裏から表へ

俺は光っている側面を見ている。

真っ赤になっている顔から明らかに怒っている事が分かる。

『さっきの声の正体はこいつか?』

 流石に寝すぎたかもだがそこまで怒らなくても良いだろうに。

 そう思いつつも泊めて貰っている身、丁寧な言葉を使って返答する。

『すぐそちらに向かうのでもう少し待っていただけませんか?』


 そう言い少し待ったが返答は他、身振りすらも帰ってこない。

 顔は相変わらず真っ赤なままで、まるでこちらの声が聞こえていない様だった。

 確証を得ようと手を振ってみたり、グーを作ってみたり、中指を立ててみたりしたがやはり何も帰ってこない、まるでこちらの事は見えてすらも聞こえてすらもいないようだ。


 ならば何故顔を真っ赤にしているのかが分からず、その理由が気になり、光る側面に目を向ける。

向けてから少し経つと女性の姿が見え、喋りだした。


「俺様の妾にしてやろうと言っているのだ!ありがたく思うが良いわ!」


「ふざけるな!お前のような奴に心を捧げたい者など誰一人としておらぬわ!」


「何を女の分際でぇ…!決闘だ!二度と口を聞けぬように徹底的に嬲ってやる!」


 俺様とか言っているダサい男が下卑た笑みを浮かべながら剣を抜く。

 見ているかぎりだと男が悪だな、これ。

 というかあの剣…俺が昨晩振るっていた剣では無いか!

昨日切った木や岩等の破片や、無理をしたことで生じた刃の欠落、完全に昨日の剣だった。

『あぁ、あれあの人のだったのか。

まああいつに対して罪悪感は湧かないな〜、性格があれだし』


 男が女に手袋を投げつけ強制的に試合が始まる。

とはいえ女の方もはなから決闘を受けるつもりだったらしいが外野《野次馬》の方も騒がしくなってきた。

 外野が言う限りなんとこの戦いは見ものとの事らしい、なんと魔法の天才と武の天才だとか…え?


『魔法?魔法なんて有るのこの世界!?』


俺は刀や型の練習をしている時たまに思っている事が有る、

それは魔法という存在が有れば俺は更なる高みへ行けるのでは無いか?という事だ。

多分だが武を極めんとするものは誰しも一度は憧れた事が有るだろう、魔力と言うドーピング剤に。

違法ではなく、身に着ければ己が力となる、まさに最高のドーピング剤だ。


そんな事を考えていたら両者が剣を構え試合が始まる…。

のだが男の方は試合が始まった途端剣をしまい魔法を発動させようと手を前に突き出す。


女の方は体制を低くし、すぐ動ける体制をとる。

勝負あったな、と思ったその時。

自分の脈という脈が光りだし、さっきまでは真っ暗だった部屋?も同様に光りだす。

俺は少し戸惑ったが、直ぐにこれが魔力だと理解した。

何故なら気力と感覚が同じだったからだ、感覚的には色違いという言葉が適切だが。


『これなら気と変わらんでは無いか、いや、気と扱いは同じなのだろう、だがこれは気と併用させることができるかもしれんな?』


俺は心を震わせていた、自分を更なる境地へ導ける可能性、魔力に。


『っとと、さて結果はどうなったかね。まぁ大体分かってはいるけど』


予想通り男の方が負けていた、そして周りは興味を失ったのかそれぞれ帰っていく。


『はぁ、あの人には後で謝らないとなぁ』


先ずここを出るために周りを見る、するとテレビのような光から声が聞こえてくる。


「俺はまだ負けていない!女なんかに負ける訳が無い!俺様は、俺様は特別なんだぁ!」


そう言いながら剣を持って突進する男の姿が映し出され。

その行為を前に女はあっさりかわし、首に一撃を入れて気絶させる。


男が気絶したその時、体が浮いたような感覚が襲ってきて視界が明るくなる。

気が付くと既視感の有る大地に立っていた。

何故外に出れたのかは不明で、ここをどこで見たかすら思い出せない。

しかしどこで見たかを考えながら目を前に向けると合点がいった。


ここは今さっき男と女が戦っていた場所だと。

何故わかるか?そう言われたら答える言葉は一つしか無い。

今さっき男と戦っていた女が驚いた様子で目を見開きながら俺の目の前に立っているからだ。

だが周りを探るように見てもいまさっき気絶した男の姿が見つからない。


そのように周りを見ていると放心状態から帰ってきた女が後ろに飛び跳ね警戒心と敵意剥き出しの視線でこちらを睨み付けてくる。

そんな女の様子に俺はまさかと思い近くにあった湖で自分の顔を見る。

そうしたらなんと今さっき気絶した男と同じ顔が写っているではないか。


「まじかよ…」


だがこれは好都合と思い目の前の女に視線を向けて頭を下げる。


「今さっきはすまなかった、俺がお前に勝手な妄言ばかりを吐いて本当に申し訳ない。

こんなこと、無理を承知で頼むのだがもう一度手合わせ願えないだろうか?」


止音…いや、ウルスラグナが頭を下げるとは思ってもいなかったのだろう。

真底驚いたという顔を浮かべ、警戒しながら言葉を返す。


「…分かった、その謝罪に免じてあと一回だけだが手合わせをしてやる」

「ありがとう、麗しの戦乙女その御心に感謝するよ」


そうして模擬戦が始まる。

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