を掻っ攫い、部屋を出ていく。
手持無沙汰になった発情王子の下に暗殺少女が駆けてくる。手には短弓と矢筒。
「おお、良いの手に入れたな!」と発情王子が喜ぶ。
暗殺少女はこちらも見ずに弓を構え矢を放す。
ビュン。
私の右耳の脇を矢が飛んでった。
外から「アブねぇだろうが! 誰だ、部屋で矢を放った奴!」と怒声が飛んでくる。
ビュン。
私の左耳の脇を矢が飛んでった。
外から「ウガっ…… すんませんでした」と男の声が聞こえた。
発情王子「実戦で連射速度を上げていけば、かなり使えそうだけど、矢の補給が問題だね」
暗殺少女はこくりとうなずく。
元将軍と砂炎踊姫が戻ってくる。
砂炎踊姫が元将軍に問う。
「敵さんは×教の傭兵と山の避難民よね、何でここを狙うのかしら。……ああ、そう、塩工場の運営権ね。働き手もろとも奪って、戦闘代金の請求か買い手に売却。扇動しているのは自称貴族かな。前に出て来ないかしら。それとも、逃がして交渉かしら。傭兵隊は本気で来るかしら。山の避難民は全力で来るわね。一人でも中には入れれば、海の避難民は余裕と思っているから。仲間が減れば分配が増えてラッキー位に思うでしょう。どれくらい人がやられたら軍隊は撤退するものなの?」
砂炎踊姫は戻ってきた元将軍と壁の前で話す。
「全体の二割も削られたら大敗ですな、全体の二割は前線の五割以上の事が多い、前線で戦う者の精神が持たない。そこで戦いを引き延ばしても、敵が勢いに乗り、味方が戦意を喪失します。近衛隊や聖騎士隊など、死を覚悟している者は最後まで戦意を落さないので、戦って勝てるとしても相当の消耗を考えないと行けませんな」
「じゃあ、傭兵隊は?」と砂炎踊姫。
「良くも悪くも揃ってないのが傭兵隊ですな。負けと見るとさっさと逃げる。しかも、散り散りに逃げるので、組織としては追いづらい。負け戦でも、欲しい首があればどこまででも追ってくる。と思えば、一人を助けるために何人でも突っ込んで死んでいく。まあ、欲望と人情の塊ですな」
「今回の場合は本気で来るかしら?」
「本気で来るでしょう。ただ、本気で攻めるのか、本気で逃げるのか。それは流れ次第でしょう」
「駄目ですよ」と第二王子が二人に声を掛ける。
「これは歴史に残る大勝利です。数は千と物足りませんから、その鮮麗さ華麗さで歴史に名を残すのです。殲滅、皆殺しは当然です。圧倒的な勝利が絶対。私に千の魂を捧げるのです」
そこには小さいながらも立派な王族がいた。
そしてドレスとティアラを纏った義理妹姫が第二義理母に連れてこられる「だから、胸の詰め物は要らないから。それ入れたら、弓が引けないでしょ」
こちらもお姫様然とした雰囲気、ドレスの裾は動きやすさを意識して膝丈、腰の括れ、スカートの膨らみが女性を感じさせる。
黒を基調とした第二王子、白を基調とした義理妹姫。二人がいるだけで、王宮感が凄い。
発情王子が「これはこれは『素敵な王妃』様ではないですか」と義理妹姫を挑発してくる。
「ごきげんよう、発情王子兄様」とスカートの裾を持ち上げ鮮やかにお辞儀を返す、義理妹姫。
「では、避難民を入れます!」と姿が見えないが叔母の声だ。
第二王子は椅子に座り、その横に義理妹姫、少し下がったところに砂炎踊姫、その後ろに机に座る私と、〇教仏僧。
発情王子は壁際で、絵を描く。その隣で、暗殺少女が弓を引く練習をしている。何度も何度も体に染み込ませていく。
怯えた避難民の母親と手を引かれた娘が部屋の入り口から入ってくる。
第二王子は「こんにちは」と声を掛ける。
義理妹姫は軽く足を引きスカートの裾をつまみ優雅に「ごきげんよう」と挨拶をする。
娘が「お母さん、王様とお姫様がいる!」と第二王子に駆け寄り「握手して!」と膝の上に乗ろうとする。
母親がすかさず怯えた様子で娘を止める。砂炎踊姫が「大丈夫ですよと声を掛ける。母親は見知った顔を見て、ほっとしている。
砂炎踊姫は「お母さんは料理は出来ますか?」と聞く。
「今は、娘が」とだけ応える。
「では、右の部屋で、お知り合いの子供を預かってください」と砂炎踊姫。
直ぐに次の親子がやってくる。
第二王子は挨拶をして、義理妹姫はお辞儀をし、砂炎踊姫は人を振り分けていく。
女性には調理、配膳、掃除、子供の世話などが割り当てられ、男には輸送、伝令、薪割り、石運び、設営などが指示されていく。
若い男女、第二王子から発情王子くらいまでの年齢の男女が、武器庫に送られていく。
