雨宿り

 さて、彼女シェットランドシープドッグに案内されるまま、林の中央に鎮座する大木のウロに通される。


「こちらは?」

「私の巣です。」

 彼女はそう言って、下草を拭き直している。

 そこへ持ち込んだ食料を置かせてもらった。


「ところで、アナタ何者?」

 下草に箱座りし、私に視線を送ってくる彼女。

 私も、彼女の前に箱座りする。


「私は、タツローと申します。

 今朝がた、無事にお野良のお墨付きをいただきまして…。」


「そういうことじゃなくて!」

 とぼけた私を睨みつける彼女

「二足歩行で走ってたわよね?」

 彼女の眼光が鋭くなる。


「気のせいです!」

「はぁ…。」

 さらにボケる私を見て、彼女はため息をついた。


 雨は降り続いている。

 その音を聞きながら、彼女は切り出した。


「私は、ミカ。

 もうすぐ二歳になるわ。

 私も…捨てられたようね。」

 彼女は寂しそうに笑った。


 ◇ ◇ ◇


 私が一歳半だと聞いて、彼女ミカはゆっくり立ち上がり、私のおしりの匂いを嗅ぎだした。

「!!!」

 びっくりして立ち上がる私に、動じることなく彼女ミカは、匂いを嗅いでいる。


「うん。

 もう少し、お子ちゃまかな?」

 そう言って、彼女はニコニコしながら、こちらに顔を向けてきた。


「…ということは、私はママかな?」

 中型犬は一歳半で成犬おとなに成るらしい。


 私は大型犬。

 成犬おとなになるには、二年かかるらしい。

 という事で、半年年上の彼女は、姉貴分というよりも、母親大人の女性ということになる…らしい。


 さて、そんな事を意識すると、途端に落ち着きがなくなる私。

 お恥ずかしい話であるが、父子家庭での生活が長い上に、男子校に入り浸っていた青春時代が板に付いていた私。

 只今、女性のお部屋に絶賛お邪魔中という事も手伝って、心臓の鼓動が高まり、今にも口から飛び出しそうである。


 そんな私を知ってか知らずか、彼女ミカは微笑みかけてくる。

「気にしなくていいわよ。

 ゆっくりしていきなさい。」


 後頭部を後ろ足で掻く仕草をしながら、自分を誤魔化そうとする僕を、彼女ミカはさらにニコニコと眺めている。


 そうこうしていると、お腹の虫が泣き出したので、持参してきた食事ドッグフードを開封し、彼女ミカと一緒に食べることにした。

 彼女ミカ一口食事ドッグフードを摂ると、無言で食べ始める。

 ツマミのビーフジャーキーも一枚ずつ分け合うと、彼女ミカは感動していた。


 さて、よくよく考えてみたのだが…私、犬語を理解できている?

 ワンワンという吠え声なりが聞こえているのは当然なのだが、副音声で人の言葉も聴こえてくるのだ。

「海外映画の副音声かな?」

「???」

 私のつぶやきに首を傾げる彼女ミカ


 はてさて、彼女ミカには、僕の声はどう聞こえているのでしょうか?

 意思疎通が出来ているので、良いのかもしれませんが…元人間としては、非常に気になるところだった。


 まだまだ、雨は止む気配がない。

 あいも変わらず、心臓に落ち着きは無いようで、眠れない夜がやって来そうである。

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