第6話 地下二階層
幅広な通路が広がっていた。一本道であることには変わりないが、横に二人並んで歩くのが精一杯だった地下一階層に比べて、ここは三人で歩いても余裕がありそうだった。
その分、大きい魔物が出るのかな、ゼルはこれまた地下一階層と同様に設置されている松明の明かりを頼りに先に進んだ。
未知の階層に胸が高鳴る反面、恐怖心は薄かった。戦ったことのない魔物と出会すだろうが、未知と言うわけでもない。
地下二階層にはローバットと小鬼がでる。ローバットは全長一メートルほどある蝙蝠の魔物だ。羽を広げればもっとデカい。ローとはどういう意味だろう、少年はその由来は知らなかった。
小鬼に関してはあまり説明の余地がない。物語にもよく出てくる鬼の子供で、一体一体は大した力はないが、集団で行動することを好む。しかし、数の理を生かした連携ができるほどの知性はない。
踏破済みのダンジョンなので当然、先駆者の事前の情報がある。ゼルは熱心にダンジョン攻略に関する知識は蓄えていた。
腰の棍棒はすでに抜いている。事前の情報があるとはいえ、油断はできない。風もないし、暑くも寒くもなく丁度良いぐらいだな、魔物以外は地下一階層と大した差はなさそうだ。
足音が聞こえた。一人ではなく、複数だ。ペタペタと歩く音ということは小鬼か。棍棒を握る手が自然と強くなった。あれ?こんなに耳良かったかな、緊張しつつも、余計なことを考える余裕はあった。
すぐにその姿を視界に捉えた。腰みののみで棍棒を引きずるその様はあまりゼルと変わりない。少年も薄い布切れで全身を覆っているだけだ。違うとすれば肌が緑色なことぐらいだろうか。
「三体か………」
複数で行動していることは知っていたが、初戦から多対一は気後れする。万が一にも連携され、死角を突かれれば厄介だ。全身に力が漲ってはいるが、頬に嫌な汗をかいた。
一体が少年に気づいたことを皮切りに、三体が同時に駆けてきた。動きはスケルトンよりちょっと速いといった具合か。避けるには問題ない。ただ、反撃をどうするか迷う。一体を攻撃している間に他の二体の反撃を受けるかもしれない。
あれこれ思考を巡らせていた少年は急に細かいことを考えるのが億劫になった。直感を頼りに横一列で迫ってくる小鬼たちを棍棒で横に薙ぎ払った。一体目は完全に潰れ、二体目は身体の原型は辛うじて留めているものの、生きているとは思えない。三体目は苦しそうに呼吸をしているので、生きていることは判るが、虫の息だ。
三体目の小鬼がふらついた足を引っ掛け転けた。少年を見上げるその瞳は恐怖に染まっていた。そのまま脳天めがけて振り下ろそうとした時、異変に気づいた。
棍棒も持ち手の根本から折れていて、打部は小鬼と共に潰れていた。驚異的な破壊力である。小鬼が単に柔いだけなのかな、いや、棍棒がこんな風に潰れるものか。ゼルは悩ましげに首をひねるが、明確な答えなどなかった。
ダメージ少なかった三体目は曖昧だった意識を取り戻し、再度、少年に襲いかかった。武器がなくなっちゃった、迫り来る小鬼に焦る素振りも見せないゼルはそのまま小鬼を殴り飛ばした。勢い良く壁に打ち付けられた小鬼は地面で一回跳ね、そのまま動かなくなった。
やっぱり何かが可怪しい。倒れている小鬼たちにも目もくれず、少年は奥へと歩を進めた。まだ戦っていない奴がいる。
通路には静寂が満ちていた。が、少年の歩調に合わせるように、空気が揺らめいた。咄嗟に伏せたゼルの頭上を何かが通り過ぎた。これがローバットか、蝙蝠の魔物は天井からの攻撃を得意としていた。
ローバットは少年の前で滞空している。口を大きく開け、何かをやっているようだが、ゼルに特に変化はない。一体何なんだろう、またもや首をかしげるが、小鬼の時と同様に直感を頼った。
何をやっていても関係ない。少年は大きく地面を蹴り、ローバットへ距離を詰める。少年の接近に気づいて、ローバットは羽をばたつかせているが、拳が顔面を捉えた。
小鬼同様に跡形もなく潰れた。絶対に何かが可怪しい。難なく地下二階層を攻略したゼルは釈然としない気持ちが大きかった。漲る力と万能感は今だ健在だ。ただ、納得がいかない。
「僕の『光の戦士』の部分は?」
思わず独り言ちていた。とても『光の戦士』の戦い方とは思えない。もっと華麗に戦うイメージがあった。こんな野蛮では決してない。決め付けるのは早計だが、そう思うのも致し方ない。
「あっ!いけない、地下二階層の魔物の戦利品ってどれなのか訊くの忘れてた」
ソロ探索者の常で、何かあればすぐに声に出してしまう。聞いている者など誰もいないが、またにそれが急に恥ずかしくなったりする。少年はそれ以前に考えること、気になることが多過ぎてそれ所ではなかったが。
「まあ、いいや。後でギルルヤさんに訊こっと」
戦利品も納得いく戦果も得られないまま、ゼルは早目にダンジョンを後にした。
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