第15話 派閥
魔物との調和を目指すバトゥース会と人間に害を為す外界の魔物は全て根絶させるべきと考えるギメス会。その支持者の多くは大切な人を魔物に奪われた者たちだ。守りたい大切な人がいる者とその大切な人をすでに奪われた者、どっちが正しいなどと言えるだろうか。
「大切な人を奪われて絶望に沈んだ者を私も見てきた。根絶やしにしたい気持ちも判らないでもない。しかし、だからと言って、守るべき街を離れ、魔物との境界線である魔境まで遠征するのは間違っている。その間の街の守りはどうするつもりだッ!」
冷静さを欠いて怒りに震える女騎士は見ていて痛々しかった。やっぱり正義感が強い人なんだな、少年のセリアに抱いた当初の印象がまた一致した。
「まぁまぁ、セリア、落ち着きなさい。今この場ではあまり関係話だ。ゼル君も戸惑っているよ」
「すみません………」
「さて、話を戻そう。さっきセリアが言ったことはこの派閥に関係している。私たちはバトゥース会に属しているから、たとえ、君が魔物系のスキル書を意図せず読んでしまったとしても、私たちは君を積極的に排除したりはしない。寧ろ、娘の不手際に依るものだ。積極的に君の魔物化を阻止する手段を手伝うつもりだ」
排除なんて物騒な言葉が飛び出したが、その心配はないみたいだ。自分が害されるなど欠片も懸念していなかった少年だが、何だかホッとしていた。しかし、冷静に考えれば魔物になれば討伐対象にされても可怪しくない。そう考えるとゾクッとする思いだ。
「協力してもらえるなら嬉しいです。ドラゴンはカッコいいと思いましたが、家族に会えなくなると思うと寂しいですから」
「君は変わっているね。いや、悪い意味で捉えないでほしいんだが、魔物系のスキル書を読んだ者に出会ったことはないが、魔物化すると考えるともっと深刻に捉え、落ち込んだりするものと思ったが………いや、すまない。気にしないでくれ」
何だか似たようなことを最近言われた気がする。バルムスタ枢機卿の隣に座る女騎士を見ると何故か得意げな顔している。変、変って言われるけど、セリアさんも変だと思うけどな。今度は少年が不満気だった。
ここで勘違いしてはいけないのが、バトゥース会は魔物との調和を目指しているが、大元の教義である魔物系のスキル書の使用禁止に反対しているわけではない。魔物系のスキル書の使用禁止に両派閥共に異論はない。人々を魔物にするわけにはいかない。バルムスタ枢機卿は少年に念押しした。
「魔物化を防ぐ方法を探すのは良いのだが、ここで問題がある。君の存在を何としてもギメス会に知られるわけにはいかないのだ。知れば奴らは君を排除しようと動き出すだろう。だから、このことはこの場の三人だけの秘密にしたい。君の家族にも内緒にしてくれないか?」
枢機卿の言葉にテーブルを見て逡巡するゼルは、すぐに顔を上げた。
「判りました。万が一家族に何かあったら嫌ですし、僕はそれで構いません。ところで、魔物化するってことですけど、どのくらいでなるものなんですか?」
「それが実はよく判っていないんだ」
詳細不明な理由はいたってシンプルだ。実例がない、それに尽きる。魔物系のスキル書を禁忌とし、教会が一律で処分している為、スキル書を読んだ者に出会うのは稀だ。会えたとすればそれは非合法の裏の世界の人間であって、決してまともではないだろう、当然、教会などに来るはずがない。
研究の為にわざと魔物系のスキル書を読んで魔物化の経過を観察するなどは論外だ。魔物系のスキルをリセットする手段がない中では
「昔の古い文献に数年かけて人が魔物になるっと言う記述があるにはあるが、それもどこまで信用性があるか怪しいものなのだよ。兎に角、なるべく早くその方法を見つける他ない」
なるほど、明日、明後日に魔物に成るわけではないみたいだ。その文献を全面的に信用するわけにはいかないが、大きくハズレているとも思えない。明日ドラゴンになる自分の姿なんて想像できないしな、少年は不思議な納得感と違和感を感じた。
「それでどうやってその方法を見つけるんですか?今までの長い歴史の中で発見できなかったことを見つけるのは大変そうですよ?」
「何も難しいことはない。ダンジョンが齎した問題はダンジョンが解決してくれる。未だ発見されてないだけで必ずダンジョン内にあるはずだ。だから、私と君でダンジョン探索を徹底的にやる。君もダンジョン探索をやりたかったのだから、丁度良い」
謎の自信に包まれた女騎士の発言に不安を感じた。基本的に楽観的なゼルも少しの行き先の不安を感じざるを得ない。とはいえ、行動しないことには何も解決しない。探索を楽しみながら目的のものを見つける。正に
少しの不安と大きな期待、それは少年の未来の陰と陽を示しているようであった。
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