第46話 カリジン-2
「・・・・・・・・・無意識であれだけ独占欲全開にしてたんですか・・・・・・ほんと恐ろしいですね、麻生さん・・・こんなに長い間メディカルセンターに通ってるのに、有栖川さんとは挨拶以上に接触させないように徹底してたし、
「・・・・・・闇に葬るつもりだった」
「こわ」
「冗談だよ」
「冗談に聞こえないんで本気でやめて貰えます?麻生さんって素だとばりばりのアルファ性質ですよね。自分のオメガは自分だけのものって明確に線引きして隠したがるところとか、アルファそのもの。橘田さんは、身内ゆえの過保護だって思い込んでるからいいですけど、検査数値全部頭に叩き込んで体重の変化まで把握してるって知られたらドン引きされますよ、絶対」
「バレるようなヘマしねぇよ。お前も余計なこと言うなよ」
「言いませんけど・・・・・・ほんとここ最近体調も安定されてますし、治験始めた頃よりずっと明るくなったし・・・・・・いつまでも隠しておけないんじゃないですか?私も、初めて
「そして
「虫も姫も余計ですよ!そうやって、打ち込むものが見つかったら、世界を広げたくなるから、橘田さんも、そういう時期かもしれませんね」
「・・・・・・・・・姫は若いのに達観してるところあるよな」
「私の青春はオメガと共にありましたからね、オメガ5年目の橘田さんより、経験値はありますよ」
「たしかに・・・・・・5年か・・・・・・」
オメガバースの黎明期にその性質が目覚めた雫は、抑制剤なしの生活を余儀なくされており、西園寺が用意した護符なしには日常生活もままならない状態だったという。
新しい環境にも馴染んで、オメガの自分とも上手く付き合えるようになったからこそ、今の時間を大切にしてやりたいとも思う。
けれど、自分たちの間に入り込む誰かは絶対に看過できない。
茜が都築に本気で惹かれたら、自分はこの手を離してやれるのだろうか。
そんなたらればの未来ごと捻りつぶしたくなる気持ちも噓じゃない。
それでも、茜が泣くような未来だけは、絶対に選べないだろうけれど。
真尋の願いを聞き届けた新幹線は、予定時刻通りに駅に到着して、そのままタクシー乗り場に向かいながら、戻って来たと茜に連絡を入れようとした矢先、隣を歩いていた雫が声を上げた。
「あ、橘田さん!」
「西園寺さん、お疲れ様です。真尋くん、お帰り」
階段を下りてくる二人に気づいた茜が笑顔で駆け寄ってくる。
「え、お前なんで・・・」
まさか駅まで来るとは思っていなくて、唖然とする真尋に向かって茜がスマホを揺らした。
「何時に戻ってくるか訊いたでしょ?」
「てっきり家に来るだろうと・・・」
「迎えに来たかったから・・・・・・悪い?」
「いや、悪かねぇけど・・・」
予定外のお迎えにどういう反応を返していいのか分からない。
今更ながら、雫に吐露した自分の気持ちを思い出して、気恥ずかしさが込み上げて来た。
大量に買ったお土産のほとんどは茜に向けたもので、それを雫の前で差し出すのも何だかなと迷い始めた真尋の前で、茜が雫に向かって声を上げた。
「・・・・・・あの、西園寺さん!」
「はい!」
「こ、この間・・・お話した真尋くんに私の担当を外れて貰うっていう話なんですけど・・・」
「あ、はい!それがですね・・・」
もう耳タコ状態のこの話題は、永遠に却下し続けるととっくの昔に決めている。
「だから、外れないって・・・」
呆れたように口を挟んだ真尋の言葉尻を掬うように、茜が声を張り上げた。
「無かったことにして頂けますか!?」
「・・・え?」
ぽかんと間の抜けた表情になった雫に向かって、真っ赤になった茜が続ける。
「あの・・・や、やっぱり、私の事を一番理解してくれているのは真尋くんなので、この先も支えて貰いたいなって思ってまして・・・突然こんなこと言って申し訳ないんですけど・・・」
彼女の言葉で、必要とされたのは初めての事だった。
込み上げてくる高揚感と達成感で胸がいっぱいになる。
長年取り組んでいた新薬開発にこぎつけた時以上の圧倒的な幸福感が押し寄せて来た。
「あ、はい、勿論です!私もその方が良いと思いますので!この状態を維持するということで。では、私はお先に失礼しますね。麻生さん、
満面の笑みで挨拶を口にした雫が、停まっていたタクシーに乗り込む。
ここが往来で、両手が塞がっていて本当に良かった。
二人きりで両手が空っぽだったならば、間違いなく彼女を抱きしめていただろうから。
自分たちの間に存在する関係性がなんであれ、彼女が側に居て欲しいと願ってくれるならそれでいい。
一足飛びでこの距離を詰める必要なんてない。
無理に彼女の日常に変化など起こさなくとも、こうして笑い合える時間があるなら、いまはそれで十分だ。
「・・・・・・急に気が変わった?」
「・・・・・・心持ちが、変わった・・・・・・後、迎えに来たのは・・・・・・お願いがあって」
まだ赤い頬を抑えながら茜がこちらを窺ってくる。
「ん?なに?なんでも聞いてやるけど」
心から本音を告げれば。
「・・・・・・クロワッサン買って。こないだの・・・ひしゃげちゃってたから」
照れたように視線を逸らした茜が、駅前のパン屋を指さした。
「・・・店ごと買ってやろうか?」
「何言ってんの!?」
真剣な真尋の返事に、茜が弾かれたように笑い声を上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます