6.仲間
疲れていたので良く眠れた。
真夜中に外でイビキがうるさいと言い合いになって乱闘に発展していた間は巻き込まれないかと震えていたが気がついたら眠ってしまっていた。
乱闘の結果はどうだったのか知らないが別にどうでもいいだろう。宿の管理人が、出て行くか追加料金を払うか決めろ。と言ってきたので仕方なく退去する。
しかし、貴族出身のシルヴィアと、世界上位の経済大国の防音も断熱もしっかりした実家でぬくぬく暮らしていた俺は早くも安宿生活のストレスで精神に異常をきたし始めていた。
生活水準を下げるのはこれほどまでに難しいことなのかと感じた。
まずはこの街にある財務省の建物に行ってこの状況を打開しようとしたが、警備は厳重で信用のない昨日来たばかりの冒険者である俺たちは門前払いだった。
さっそく当てが外れて二人揃って意気消沈する。そこで、ひとまず気持ちを切り替えて腹ごしらえをして作戦会議をすることになった。
「腹が減っては戦はできない。私の故郷に伝わることわざです。」自信満々で言うと
「こっちにもあるよそのことわざ。自分の故郷だけが進んでると思わないで。」
と返された。ナメたこと言ってすいませんでしたと思った。
街の酒場でパンと肉入りスープを食べながら今後どうするのか話し合う。
機が熟すのを待つにしてもそうすぐに起こるものでもないだろう。
それまでダンジョンに潜って日雇生活を続けるのも考えものだ。変に怪我でもしようものなら最悪だし、俺はできれば無傷で日本に帰りたい。
だからといって呑気に待つわけにもいかない。だが、財務省の偉い人に会うには冒険者として実績と信用を手にいれる必要がある。
そのためにはひたすらダンジョンに潜って冒険者としてまわりから認められる冒険者になる必要がある。
「すぐには無理ね。」
「なんかこう、すごい冒険者の紹介でうまく行ったりしないですかね。」
驚くほど他力本願でふわっとした希望だ。
「俺もシルヴィアさんもすぐ帰りたいだろうけど、ダンジョンに潜るならすぐには無理ですよね。」
俺がそうと言うと、シルヴィアは後ろにいた大柄なスキンヘッドの男の肩をいきなり叩いて、
「私を仲間にしようとは思わない?」
と言い始めた。なんだこの人、コミュ強かと絶句したが、そのスキンヘットの男は
「いいぜ。明日までに金貨百枚持ってきたら考えてやる!ハハハハ!」
と嫌味ったらしく断られた。
「いきなりそれだけ持ってこいなんて、矢を集めた劉備じゃないんだから。」
そう呟くと、隣で酒を飲んでいた長髪を無造作にまとめた男が
「それは劉備じゃなくて孔明だろ。」
と言ってきた。そういえばそうだった。
ん?
「え?あなた、日本人?」
「あ、やべ。」
男はそう言って急いで逃げ出そうと腰を浮かせたが、いつのまにか後ろの回り込んでいたシルヴィアに肩を掴まれて強制的に着席させられた。
「あなた、この人の出身地を知ってるんですか?」
彼女が冷静な声で質問する。
「まいったな。」
そう言って男は頭を掻いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「司令。先日の召喚術師と勇者と思われる男が、」
「捕まえたのか?」
ミハイル・ペトロバツは身を乗り出して報告に来た軍人に対して問う。
「いえ、それはまだ。しかし警備隊から怪しい二人組を見たとの報告が入っています。」
「それで?」
「迷宮都市に向かったのではないかと。」
「ふん。まあ、そうだろうな。」
そう言って椅子に倒れ込む。
「追っ手を出しますか?」軍人は問う。
「わかっているな。協定がある以上我々はあそこで活動できん。追っ手は出さなくていい。」
「では見逃すと。」
「追っ手は既に向かっている。貴様らが手を出す必要はない。ラビリニスタンの協力者と特務部隊からの報告を待とう。」
「了解。」
「いいか?大尉。勇者を召喚することを許してはならん。それが起こってしまった以上、その技術を持つ召喚術師を生かしておくわけにはいかない。」
ペトロバツは低い声で淡々と諭すように言う。
「了解致しました。」
そう言って大尉は部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます