第19話 リソソーム
「えーそれでは、来週からスタッフの皆さんには少々無理をお願いする事もあるかもしれませんが、施設環境の向上と、第二オメガ
施設長の挨拶が終わって、食堂に集まっていた出勤中のスタッフがそれぞれの持ち場へと帰っていく。
茜の隣で肩を回してからうーんと大きく伸びをしたのは横原だ。
「施設長の話長かったわねー・・・厚労省が来たらもっとピリピリするだろうねー」
「たぶんね。お上の機嫌は損ねないに越した事ないもん」
オメガ保護法の成立施行以降、オメガ保護施設や療養施設への補助金制度が設けられているが、それもごくわずか。
第二性別検査が義務化されてから、若年層オメガが増えていることもあり、保護施設や療養施設への相談や問い合わせは後を絶たない。
現在オメガ
スタッフを増やして受け入れ態勢を充実させれば当然人件費がかかる。
厚労省からの補助金増額に希望を抱かないわけがない。
昨今増加している若年層オメガを狙った違法ドラッグ事件を重く見た厚労省は、麻薬取締官をオメガ
オメガの存在や抑制剤についてより詳しい知識を得るためだ。
短期研修として、メディカルセンターとオメガ
マトリを受け入れる事になったオメガ
ここで少しでも厚労省とのつながりを強くしておきたいのだろう。
「でもマトリって・・・テレビのニュースでは見たことあるけど・・・」
違法薬物所持で検挙、というニュースはちらほら見かけることがある。
が、実際に彼らがどんな風に仕事をしているのかはさっぱりわからない。
恐らく、若年層オメガをターゲットにした事件が起こらなければ、関わり合いになることもなかっただろう
「なんか怖いイメージあるよね」
「そうよねぇ。どうする?強面のおじさんが来たら」
茶化すように横原が笑った。
「入院患者さんたちが怯えない容貌を希望」
「移動はスタッフルートだから、会うのは私たちだけよ」
「じゃあ威圧感のない穏やかな人を希望」
「超絶イケメン!とかないの?」
「そんなイケメン来たら、仕事手につかないし、万一アルファだったら対応に困るよ」
「あー・・・まあ、でも、マトリの中でも相当エリートの幹部候補が来るらしいから・・・可能性もなくはないよねぇ。いまも全くだめだっけ?アルファ」
「駄目っていうか・・・苦手。昔みたいに走って逃げることはもう無いけど、極力近づきたくない感じ。
「今時の若いオメガは
「こわっ!たくましすぎない!?」
「優秀なアルファは早い者勝ちだから、唾付けてなんぼってことじゃないの?」
「菜央さんの妹さんもそれ言ってる?」
「
オメガ
とてもじゃないが、運命の番探しに乗り出せるタイプではない。
「ほら、こういう考えが社会人オメガでは一般的なのよ」
「でも、
茜がオメガであることを打ち明けた時、横原は少しも後ろ向きな言葉を口にしなかった。
妹もオメガであること、妹の治療のためにこの町に越して来たことを告げた彼女は、運命の番を探す権利を橘田さんは持ってるのね、と朗らかに笑った。
あれから、どれだけ茜がアルファ探しはしないと言っても、気持ちは変わるものだから、と言って彼女は取り合おうとしない。
恐らく、茜と妹を重ねて見ているのだろう。
「・・・・・・有難いけど・・・・・・私たちオメガがおばあちゃんになる頃には、もっと色々制度が整って、オメガが一人でも孤独にならない世の中になっててほしいよ」
「じゃあその為にも。頑張ってマトリの機嫌取らなきゃねぇ」
茜の肩を気安く叩いた横原が、でも私は観賞用のイケメン希望だわ、とニヤッと笑った。
そして、やって来たマトリがきっかけで、波乱は起こったのだ。
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