第7話「月と闇」
信三郎と服部王道は着いてすぐ、副団長で槍闘将の
「ねえねえ、アンタって、まだ
水を飲み終えた雪見が孝太郎にそう聞く。
短めにカットされた赤い髪は綺麗に整っており、現代の日本にいる女子達と何ら変わらない。
笑うとまだあどけなさが残るのは、雪見が18歳の少女だからである。
雪見は15歳の時に戦国時代に来ているため、多感な時期を乱世という厳しい世界で生きてきている。
「少しはだるいですが」
「身体のだるさが抜けるとき、アンタの身体がこの世界に適合しているかどうか、わかるよ」
「そうなんですか?」
「あたしは、その瞬間に分かったわ、ただ」
「た、ただ?」
「ただね、それがクル時期も結構人によって違いがあるのよねぇ」
このだるさが抜けるとき、孝太郎が戦国時代で生きていくことができるかどうか、が分かるのだ。
ここに来て身体能力が大幅に下がった人間を、信三郎が重宝するわけがない。
信三郎は計算高い男だ。
そんな事は孝太郎だって分かっている。
役に立つ人間を戦国時代へ連れてくるのが信三郎だ。
孝太郎はそう考えながらあたりを見回した。
そして、気づいた。
「ここには、人が全くいないんですね」
「あ、気付いた?」
「コータロー、来たばっかなのにスルドイねぇ~」
花見は笑っている。
「えっ、いや、な、なんとなく」
「ここは、神雲家の前線基地よ、人がいない訳はない」
「でも、いない、さあ、なんででしょ~ぉか?ふふふっ」
「い、いやっ」
先ほど人を殺したばかりの女の子とは思えないほど、二人は楽しそうだ。
いや、これがこの世界の普通、なのかもしれない。
前線基地なのに人がいない、人がいない訳がないのに、人がいない。
それが、この楽田城だ。
「孝太郎様、この城のことは追々分かると思いますので」
月見は先ほどからずっと深刻な顔をしている。
「月見ぃ~、いいじゃん、すぐ分かるんだしぃ~」
「は、花見」
「コータロー、ここには
「け、煙巻隊?」
「もう、花見」
「そ、
「闇、闘将」
「ね~!月見ぃ、この城はもともと月見の城だもん、ね!」
!!!!!!!
(闇闘将、それは月見のこと? こ、怖いって?)
「もう! 知りませんわ」
月見はそう言うと、部屋から出て行ってしまった。
「馬鹿だね~、花見は。月見に闇のことは言っちゃダメだってぇ」
「おねえちゃんも強いけどさ、でも、花見が見た中ではやっぱり月見が一番なんだよね」
「もう、月見が戦場へ行くことはないかもね」
「コータロー、ここは恐ろしいぃぃぃぃぃトコロ……だよ!」
「どっちが恐ろしいかしら、ココか、元いた世界か」
すぐに信三郎と王道、源田、月見が戻ってきたため、一行は本家に向けて出発した。
月見に何があったのか、月見が何者なのか、孝太郎には分からないことだらけだ。
明日も明後日も、一週間後も一カ月後も、孝太郎は先が予想できる世界にいた。
(ココは、一瞬先も分からない、な)
歴史の勉強の中でこの時代のことを少しくらい知っているからと言っても、この時代に生きていくことを何一つ知らない。
結局、この城に入ってから、出るまで、誰一人城の人間には会わなかった。
しかし綺麗に掃除された城内、用意された水、人はいるのだ。
そんな不思議な城を後にし、一行は神雲本家へと向かった。
[つづく]
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