第39話 橘その2

「もうっもうっもうっ!ほんっとに恥ずかしかったんだから!」


寝間着姿で寝室に入るなり、タブレット端末を操作している知晃を睨みつけた音々は、布団の上に正座して首筋に残る唇の痕を指さした。


翌日が終日外出になる時は、必ずと言っていいほど夜の時間が長くなる。


音々は途中でくたびれて意識を手放してしまうことも珍しくない。


というか、大抵がそんな夜ばかりだ。


先日電話で姉から、避妊を止めたからと言ってすぐに子供を授かれるわけでは無い、と言われてから、しばらく悩んで、子作りを始める事に決めた。


音々もすっかり伊坂家での生活に慣れたし、余裕が出て来たので、妊娠出産も頑張れる気がして来たのだ。


もちろん、子供は天からの授かりものなので、出来ても出来なくてもあれこれ悩まないことを知晃と約束している。


が、やっぱり出来ることなら彼の子供が産みたいと思う。


そんな話し合いをしてから余計知晃の愛情は深くなって、避妊なしの行為を始めてからは日付が変わる前にお休みを言えたためしがない。


音々はそれまで以上に焦らされてグズグズにされてから深い場所で愛されるので、最後は気力だけで保っているような状態だ。


「ああー・・・昨夜のな、ごめん」


「気づいてたなら言ってくれないとっ」


「いや、つか俺もそんな余裕なかった。ほら、昨日の音々いつもよりアレだったし」


「アレってなに・・・」


「え?」


口元を手で覆った知晃がひょいと眉を持ち上げてこちらを見つめて来た。


その瞳に宿る情欲の炎を見て取って、これはまずいと身体を引く。


と、途端知晃の腕が伸びて来た。


足を崩して布団の上を引き寄せられて、キャミソールの下に手のひらが忍び込んでくる。


みぞおちを擽ったそれがわき腹を撫でて来て、慌ててそれを手で押さえた。


「言わなくていいっ」


「すげぇ反応が良すぎた」


二人の声が綺麗に重なった。


ほくそ笑んだ知晃が、耳たぶを甘噛みしながら手のひらを持ち上げて無防備な胸を手繰り寄せてくる。


ふにゅりと沈んだ指の感触に反射的に仰のいたら、昨日の痕が残るそこにキスが落ちた。


首筋に頬ずりしながら凝り始めた胸の先を優しく撫でられて、爪先を丸めて膝を擦り合わせる。


「ゃ、っ」


「おまえ子作りするって決めてから色々ストッパー外れてるだろ?・・・どこ触って気持ち良さそうにするし・・・すーぐここ溢れさせるし」


昨夜たっぷり愛し合ったことを思い出させるようにおへその下を撫でた手のひらが、ショートパンツの内側に潜り込む。


「ぁ、や、や・・・っ」


逃げるように身体をずらせば、知晃があっさりと腕を解いた。


「二日置きくらいがいいんだってさ」


「え・・・なにが?」


「排卵日のちょっと前から、二日置きくらいに抱き合うと、出来やすいって」


「し、調べたんですか?」


「そりゃ調べるだろ。だって俺の子供産んでもらうわけだし」


「・・・・・・そ、それはそう・・・だけど・・・」


音々の方は思いつきで言い出した子作りだったのだが、知晃の方は結構本格的に色々と考えてくれていたらしい。


妊娠しやすい間隔がある事自体、今知った。


「もちろん、それに限ったことでもないだろうけどな・・・・・・おまえがしたいならするよ?」


どうする?と尋ねられて、きゅうっと眉根を寄せて知晃の身体に擦り寄った。


「昨日・・・いっぱいしたから・・・」


「ん、じゃあ、今日は寝かしつけてやる」


音々を優しく抱きしめた知晃が、そっと布団に抱き下ろしてくれた。


上掛けえ包まれて、すぐ隣に知晃が潜り込んでくる。


枕に零れた髪を撫でる手つきは、うんと優しい。


昨夜みたいに熱に浮かされて過ごす時間も好きだけれど、こうやってお互いの体温だけを感じながらじわじわ眠気に身を任せる時間も好きだ。


額にキスを落とした知晃が、思い出したように言った。


「今日、神社の件で西園寺建設行っただろ?」


「はい」


「ちょうど、社員の子供を招待したイベントがやっててさ・・・・・・無邪気なちびっこたちを見たら、ますます子供が欲しくなったよ」 


「・・・男の子?女の子?」


「んー・・・まあ、着物着せるなら女の子のがいいだろうけど、どっちでもいいな。おまえが産んだらどうせ可愛いに決まってるし」


楽しそうに微笑んだ知晃がそっと頬にキスをくれた。


一気に跳ねた心臓と熱くなった身体をどうしてくれるのだ。


「・・・・・・・・・寝られなくなるようなこと言わないで」


詰るように言い返したら、知晃が寝れるまで付き合うよと優しく背中を撫でてくれた。

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