第29話 四君子その1
「・・・ん・・・・・・」
中途半端に脱がせていたパジャマを元通り着せかけて、熱が抜けていく身体を冷やさないように上掛けにくるみこんでから数十分。
身じろぎと共にあえかな寝言を漏らした音々が、布団に潜り込もうと丸くなった。
息苦しくないのだろうかと心配になって、しばらく様子見していたが、すぐに気持ち良さそうな寝息が聞こえてきて、これが通常モードなのかと理解する。
久しぶりに他人の寝息を真横で聞く夜は、不思議なくらい穏やかな幸せに満ちていた。
『っ・・・・・・知晃さ・・・・・・ん』
『うん?』
『これ・・・・・・合ってる・・・・・・?』
仕掛けた指に翻弄されて初めて快感に震えた音々は、陶然とした表情で力の入らない指先をこちらに伸ばして来た。
しっかりぬくもった指先を甘噛みして、合ってるよと笑いかける。
『上手。もうちょっとするけど、怖くなったら噛みついていいよ』
忘れないように快感を刷り込みたくて指を動かしながら甘やかすように頬に鼻の頭にキスを落とす。
シーツを握りしめてまたつま先を丸めた音々が、息も絶え絶えに首を横に振った。
『・・・・・・っか、噛みませんっ』
『お前がくれるなら、噛み痕でも嬉しいのに』
心底本気で告げれば、涙の膜が張った両の目を見開いて音々が唖然となった。
この辺りの男側の心境はまあすぐに理解は難しいだろう。
それも追々教え込みたいところではあるが。
気持ちいいことを怖がらないでいてくれれば今日のところは満点だ。
お前は素質あるよと言ってやりたいところだが、深く突っ込まれるとこちがら墓穴を掘る羽目になるので、短い一言で留めておいた。
熟れて緩んだ柔らかい場所は吸い付きたいくらい滴っていて、引き抜いた指の動きにさえ唇を震わせる初心な音々には、その先のことはまだ教えてやれない。
じれったくて甘ったるいひと時は、彼女の嬌声と甘い吐息で満たされて、吐く息で劣情を逃しては冷静になれと自分に言い聞かせて、蕩ける瞳を向けてくる彼女をあやして微笑むだけで精一杯。
当然初心者相手に初手からがっつくわけにもいかず、丁寧にほどいて慰めて、音々がうろたえるたびに手を止めて宥めて、また気持ちいい波間に追いやって、そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にか日付は変わっていた。
『両想いやからって調子乗ったらあかんで。あの子生娘やで。真っ新な23歳やで』
怖いくらいの真剣な表情で訴えてきた西園寺には、うっせぇ馬鹿と秒で言い返したが、思えば西園寺の瑠璃姫も音々と同じような年頃のはずだ。
幼少期に許嫁として認められていたとはいえ、それなりに手順を踏んで夫婦になったのだろうとまあ参考程度に馴れ初めを尋ねれば。
『俺らはほら・・・・・・だいぶ前にうちのお
珍しく照れたように言葉を濁した西園寺が、瑠璃姫のハジメテは、彼女が18歳の時に貰ったと零すのを聞いて、全く参考にならんわと一蹴する羽目になった。
けれど、西園寺はその直後に瑠璃から逃げられており、最初の一回をその後数年引きずって結婚するまで身綺麗で居たというから驚きだ。
御曹司の執念を垣間見た気がした。
挙式披露宴を終えるまでは妊娠させるわけにはいかないので、まあ徐々に、とは思っていたが意中の相手が仮初めの妻から本物の妻になって目の前を無防備な格好でウロチョロするのだから、こちらにかかる負荷はまあ、想像に難くない。
恋愛を楽しむ二十代を過ぎてから彼女に出会って本当に良かった。
勢いそのまま堪え切れずに手を出せば、後で死ぬほど後悔するところだった。
とはいえ、どこを触っても柔らかくて素直に可愛い声を上げる音々を味見するだけで我慢するのは至難の業だ。
ここに来て大人の理性を試されることになるなんて。
緩んだ唇から零れる吐息が熱を増して、つま先を丸めて初めて上り詰めた彼女を見た時、無意識に枕元に伸ばしかけた手を止めた自分を盛大に褒めたい。
『追い詰めるような抱き方は絶対しないから、ゆっくりしよう』
精一杯寛大なふりをして伝えたあの言葉は、自分への戒めでもあった。
いまは、手のひらと指の熱を教え込んで、深いキスに慣れさせて、彼女が物欲しげに腰を揺らしてくれるのをただひたすらに待っている。
赤身が引いていく頬はほんのりと桃色に染まっていて、今日の昼間見た淡いピンクの花尽くしの打掛を思い出した。
どの色が似合うだろう、どの柄が映えるだろうと、目の前の誰かを見つめながら思いを馳せるのはかなり楽しい。
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