第22話 仮パーティー
気持ちの良い朝を迎えて、今日と言う一日が始まるには最高のスタートだ。探索者組合の受付も爽やかな朝に相応しく、みんなの顔も晴れ渡っている………わけはなく、全員が暗い顔をしているわけではないが、特別上機嫌でもない。
習慣とは恐ろしいもので、今日の少年は一人で探索者組合の受付に来ている。横には黄銅ダンジョンの入口が探索者をいつでも歓迎するように大きな口を開いていた。
今日は女騎士は聖騎士団の方でやらなければならない公務があるとか何とかでいない。ゼル一人だ。別に休みにして、家で休養しても良かったのだが、身体を動かしていないとウズウズしてくる。半年間、毎日のようにダンジョンに通っていたこともあって、癖でつい探索に来てしまった。
「地下二十一階層からはどんな魔物が出るのかな」
先日のセリアとの黄銅ダンジョン攻略で地下二十階層まで到達し、受付に報告して、今のゼルは黄銅ダンジョンの地下三十五階層まで潜れるようになっている。ナントの黄銅ダンジョンは地下三十五階層が最深部だ。ここを攻略すればナントの街でこれ以上の地下へ潜れるダンジョンはなくなる。探索の幅を広げるなら別の街に行かなければならない。
どう考えているのかな、少年は受付の横に備え付けられている誰もが閲覧できる資料を捲りながら、ボーッと考えいる。魔物化を防ぐ方法を探すとは言ったものの、魔物系にも効くスキルリセット書ぐらいしか思いつかない。他にも方法があるのかもしれないが、皆目見当もつかない。
スキルリセット書に重点を置くべきだろう。なら、このナントの街から出て、他のダンジョンにも潜るべきだ。長い歴史の中で見つかっていないものが、自分の住んでいる街にたまたまあるなど奇跡に近い。当然、期待などできない。
資料を捲る手が止まった。黄銅ダンジョン二十一階層についての記載がある。
力、技共に今までの魔物とは一線を画し、万全の準備が必要、でなければ敗北は必須。と注釈が書かれている。強そうだな、少年は食い入るようにその挿絵を見た。身体がウズウズしてくるのを感じたが、女騎士の言葉を思い出して、気持ちが萎えた。
―――勝手に一人で地下二十一階層には行かないことを約束してくれ、私の目の届かない範囲で何かあっても助けられない。
心配し過ぎじゃないかな、少年は資料を閉じた。魔物の強さも今のところは問題なく斃せるレベルだし、身体にも特に違和感を感じない。魔物化の過程がどんなものか判らないが、そこまで心配するほどではない気がする。それでも、ゼルはセリアとの約束を破るつもりはなく、席を立った。
「おい!そこのお前」
またブラックシープを狩りに行く気にもなれず、帰ろうかと入口に向かっていると声をかけられた。
「お前だよ、お前!高等級の探索者に寄生して、ズルしている奴だろ?こんなガキだとはな………」
お前、お前、と言われても判らない。少年には立派なゼルという名前がある。振り返る少年はその青年を見つめた。
「僕の名前はゼルって言います。お前ではないです」
「あぁ?判ってるよ!そんなこと!これだからガキは………」
青年はイライラしたように舌打ちをした。何をそんなに怒っているのだろう、こんな態度を取られる謂れはないゼルは首を傾げる。青年の後ろには似た年齢の男女が一人ずついた。
「お前、ズルしてるって認めるか?」
「ズルって何のことですか?」
青年は大きなため息をつき、頭をボリボリ搔き出した。この反応は知っている、呆れている時にやる反応だ。少年の暢気で自分のことでも他人事にみたい考える癖は相変わらずだ。
「お前の探索者等級だよ!黒鉄ダンジョンを踏破したなんて嘘ついて、等級を上げて貰ったんだろ?それがズルじゃなくてなんて言うんだ?」
「ズルじゃないですよ。黒鉄ダンジョンの最深部にいる
「だから!お前の実力じゃねえだろ!バルムスタ団長に寄生してるだけじゃ、お前の実力とは言えね!そもそも何で聖騎士団の団長と一緒にダンジョンを潜っているんだ?団長も団長で何でこんなガキ何かと………」
やはり女騎士はこの街では有名人みたいだ。探索者からも一目置かれている。それも当然だ。誰もが振り向くほどの美貌を持ち、若くして団をまとめ上げ、街を魔物の脅威から守っている。その上、探索者としての実力もあり、自力で白金等級になっている。誰もが羨望の眼差しを向けるのも頷ける。結構子供っぽいところもあるけどね、少年は世間のイメージとは違ったセリアの一面を思い出し、小さく笑った。
「………何が可笑しい?」
しかし、この場では火に油を注ぐ行為だった。自分が馬鹿にされたと思った青年は顔を真っ赤に染め、抑えが効かなくなっている。
「もう我慢ならねぇ!俺がお前の化けの皮を剥がしてやる!今から一緒にダンジョンに潜るぞ!」
何でそうなるのか、何だかよく判らない展開に少年は困惑し出した。
「ちょっと!リオン、何言い出してるのよ?」
後ろに控えていた足首まで覆い隠せる長衣を着た女が割って入った。
「今から俺たちと一緒にダンジョンに潜ってこいつの実力が本当かどうか確かめるんだよ。どうせ今からブラックシープを狩りに行くつもりだったんだ。別に問題ないだろ」
「問題大ありだろ………強引過ぎる」
動きやすそうな革の軽装の男も会話に参加してきた。腰に矢筒がある、レンジャーだろうか。
「おい!ゼルって言ったな、お前に拒否権はねぇ。拒否ればお前をズルした腰抜け野郎だって組合中に言いふらしてやる」
別に言いふらしてくれても構わない、そんなことは気にしない。ただ、少年はセリアに風評被害が及ぶかもしれないと懸念した。それに、丁度暇を持て余していたところだ。一人でブラックシープを斃しに行ってもつまらなさそうだったし、他の探索者の戦いってのを見てみたい。
「いいですよ」
屈託ない返事に青年は少し怯んだ。
「お、おう………強がって、後で泣いても知らねぇからな!」
話がまとまって一向はダンジョン入口に向かうが、青年の連れの二人は頭を抱えていた。少年はダンジョンに入る前に例の女騎士の言葉を思い出したが、小さくかぶりを振った。
「一人で地下二十一階層に行くなってことだし、大丈夫、大丈夫」
セリアの忠告より好奇心が勝った。
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