喫茶店「DAWAN」

 バスの通りも多く、通勤通学時間には渋滞もそこそこ発生する大通り。

 その道を、一本入った筋にある喫茶店。


 閑静な住宅街の入口に鎮座し、よく手入れの行き届いた門柱代わりのチェリーセージとローズマリーがアーチを作って来客を出迎え、足元には、絨毯のように敷き詰められた多様なタイムたちが青々としている。

 二台ほど停められる駐車場の奥には、孔雀のように大きく花を広げたラベンダーが匂いたち、刈り込まれたオリーブと月桂樹の影が、店先の道路に優しく影を落としている。

 ガラス越しに路上から見える店内は、ゆったりとした一時をペットと共に愉しむ客人たち。


 ここは、ペット同伴喫茶「DAWAN」。

 あることがきっかけで、その筋では大変人気の喫茶店である。


 さて、地味な色のスプリングワンピースを羽織り、猫背気味の背中には、バサバサの黒髪がかかった女性がキャリーバッグペットを連れて通りかかってきた。


 彼女がアーチをくぐり、玄関の扉をおそるおそる開く。


「いらっしゃいませぇ~。」

 明るい張りのある声と共に、ピンク色を基調としたドイツ民族服ディアンドル風のドレスを着た香澄がミカを従え、客人を迎える。

 客人がゆっくりと目線を上げてくる。

 眼鏡にマスクで判断し辛いが、歳の頃は香澄に近い感じがする。


「あ…あの…こちらは、ペット同伴で…。」

 おずおずしている女性。


「わん!」

 ミカが元気づけるかのように、女性に吠えかける。


「ひっ!!」

 ミカに吠えられ、背筋がピッ!と延びる女性。

 延びた拍子に、眼鏡とマスクはズレてしまい、何とも間抜けな風貌になる。


 そんな彼女の顔から、眼鏡とマスクを取り去る香澄。

 ミカはしっぽを振って、彼女に愛情表現と言わんばかりに身体を擦り付ける。


 一連の動作に、店内の客人は誰一人振り返らない。

 誰もが、共有してる時間を心から愉しんでいる。


「さぁ、こちらへどうぞ。」

 香澄に促され、席に移動する女性。


 ネコを連れたご婦人の席まで来ると、香澄に向かい側へ座る事を促される女性。

「し…失礼します。」

 ソバカスの残る女性を前に、快く相席を了承する婦人。

 婦人の傍で鳴いていた猫も、今は机の上に箱座りしている。


 注文する間もなくハーブティーが届けられ、驚く女性。


「ご安心なさい。

 初見さんへのサービスよ。」

 婦人はにこやかに話しかけ、キャリーバッグペットに目を向ける。

「その子も、退屈そうね。」


 女性は、ハッとすると、慌ててキャリーバッグの扉を開ける。

 中に居るのは、たれ耳ウサギ。

 ネコが怖くて外に出てこれない。


 すると、いつの間にかミカが席の傍に来ており、ウサギとネコに何か話しかけている。

 ミカが席を去ると、おずおずと外に出てくるウサギ。

 ウサギはネコの前までやって来た。

 すると、ネコはゆっくり立ち上がり、我が子を可愛がるように、ウサギの額を舐めだした。

 ウサギはその場で箱座りし、ネコも寄り添うように箱座りした。


「どんな話をしてるのかしら?」

 それまでの光景に驚いていた女性を落ち着かせるように、婦人が女性に話しかける。


 女性も落ち着いたのか、婦人に話しかける。

 女性は背筋を伸ばし、相手の顔を見て堂々と話している。


「ミカ、ご苦労様。」

 香澄はミカの頭をやさしく撫で、ミカもしっぽを振って答える。

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