chapter2「優しいね」 その2
土曜日 アパ―ト・タフィルーズ王子
「暑い」
実家から布団は持って来たものの、昨日あたりから急に気温が上がってきたせいか、毛布が暑苦しく感じる。
やることもないし、タオルケットでも買いに行くか。
しかしだるい。正直買いに行くのは億劫だ。どうする? 行くか、行かないか。
俺はいつだってこういう選択は正しい方を選べて来たはずだ。さあどうする?
……よし、タオルケット買いにいくついでにマ〇クに行こう。これが正しい選択。間違いない。というか、ポテト食べたい。
ガチャリ
ガチャリ
玄関を開けると、デジャブの様に隣の戸も開いた。
「……!」
隣人の少女が、またもデジャブの様に驚いた表情でこちらを一瞥する。
「おはよう! それじゃ!」
いつもの作り笑いで挨拶。そろそろ名前覚えた方がいいか? 表札に書いてあるし、一応確認しておこう。……帰ってきてからでいいか。
振り返るときっと彼女と目が合ってしまうだろう。変に意識してしまっているためか、それはちょっと恥ずかしい。そそくさと立ち去らせてもらおう。
*
インテリアショップ・〇トリ
寝具に机、椅子、カーテン。他にも雑貨が色とりどり。新生活の強い味方であるのは間違いないが、休日なので、家族連れの多いこと、多いこと。独り身にはまるでアウェイ、どうやら味方ではなく敵のようだ。味方を勝手に敵扱いするのは、俺の悪い癖だな。
俺はさっさと目的の寝具コーナーに向かった。
適当に一番安そうなものを手に取り、そのままレジに向かう。俺の購入時間は一分にも満たない。神速のショッピングだ。
と、そこで角から二人の人影が現れる。
「あ」
あ。知ってる顔だ。
そうだ、陸原さんだ。隣に知らない男性がいるが。まあいい、取り敢えず無視だ。気付かなかったふりをしよう。
何だ? 陸原さん、どこかの隣人さんみたいに驚愕した顔をしているじゃないか。俺とたまたま会ったからってそこまで驚くか? いや、気にしても仕方ない、無視だ、無視。
俺はいつものごとく足早にその場を去った。
しかしまあ、こうやって知っている人間と顔を合わすとはついていない。どうやら俺は珍しく間違った選択をしてしまったらしい。外に出なければ、誰とも会わなかっただろうし。
……っていうか、陸原さん、陽キャな人だとは思っていたけど、彼氏持ちとは流石だな。普通に考えて、大学入学してまだ間もないのだから、そうそう恋人なんてできないだろう。いや、出身の高校が近ければ、その時の恋人って可能性もあるのか。そういや高校近いとか何とか言ってたな。言ってたっけ? 駄目だ、忘れた。
陸原さんのことは置いといて、用事を済ませよう。今日はタオルケットを買いに来たんだ。
あー、くそ、何でタオルケットなんて買わなきゃいけないんだ。ってか、今気づいたけど、タオルケット持ってどうやって飯に行くんだよ。バカだな、俺。ホント外出なきゃよかった。
俺はレジをパパっと済ませ、これまた足早に帰宅した。
外はやや暑い。温暖化か? 少し前まで冬だったろうに、もう夏になろうというのか?
どうやら春はまだ来ないらしい。
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