第37話 ゲノム-1
「無理にお誘いしてしまったんじゃないでしょうか?」
「いえ、私たちも都築さんとお話したかったので、お声がけ頂いて良かったです」
「うちの女性スタッフはみんな都築さんのファンなんですよ!このままずっとオメガ
都築の言葉に、笑顔で返した茜と同僚の横原にホッとしたように肩の力を抜いた彼が、僅かに頬を緩めた。
オメガ
「そんな風に言って頂けると有難いです。なかなかお仕事中に色々お聞きするのが難しくて・・・・・・込み入った内容もあるかと思って個室にしたんですが、橘田さんは、大丈夫ですか?もし、ご不安でしたら席を変えて貰うようにお願いしましょうか?」
さりげなく茜への気遣いを見せた都築に、茜は慌てて首を横に振った。
仕事の後少しお時間をいただけませんか、と都築から尋ねられた時には何事かと身構えたが、同僚の横原も入れて三人で、オメガのことについてもう少し掘り下げた質問をしたい、と言われて、それならと頷いたのだが、まさか終業時間に合わせてタクシーを呼んで、隣町の本格中華をご馳走して貰えるだなんて思ってもみなかった。
運ばれてきた料理は予約限定のコースメニューで、贅沢なふかひれスープなんて、食べるのは人生で二度目だ。
遠慮なく召し上がってくださいね、と微笑んだ都築からのさらなる気遣いは有難いけれど、茜としてはこれ以上の待遇は無い。
「いえ。平気です。むしろ、広いフロアでアルファの方がいるほうが、私は困るので・・・・・・」
都築には初日の挨拶の際に、自分がオメガであることを伝えてあった。
茜の返事に都築が承知しましたと頷く。
「わかりました。では席はこのままで・・・・・・・・・あの、橘田さん、ぶしつけな質問で恐縮なんですが・・・橘田さんはアルファが苦手だと、同僚の方からお聞きしていました。そういうオメガの方は少なくないという認識もしています。ですが、僕がこちらでお世話になってから、一度もあなたに避けられた記憶がない・・・・・・これは、無理をさせてしまっている、というわけでは・・・」
「そうじゃないんです。実際、都築さんにお会いするまでアルファは全般的に苦手でしたし自分から近づいたこともありません。でも、不思議と都築さんからは、アルファ特有の嫌なフェロモンを感じないんです。もちろんお仕事でこちらに来られてるんですから、邪な気持ちがないことは百も承知なんですが、それでも、ほかのアルファとは違う何かがあって・・・・・・私もずっとそれが不思議だったんです」
干し鮑の姿煮込みを頬張りつつ、伊勢海老の炒め物にも手を伸ばしながら衣笠茸の蟹肉あんかけを茜に進めてくる横原の手元と目元には一瞬の隙もない。
「あ、これはほんとで嘘じゃないですよ。お見舞いに来られた方の中にアルファが居るとすぐに察知して逃げちゃうんで、私も都築さんに対する反応には驚きました」
妹がオメガである横原が、何が理由なんでしょうと興味深げに首を傾げる。
「そうでしたか・・・・・・僕は昔から感情があまり表に出ない質でして、こういう仕事柄、潜入捜査や聞き込みで自分を偽ることも珍しくない。恐らくそういったことが原因でアルファ属性が表に出ないタイプなのかもしれません・・・」
「なるほど・・・あの・・・・・・・・変な質問かもしれないんですが・・・都築さんが、自分の感情を隠せなくなる瞬間って、あるんでしょうか?」
甘い飲み口の桂花陳酒でほどよく思考が緩んで来ていたので、そんな質問を口にしてしまった。
横原が居なかったらアルコールを飲むことは無かっただろう。
基本的外では飲まないようにしているのだ。
「たしかに、うちにいらしてから、ずっと冷静で穏やかでいらっしゃるから、マトリってこと自体信じられないよねってみんなで話してたんです。だって結構武闘派なこともなさるんでしょう?」
横原の質問に、都築が苦笑いを浮かべた。
「そうですね・・・密売人を取り押さえる際には乱闘になることもよくありますし、座り仕事で一日が終わることは滅多にありません。ですが、常に冷静でいなくては自分も部下の身柄も危うくなるので、自分を律している自覚はありますね・・・・・・心底気持ちを緩めたことは、まだないかもしれない」
「じゃあ、もしかするとそういう時にアルファのフェロモンが強く出るのかもしれませんね」
「僕からも質問していいですか?」
「はい。もちろんです」
「オメガの方が
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