私は…… 仕方なく列の整理をしていた。
最後尾まで終わったので、戻ると、砂炎踊姫に「カンカン」止めてきてと言われた。
まだ、見張り台から緊急を知らせる鐘の音が鳴っている。
愚直大佐が城壁に座りながら鐘を叩いていた。
「もう、終わりでいいですって」と私が言う。
「お主が敵で、押しかけてきている者どもが味方のはずだが、何であろう、このカタパルトをぶっぱなしたくてしょうがない」と愚直大佐。
山側を眺めてみると、アリのような人々が塩田の畝に沿って歩いてきて、先頭はもう城壁にたどり着き、道側、西に向かって曲がって行く。
「それ、城壁を越える程度しか飛ばないそうですよ」
「誠か! 存外大したことない。見かけ倒しよの、まるで今の私だな。時にお主は私に負けて悔しくないのか?」と愚直大佐。
「どうでしょうね、負けっぱなしで勝ったことがないので、よく分かりません」
「わっはは、そうかそうか、生きていれば次がある。お主も私も。次はもう少しましな戦いをしよう。互いにな」
「お手柔らかに」と言って私は部屋に戻る。見張り台も男達がカタパルト用に岩をセットしたりと狭いのでお暇する。
部屋に戻ると、義理妹姫が私に剣を差し出している。見たことのない剣だ。
「女騎士も剣がないと見栄えが悪いわよ。貴女の剣は弟が使ってるから私のを貸してあげる。なくさないでよ、私のエツオウコウセンケン」
え、名前付きなの? 光線剣とか言った?
〇教仏僧がガバっと立って「拝見してもよろしいか」と義理妹姫に近づく。
義理妹姫は剣を抜いて差し出す。
驚愕と共に震えているように見える。
「これをどちらで?」と〇教仏僧。
「△王家の宝物庫だよ。一応初代の王は世界征服を目論んでたから」と義理妹姫。
「由来はご存じで?」
「臥薪嘗胆して中原の覇者になったおっさんが、自分のために作った剣でしょ」
「はぁ、その通りですが」と〇教仏僧。
「大丈夫、すぐに私がこの剣の価値より凄くなるから」
「良いものを見せて貰いました。〇教の祖の生まれが、同じ時代だったもので」
私は剣を受け取りながら「どれくらい前なの?」と〇教仏僧に聞いてみる。
「千年を超える遥か前ですな」
もはや伝説の剣じゃん!
「もしかして、お高かったりします?」
「国の二~三個は買えますな。少なくとも△王国よりは価値があるかと。それが高いか安いかは人それぞれかと」
高いだろ! 国が買えるってなんだ。国は売り物なのか? 価値がでか過ぎて全く理解できん。
私は義理妹姫から鞘を受け取って腰に差す。
第二王子がクスクス笑って話しかけてくる。
「女騎士姉さん、持つの怖くないの?」
「いや、価値が大きすぎてよく分かってないだけ」
「流石、姉さん。そういうところ大好きだ」と第二王子。
「それより、第二王子の方が怖いわよ、なんか体が光ってるように見えるよ」
「ああ、良かった。僕も光って見えてるから幻覚かと思ってた。姉さんにも見えててよかった」
それは、良く無かろうよ。
第二王子が続けて言う。
「もうすぐ始めるから、姉さんも着替えて△の胸壁に集合ね」
私は急いで、第二王子の部屋に戻る。部屋にはボロボロだけど女騎士の鎧があったはず。両肩が酷いことになっているけれど、装着には問題がない。
私は急いで胸壁に向かう。
空はやや赤みがかって、夕方に向かっていくところ。
城壁の上に第二王子と義理妹姫、その横に壁から落ちそうになっている縛られた愚直大佐の副官。
真ん中には大きな弓、バリスタが固定され、人の大きさほどある槍を乗せて待機している。その足元にはマントに隠れてはいるが発情王子が居るのがバレバレである。後は元将軍と暗殺少女と青年男子四人と同じくらいの年の女の子が二人弓を持って待機している。床には足の踏み場もないほどの矢筒に入った矢が置かれている。
後ろの部屋の出入り口には第二義母と元将軍妻、その後ろには少年少女が待機している。
第二王子が朗々と叫ぶ。
「こんな城外の果てまでご足労悼みつかまつる、こんな僻地に何用ぞ!」
王子の声を聞こうと静まり返る。
外の道より返事が返ってくる。
「我、東砦貴族なり、王家を名乗る不逞の輩がこの地にあるという! 正義の名の下に成敗に参った!」
発情王子が大弓の下で何かをクルクル必死に回している。
第二王子は返事を返す。
「我こそが正統王子! ここに居る愚直大佐の副官が証明してくれよう」
「人など言など信じられぬ。王家というならその証拠を見せてみろ!」
「であれば、これを見よ! 王位継承権の証、西の聖者の原典! 王妃のティアラ! そして王家の秘宝、越王勾践剣!」
現場の全員が『なにそれ』になっているよ、第二王子。
第二王子は振り返り私を見る。
はいはい、そういう役回りですね。
私は前に出て剣を掲げる…… かなり重い。
「この剣の価値は!」と第二王子は右手で将軍剣を掲げる。
皆が聞き耳を立て静まり返る。
「国が二、三個買える! 欲しいなら実力で奪ってみせよ!」
第二王子が右手を振り下ろす。
ボン。
大弓から放たれた槍はゆっくりと放物線を描く。
ドン。
的確に東砦貴族を捉える。
ゴォォォォォーーーーーー
欲望に目がくらんだ男達が城壁を素手で登ってくる。
塩砦が蟻に囲まれ運ばれる虫の様だ。
義理妹姫がドレスのまま、弓を連射している。
「ヒャハーーー!!! これが有象無象、有象無象!!!」
その隣で暗殺少女がこれまた物凄い速さで連射している。動きが速すぎて右手が良く見えないよ。
第二王子と発情王子が部屋の方に戻って行く私も剣を鞘に戻し部屋に戻る。
入れ替わりのように、若い男女が胸壁に出ていき弓を放っていく。
短い時間で大した統率力だよ砂炎踊姫。
第二王子が椅子に座り、発情王子が横に立ち、話を始める。砂炎踊姫も近づいてくる。
「やってくれよるのう、弟よ。これから寝る間も惜しんで盗賊退治だよ。臣下がいつ裏切るかヒヤヒヤだ」
「嘘ばっかり、剣を売って何を買うか考えてたでしょ。もうどこに居ても襲われるんだから、王になっちゃいなよ。今回は僕の勝ちかな兄さん」
「いや、私が覇王になれば私の勝ちだ」
二人は外の夕焼けを眺める。
「世界は綺麗だね、兄さん」
「お前の兄で良かった」
義理妹姫がこっちにやってくる。
「矢を撃ち過すぎて手の皮むけちゃったよ」
義理妹姫は第二王子を見て固まる。
第二王子は首をカクカクさせ、焦点が定まっていない。
発情王子が第二王子の肩をグッと掴む。
「最後の命令を」と発情王子。
「私の首を切り、愚直大佐の副官に持たせ、この戦の幕引きせよ」と第二王子。
発情王子は第二王子から将軍剣を取り、鞘から剣を抜く。
刃はボロボロのままだ。
「兄さん、それキレの悪い方だよ」第二王子は一所懸命に囁く。
「あっちのは売り物だ」と発情王子。
「最後まで兄さんは……」
発情王子は第二王子の胸元から懐刀を取り出すと剣先で第二王子の首をスッと切る。
血管が切れたはずなのに、思うほど血が流れない。
タラタラと第二王子の首から血が流れる。
発情王子は第二王子を抱きしめる。
「あり……」第二王子の声が聞こえなくなる。
発情王子は第二王子を抱いたまま、震える。
むなしいでも悲しいでもなく、触れてはいけない空間が心に広がっていく気がした。
発情王子は第二王子の懐刀を義理妹姫に渡す。
義理妹姫は発情王子からむしり取る様に懐刀を受け取る。
発情王子は義理妹姫に「頼む」と言う。
義理妹姫は「嫌」と言う。
「一生後悔すればいい」発情王子はそう吐き捨てると、砂炎踊姫に元将軍を呼ぶように告げる。
「だいぶ押されてきましたぞ」と元将軍。
「それは今はいいから」と砂炎踊姫。
元将軍がたどり着くと現状を理解した。
「私の剣でよろしいですか?」
砂炎踊姫が「私の短剣でもいける?」と。
元将軍は「二本なら」と。
元将軍は砂炎踊姫から短剣受け取り腕を交差させるように構える。
発情王子は第二王子の髪を掴み、頭を立たせると、すっと手を放し、その場を離れた。
元将軍は腕を交差したまま飛び込み、第二王子の首を飛ばす。
発情王子はふわりと浮いた第二王子の首を空中で掴むと第二義母に渡す。
第二義母は首を胸に抱くと、声なく涙を流した。
砂炎踊姫は元将軍から短剣を受け取ると「ほらほら押されているよ! 交代はマメに!」と元将軍と共に戦線に戻っていく。
義理妹姫は懐刀を抱えたまま、へたり込む。
突然、発情王子が怒鳴る。
「義理妹姫! お前、覚悟が足りないんじゃないか!」
「ふざけんな!」義理妹姫は怒鳴り返す。
「覚悟が決まってないから、判断に迷う。覚悟が決まってないから、希望的観測にすがり、判断を間違う。違うか!」
「座っている暇があったら、矢を放て! 第二王子の指示は殲滅だろうが!」
発情王子は「俺も出る」と言って元将軍妻から二つ手袋を受け取るのだった。
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